第11話 遺恨

 力ずくで仲裁できるとは思っていない。落ち着いて事情を聞きだし、なんとかこの場を収める方法を考えようとした。


 しかしミズトは、頭が真っ白になるほどの激痛を、突然腹部に感じた。

 さらにその直後、背中にも激痛が走った。


「ぐはっ!?」


 自分が血を吐いたのが分かった。

 唐突にアレクサンダーに殴られ、その勢いで近くの木に叩きつけられたのだ。


「ちょっ?! アレクサンダー、あんた何やってんの!? 彼はレベル2の新人て言ったよね? 世界騎士が、それもロードのあんたが攻撃するような相手じゃないって!!」

 カズキは慌ててミズトに駆け寄った。


「アレクサンダー様……?」

 女性の世界騎士も怪訝そうな顔でアレクサンダーを見た。


(痛ってぇぇぇぇっ!! ふっざけんな、なんだあの野郎!! なにいきなり殴ってきてんだよ!!)

 ミズトは声も出せず悶え苦しんでいる。


【ミズトさん、危険です。ただちに治療が必要です】


(うるせえっ!! そんなの分かってら、くそがっ!!)


 ミズトはアレクサンダーを睨みつけるが、向こうは見向きもせず近寄ってきた。


「そんな奴はどうでもよい。もう一度聞くが、拘束か処理か、どちらを選ぶのだ?」


 倒れているミズトを抱えるカズキを、アレクサンダーは見下ろした。


「チッ。分かった、分かったよ。降参だ、降参するよ! そのかわり彼を治療するから待ってくれ!」


「ふん、好きにするがよい」


「まったく、世界騎士の異界人いかいびとに対する扱いはどうにかならないのかね。君、大丈夫? ほら、中級ポーションだ」

 カズキは鞄からポーションの瓶を取り出すと、ミズトに飲ませた。


(なんだ? ポーション?)

 ミズトはポーションを飲むと、傷ついた内臓が驚くほど急速に回復していく様子を感じとった。


(凄いな。地球の医療技術なんかより、遥かに優れてる……)

「すみません……、助かりました」

 ミズトは痛みが消えていることを確認しながら起き上がると、カズキに礼を言った。


「こちらこそ悪かったね。来たばかりだと言うのに、こんなことに巻き込んで。これは助けてもらったお礼とでも、巻き込んだ謝罪とでも好きに受けとってもらえればいいよ」


「ポーションですか?」


「そうそう、中級ポーションてやつだ。二本しか余ってなくて申し訳ないけど」


 鞄から二本のポーションの瓶をカズキが出すと、ミズトはそれを受け取った。


「ありがとうございます」

 丁寧に礼を言うと、二本の瓶に目を向ける。

 透明なガラスの中に、緑色の液体が見えた。


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 アイテム名:中級ポーション

 カテゴリ:消耗品

 ランク:2

 品質 :普通

 効果 :体力回復

     傷の治癒

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 アイテム情報が表示された。


「もう済んだか?」

 アレクサンダーが一瞬ミズトと目を合わせる。


(くそ。こんなに腹が立ったのは、学生時代に地下鉄でワザと足を踏まれた時以来だな。いや、それ以上か。マジでこいつムカつくな!)


 恐れと怒りの感情がミズトの中で入り混じる。


「はいはい、もう終わりましたよ。君、ミズト君だっけ? ステータスが見えてるだろうけど、俺はカズキ。『神楽』ってクランのカズキ・コガだ。よろしくな!」


 カズキはミズトの肩を一度叩き、立ち上がってニコッと笑った。

 若者にタメ口をされるのは違和感あったが、身体が若返っているのだ。さすがに仕方ないと切り替えた。


 それからミズトも追うようにすぐ立ち上がると、

「私はアマノミズトと言います。こちらではミズト・アマノですか。よろしくお願いします」


「はは、ずいぶん堅いしゃべり方だね。接客のバイトでもしてんの? 俺はバイトする前にこっち来たからなあ。あ、俺のことはいいとして、オールEじゃ苦労するだろうけど、レベルやスキル次第でどうにでもなるから頑張ってな!」


「ほら、もういいだろ!」

 女性の世界騎士が割り込んできた。


「分かったって! じゃあな、ミズト君」

 カズキはそう言って、ミズトに背中を向けた。


 すぐに女性の世界騎士がカズキを後手で縛り上げ、連行した。

 海外のニュース映像なんかではなく、目の前で同じ日本人が拘束される姿に、喪失感と似た感情を抱いた。


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 ◆クエスト完了◆

 報酬が支給されます。

 クエスト名:初めてのポーション

 報酬:経験値10

    金10G

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 ◆限定クエスト完了◆

 報酬が支給されます。

 クエスト名:カズキの救済

 報酬:経験値100

    金10G

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 クエスト完了の表示がミズトの目の前に現れた。


(限定クエスト完了? 助け出してないのに?)


【はい、そのようです。ミズトさんが介入しなければ、カズキさんは殺されていたということかもしれません】


(!?)


 ミズトは、去っていくアレクサンダーの背中を見送りながら、あの暴力的な世界騎士ロードとやらならありえると感じていた。

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