OLとポップコーンとうちわエビ

海屋敷こるり

紙飛行機

「紙飛行機の折り方って覚えてます?」


 日曜なのに、しょうもないヘマで出勤している。チームでたった二人だけ。そしたらいつの間にか背後に立っていた村田さんにそう尋ねられた。


「え、あ~、なんとなくなら?」


 紙飛行機なんてもう十何年作ってないけど、「覚えてる/覚えてない」で言ったらまあ覚えてはいるのでそう答えた。


「一緒に作りましょう」


 村田さんは私の肩の上から手を回して私の両手をとった。思わず握り返すと、ぐいっと引っ張りあげられた。良く言えば舞踏会のプリンセス、悪く言えばソ連に連行されたグレイ型宇宙人みたいなポーズになって、私は強制的に立ち上がらせられてしまう。


「これ全部、紙飛行機にします」


 村田さんのデスクには白くないA4用紙が無造作に積み上げられていた。

 積み上がった紙は新品ではない。どう見ても紙飛行機なんかにしないで溶解ボックスに入れなきゃならない代物だったが、既に七連勤している私もすっかり頭がおかしくなっているので特段それを指摘はしなかった。


「まあ、やってればいつか終わりますよ。この仕事よりよっぽど」

「はは、確かに」


 ブラック企業ジョークもそこそこに、二人は黙々と紙飛行機を折る。


 縦に半分折って、さらにその両端を反対側に折り返す。私が覚えている紙飛行機はこれだけだったが、村田さんはそれよりはるかに複雑な手順を追っているようで、せっせせっせとあっちを折ったりこっちを開いたりせわしなく動いている。


 ガチャガチャガチャガチャと、キーボードを壊すほどの勢いで指を叩きつけている普段の彼と違って、その手つきは実に優しく滑らかだった。さながら紙上のピアニストのようだ、などと呑気に思った。


 三時間近くかけ、錯乱した二人は用意されていたコピー用紙をすべて紙飛行機に仕立て上げた。


「手伝ってくれてありがとう」

「いや、いい息抜きになりました。ところでこの大量の紙飛行機どうするんですか」

「燃やします」

「え」

「社外秘だからね。こうやって」


 村田さんは紙飛行機を一つ手に取り、空いた窓から放り投げた。村田さんの折った高性能飛行機は、ぐんぐん空に舞い上がっていく。



「このまま太陽まで飛ばせば、きっと誰も文句言わないよね」



 そうして村田さんは会社を辞めた。一か月前のことだ。私の作った飛行機はポンコツだったので、未だに私のデスクの引き出しで眠っている。

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