第9話 転移者と到達者

 それから少し進んだあたりで、ミズトは何かの気配を察知し立ち止まった。

 何度もモンスターと遭遇したおかげで、鉢合わせする数百メートルほど手前で気付けるようになっている。


(なんだ? 何かいるように感じるが、いつもと違うな……。どう思う、エデンさん?)


【本来、モンスターを察知するには『盗賊』が習得するスキルの『敵探知』か、魔法の『索敵』を習得する必要があります。どちらも習得していないミズトさんが何故察知できているのか私にも分かりません。ただ、未知の能力ですので、モンスター以外も察知する特殊なスキルの可能性もございます】


(モンスター以外?)


 実はそんな気がしていた。

 モンスターを察知した時のような嫌な感覚ではない。

 たぶん人なんじゃないかと感じていた。


【何を察知したのか確認のためにも、接触する事を推奨します】


(まあ……それがいいだろうな……)

 聞いてもない事を提案までしてくるエデンの高性能さに感心しながら、ミズトは察知した場所へ向かうことにした。



 そこに近づくにつれ、それが人だと確信に変わっていった。

 人数も三人だと判別できる。便利な能力だ。


 ミズトは足音をたてず、視認できる場所までさらに近づくと、ゆっくり木の陰から覗きこんだ。


「よりにもよってあんたがいるなんてな。自分のヒキの強さには驚かされるよ」

 大きな木に寄りかかっている黒髪の青年が、そう言っているのが見えた。


(今の奴、怪我してなかったか?)

 ミズトはすぐに顔を引っ込めて、エデンに尋ねた。


【はい、致命傷ではありませんが出血しています。二人組と戦闘中だった模様です】


(戦闘中? 人間同士で戦ってるってことか!?)


 ミズトは恐る恐る、もう一度顔を出し聞き耳をたてた。

 モンスターと遭遇するよりも緊張している。


神楽かぐらがこの大陸の調査に来ている噂は聞いていたが。貴様カズキだったか、まさか団長クラスを捕まえられるとはな」


「はは、世界最強のあんたに名前を覚えられるなんて光栄だね。帰ってヒロさんに報告しないと」


「ふん、私と出会って、帰れるわけなかろう」


(カズキ? その名前って……)


 ミズトは気になり、怪我をしている青年に注意を向けると、青年のステータスが表示された。


 ====================

 カズキ・コガ LV57

 種族 :人間

 所属 :神楽(ランク5)

 加護 :俊敏の天使

 クラス:忍者(熟練度8)

     転移者(熟練度8)

 ステータス

  筋力 :D

  生命力:D

  知力 :F

  精神力:E

  敏捷性:A(+C)

  器用さ:B(+D)

  成長力:E

  存在力:E

 ====================


(おっ、人間は表示内容が自分自身と同じなのか。それにしてもカズキ・コガって、なあエデンさん、彼ってやっぱ俺と同じ日本人か? 見た目も名前も日本人っぽいんだけど)


【はい、クラスに転移者または転生者と表示されている者は、ミズトさんと同じ世界から来た者のみになります】


(そっか……)


 カズキという青年は二十代前半ぐらいに見えた。

 ミズトのいた会社の、一年目や二年目の社員と同世代ぐらいの容姿だが、かなり大人びた雰囲気を持っている。


 戦っている相手の方に目を向けると、同じデザインの蒼い鎧を装備した二人組がいた。

 どちらも白人で、三十代半ばぐらいの男性と、二十代後半ぐらいの女性。


 日本人だけじゃなく、まさか欧米人もこの世界に来ているのかと一瞬思ったが、男性のステータスを見ると、そうではなさそうだった。


 ====================

 アレクサンダー・ストームハート LV98

 種族 :人間

 加護 :風の精霊

 クラス:世界騎士ロード(熟練度10)

 ステータス

  筋力 :A(+A)

  生命力:S(+B)

  知力 :C

  精神力:C

  敏捷性:B(+C)

  器用さ:C

  成長力:A

  存在力:A

 ====================



(あらま、メチャ強そうじゃん。あれはこっちの人間だよな?)


【はい、彼はこの世界の住人です。世界で七人しかいないと言われているレベル90を越えた『到達者』と呼ばれる一人です】


(世界に七人ねえ……)


 ミズトは、青年がそんな相手と戦っている理由を知りたいわけでもないが、なんとなくそのまま様子をうかがった。


「なぜそこまで抵抗する? 貴様では勝つことはおろか、逃げることさえ出来ぬと理解しているであろう」

 アレクサンダーは剣を鞘に納めると、カズキへ近づいていった。


「そりゃあ、あんたに見つかった時点で結果は確定してるさ。それでも捕まるわけにはいかないんだよね。うちのヒロさんは仲間思いだから、俺を救出するために世界騎士団相手でも全面戦争を仕掛けかねないし」

 カズキは木に寄りかかるのをやめ、腕を抑えたまま一歩前へ出た。


神楽かぐらと全面戦争か。それはこちらとしては手間が省けて助かるのだが」


「だろうね。けど、うちとしてはあんた達と直接やり合うのは避けたいんですよ」


 カズキは辺りを見回す。

 逃げるタイミングを計っているのだろうとミズトでも分かった。


「降参せぬのか? 騎士団のメンバーには、神楽かぐらの団長クラスは拘束できない場合、処理を許可しておる。どちらにするか自分で選ぶがよかろう」


「処理って、殺すってことですよね? それはそれで、敵討ちだとヒロさんは言いかねないし、ガチで困ったね……」

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