8話 ノア・ウィリアムズは勇者なのか?

ヴィンスは閉口してしまった。

『本物の勇者』を当てるつもりだったのにこれでは……。


「……どうかしましたか?」

「あ、いえ……ご紹介が遅れました。

 私は枢密院、副書記官長のヴィンス・ヴァーンと言います」

「よろしくお願いします」

「何度も聞くようで申しわけありませんが、ノア・ウィリアムズさんで間違いありませんね……?」

「そうです」


 ノアは淀み無く答えた。


「……分かりました。では、尋問を始めさせて頂きます」


 『違います』という回答であれば、どれだけ楽だっただろうか――


 だがもう仕方がない。

 こうなってしまったなら、探し出すしか無い。


 ノア・ウィリアムズが『勇者』である確実な証拠を――


 だが、ノアの尋問は難航が予想できた。


 なぜならば、ノアが魔族領に入ったのは四〇年前。

その時はまだ、現在のような書類提出や保管の制度が成り立っていなかった。

つまり、資料が枢密院に残っていないのだ。

 

では、どのようにして『勇者』であるかを証明するのか――


それは、かなりノア頼りな方法――



人的証拠――証言に頼る方法だった。



「生まれ月と日を教えて下さい」

「七月の九日」

「出身を教えて下さい」

「ニューブリッジ」

「最初に魔族領に入った時の年齢を教えて下さい」

「三〇歳」

「その時の地域名を教えて下さい」

「……当時は名前がなかったが、今はガバンと言われている」


 ノアは全てを即答した。

 そして、正解している。


 だが、これではただのクイズに過ぎない。

 ノアに詳しく、信奉している人間であれば、誰でも答えることができる範囲だ。

 

 だが次はそうはいかないだろう。


 次の質問は『偽物の勇者』についての質問。


まだ世に出ていないこの問題は、ただノアに詳しいだけの人物なら答えることができないはず。

 そうでなくとも、何かを隠していれば、ここで全てが露呈するはずだ。


「ノアさんは、自分が魔王を倒したと、そう言ったそうですね」

「はい」

「それはどう証明できますか」

「魔王城へ行けばわかりますよ」


 なんだその答えは――


 証明になってないだろ――


 ヴィンスの顔が曇る。


「……実は、他の人間も同じようなことを言い出しているとしたら、どう思いますか」

「それらは全て嘘でしょうね」


 淀み無く、淡々とノアは答えた。


「どういう点からそう言えますか?」

「私以上に実績がある冒険者、または勇者はいないからです」


 それはその通りだ。

 だから、ヴィンスも『本物の勇者』ならば、ノアしかいないと思ったのだから。


「では、魔王を倒したという証明をお願いします」

「それは、魔王城へ行ってください。魔王を倒したので、道中は安全ですよ」


 ノアは顔色一つ変えずに、そう答えた。


 ヴィンスは確信してしまった。



 ノア・ウィリアムズは何かを隠している。



 つまりそれは、彼が『本物の勇者』ではない可能性が出てきてしまったということ。



 それじゃダメなんだ――



 アイゼンハウアーが何者かに殺され、エーデル・クラークと、ギアロイド・サリバンも怪しい。


 現在最も『本物の勇者』の可能性があるのはノアしかいない。

 そのノアが『偽物の勇者』となってしまったら、この騒動は終結しない。



 誰かが勇者にならなければ――


 魔王を倒した勇者にならなければ――



 ヴィンスは深く息を吐いた。


 そして――


 苦渋の決断をすることにした――

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