第7話 波乱のバレンタイン 7/8

「はい。これ、テルちゃんに」

「えっ、俺に⁉」


 灯ちゃんは手に持っていた小さな紙袋を、そのまま俺に差し出してきた。


「うん。あたし、料理部に入っててね、それで作ったの。何度も試作重ねて美味しいのができたから、是非テルちゃんに食べて貰いたくて」

「嬉しいなぁ、ありがとう灯ちゃん」

「喜んでもらえて、あたしも嬉しい」


 はにかんだ笑顔を浮かべて、灯ちゃんは俺を見る。

 紙袋の中には、綺麗にラッピングが施された小さな箱が入っている。

 紙袋も可愛らしいが、ラッピングも可愛らしく、解くのが勿体ないくらいだ。


「これ、今食べてもいい?」

「えぇっ、それは恥ずかしいよぉ!お家に帰ってから、ゆっくり食べて?」


顔の前で両手をブンブン振りながら、灯ちゃんは顔を赤くしている。

何が恥ずかしいのだか俺には分からなかったが、とりあえず分かったことにしておく。


「うん、わかった」

「でも、味の感想は、教えてほしいなぁ?」

「もちろんだよ」

「ありがとう、テルちゃん。やっぱり優しいね、テルちゃんは」

「そうかぁ?」

「うん、うふふっ」


 じゃあ、またね!


 と、灯ちゃんはパタパタと廊下を走っていく。

 入った教室は、5組。


 そっか、灯ちゃん5組か。そりゃあ分からないはずだ。

 2組の俺が5組に行く事なんて、滅多に無いからなぁ……


 自分の鞄、千恵のエコバッグに灯ちゃんからの紙袋を手に持って、俺は学校を後にした。


 そういや灯ちゃん、これ料理部で作った、って言ってたよな。

 だったら明恵もきっと作ったんだろう。

 ……今頃、誰かにあげているんだろうか?


 ふと立ち止まり、背後を確認してみる。

 そこに明恵がいるような気がして。

 だけど、俺の背後には誰もいなかった。

 

 なんで明恵がいるような気がしたんだろうな。

 いつもは何にも気づかないのに。

 全く俺の勘は、当てにならない。

 別に、明恵がいなくたって寂しくなんかないけど、こんな時くらい、いりゃいいのにさ。まったく、なんなんだよ、あいつは!


 なんて、とんでもなく八つ当たりな事を思いながら家に着き、玄関のドアに手をかけたところで、俺を呼び止める声がした。

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