第2話

「味どう?ありあわせでごめんねー」

「いえっ美味しいです!!」

せっかくの美味しいご飯も、味がしない。心臓がずっとドキンドキンしてて、吐きそう。

(徹夜なんて出来るかな…みそ汁…これ飲んだらおしっこ行きたくなるかも…お茶も飲まないようにして…)

「…くん?凛くん?」

「…あっ、はいっ、」

「味、合わなかった?」

ハッと顔を上げると、俺の皿だけ、おかずが残っている。由希さんの困り顔が目の前に映る。

「いや、あの、」

最低だ俺。せっかく作ってもらったのに、まずそうに食べて。

「違うんです!!美味しいんですけど、昼間食べ過ぎてしまって…」

「そっかそっか。無理して食べなくて良いからね。肉じゃが食べて良い?」

あ、嘘がバレた。

明るい声を出してるけど、絶対落ち込んでる。気まずい空気が流れる。せめてみそ汁とご飯だけでも、そう思い、思いっきり掻き込んだ。


「お風呂ありがとうございました」

「いーえー。何か飲む?」

「いえっ、いいです」

「そう?でも汗かいてるかもだし一杯だけでも飲んだら?」

「いや、でも…」

「もしかして麦茶飲めない?」

「いや…やっぱり頂いても良いですか?」

「オッケー。飲めなかったらお水も置いてあるけど…」

「いえ、麦茶でお願いします」

ああ、また気を遣わせちゃった。透明なグラスに注がれたお茶。思わず喉が鳴る。

 正直喉は乾いている。そもそも風呂上がりに何かを飲む習慣があるし、今日は特別緊張している。口の中はパリパリだ。

「っぷはっ、」

飲み始めるとすぐになくなってしまう。まだ、飲みたい。でも、夜のことがチラついて、これ以上の水分を補給するのが怖い。

「冷蔵庫に入れとくからいつでも飲んでね。テレビつける?」

いつもより少ない会話。そのシンとした空間を遮るかのようにバラエティ番組の笑い声が響き渡る。由希さんの隣に座って、画面をぼーっと眺める。


(あ、まずい…)

話をしなくなってからしばらくして襲ってくる、強烈な眠気。目を頑張って開けようとするけど、すぐに閉じそうになる。

(おきなきゃ、きょうは、ねたら…)

ガクッ、

頭が大きく振れて、慌てて顔を上げる。

「ふふっ、今日お仕事忙しかった?」

「んぐ…あ、ごめんなさっ、」

クスクスと笑いながら、俺の口から垂れた涎を拭ってくれる。

「もうそろそろ寝よっか」

「いや、まだテレビあるし、由希さん見てたでしょ?」

「別にそこまでみたいわけじゃないよ」

「でも、あの、俺眠くないし、だから、もうちょっと、」

「じゃあお布団に入ってお話しようか」

ダメだ、今寝転がったら確実に、寝る。でも、いずれは寝なきゃならないし。手のひらにじっとりと汗が滲んでいく。

「凛くん?」

「あの、俺、トイレ…」


便器に性器を向けると、反射的に尿がでる。いつも出るくらいの、標準的な量。でも、これじゃ、だめだ。

 これじゃ、絶対に失敗しちゃう。

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