第21話 大地が怒っている

 これはS県O町で山を削り新しく道路を通す工事が行われていた現場の話である。

現場に出入りしている知人から耳に入れた情報であった…

そこは工事が始まった始めの頃は何も無かったようなのだが、道路が山の近くまで差し掛かってからそれは起き始めたという。そこで働く作業員が次々体調を崩したり、ちょっとしたけがをしたりで休む者が増え、工事がなかなか思うように進まなくなったという。初めは個人の体調管理が原因と考えられ注意していたが、それが立て続けに起きるとなると尋常ではない…田舎ということもあるので、現場監督は“はっ”として山の中に無縁仏か何かあるのではと感じ、山に入ってあたり一面を見渡してみたが、特になんの変哲もない普通の小さな山だった…取り越し苦労だったと苦笑いしていたという。作業員たちにはくれぐれも気を引き締めて作業に臨むよう朝礼で伝えていたそうだ。

 いよいよ山を本格的に削り始めた時、今度は土を削る重機の調子がだんだん悪くなり、最後には動かなくなってしまったという。それほど古い型でもなく、メンテナンスきちんと行われている重機だから有り得ないそうだ。エンジンを掛けた時は調子が良かったと話していたそうである。重機が無いと工事にならない…動かないものを置いていても仕方がないので、別な重機を手配させたそうだ。待っている間、作業員は仕事にならない…

午後になって代わりの重機が到着して、ほっとしたのも束の間、トラックから降ろされた重機は調子よく山に向けて走行を始め、さっそく山を削り始めた…

するとどうだろう、重機を動かす油圧ホースが切れ、オイルが噴き出し、あたりは油まみれ…またも、重機が動かせない、急いで代わりの油圧ホースを手配するが、結局その日も作業にならなかった。

翌日、油圧ホースを交換して作業を開始。初めは調子よく動いていたらしいのだが、山の半分近くまで達した時、重機は急に動かなくなった。燃料切れでもない…バッテリーでもない…原因が全く分からない…工事は遅れるばかり…

3台目ついに下請け業者の持ち込み重機をやめ、元請け会社がリース会社に新車の重機を手配していたとのこと…

 最初は作業員で、次は機械に矛先を向けたようだ。絶対眼に見えない何かがそこに居る…知り合いに工事現場の場所をそれとなく聞いたあとで、神様に伺ったところ簡単に教えて頂けた。「それはそこの土地、すなわち大地が怒っている。昔から人々に恩恵をほどこしてきた豊かな自然の野山を勝手に削り始めたからね。今のうちに鎮めないと大変な事故がおきるやも…」

 知ってしまってからでは黙って見過ごすわけにはいかない…

神様に“大地の鎮め方”を聞いて、必要なものを用意し、休日(現場も休みであったので良かった)にふたりで現地入りした。確かにその山を含めたあたり一面を怒りのエネルギーが包んでいる。言われた通りに、現場が見渡せる場所に立ち、用意した何種類かの物を地面にまき、呪文を唱える…それを決められた場所数か所で行う。最後に現場に一番近い場所に生えている指定の木を探す。それは昔からどっしりと生えている木が理想なのだが、探すのに手間取った…車で周囲を探しまわり、やっと小さな神社の境内に“その木”を見つけることが出来た。すぐに車から降りて根元に指定の物をまき、手を合わせて鎮まってもらえるようお願いをした。

 一週間ほどしてから、それとなく知人に聞くと…最近は何事もなく順調に工事が進んでいるとのことで、現場監督は持ち込みの中古重機じゃなくて最初から新車を手配しておけば良かったなとあっけらかんと言っていたそうだ。何も知らないのはある意味幸せなことかも知れない…

神様曰く、「無償の行い」が貴いのだ。

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