第33話 奈落の扉

 その日はマカタプだけでなく、奈落にいる巨大昆虫や熊型魔獣をブレスで鏖殺した。


 俺は奈落の洞窟の果てに辿り着く。


 以前、爪田を撃破したときは、タキナとラビがいたから、探索しきれなかった。


 奈落の果てには石造りでできた巨大な〈門〉が鎮座してあった。


〈奈落門〉と表示がでる。


 掌を触れると



――【門の向こうは未実装です】――

――【開けることはできません】――

――【一定以上の生け贄が必要となります】――




 アラートが鳴った。


「隠しダンジョンのさらに向こう……? つか生け贄って怖いな」


 ソウルワールドの中で未実装、ということだろうか。


 街での生活より先に、奈落を掘り進めたためか、重要な機密に到達してしまったようだ。


「この向こうを探索してみるのも面白そうだが……」


 いまは復讐だ。


 力はある。仲間も増えてきた。


 レーゼさんと行動を共にすれば、やがては毒島らに辿り着くだろう。


 そしてイバラを……。


「痛え……」


 イバラのことを考えるとまた頭痛がした。


 俺はイバラをどうしたいのだろう……。


 復讐の構えはできている。


 後は行動を遂行するだけだ。

 

 大丈夫。

 

 大丈夫なはずだ。


 




 定期的に街へ生き、狩った肉を降ろして生活していた。


 イバラちゃんハウスの勢力は拡大している。


 街中には〈追放者〉の張り紙が数多貼ってあった。


 毒島を中心に王宮勢力が追放を強めたのだろう。


 王都では毒島が王宮補佐官となり、王位の簒奪を狙っていると聞く。


 このまま手をこまねいていては、邪智暴虐を許してしまうだろう。


「イバラちゃんハウスは王宮の情報戦をになっているみたいだな」


 イバラちゃんハウスからでてくる風俗嬢らは皆王宮はいいところだよ、と風潮しているが眼が死んでいた。


「レーゼさんのとこに行こう」


 俺は熊肉を担いで幻影ドォルズへ向かう。


 メイドとして働くラビを横目に奥の間に案内される。


 奥の間でレーゼさんは眼鏡を光らせていた。「こんにちはアルトさん」


「こんにちは、レーゼさん」


「ご覧の通り。街ではイバラちゃんハウスが蔓延り、新王宮の宣伝機関となっています」


「賭博と嬢を利用して、王宮簒奪を正当化しようとするなんて異常です。何故、こんな卑猥なことを」


「手段は選ばないということでしょう。王都の手を伸ばすことによって、貴方が踏破した〈奈落〉の鉱山の開拓権を得たいのもあるでしょう」


 俺は始め言うべきか迷ったが、レーゼさんとは情報共有をすることにした。


「始めの開拓団(爪田ら)はすでに俺が殺しました」


「……なるほど。あなたの殺意が本物な理由はすでに手にかけたからなのですね」


「許せない奴でした」


「王都で噂になっている〈奈落の魔物〉は貴方だったというわけか」


「奈落の魔物?」


「奈落の鉱山に向かうと全滅すると、噂になっているのです。だから開拓権についてのいざこざが続いている」


 開拓団の死因は奈落竜の氷結ブレスだったが、とどめを刺したのは俺だ。


 人を殺すことへの抵抗や罪の意識は、今も俺の心を削っている。


 だがやられたままで甘い人間のままで、苦しんで生きるくらいなら……。


 俺は復讐と粛正を選びたい。


(少しずつ甘い人間を脱出できている気がする)


 だからこそ俺は、事実と現実を直視する。


「王都に知られたら、俺は追放者どころか犯罪者になるでしょうね」


「正直ですね。私に密告される恐れは考えないのですか?」


「もうお互い様でしょう。このメイド喫茶に訪れる人を見ましたが……。全員が復讐の眼をしていた。覚悟が決まっている」


 奥の間に案内されるまで、横目でみていたが、メイド喫茶〈幻影ドォルズ〉に訪れる〈すべてのご主人様〉は、全員が殺気に満ちていた。


 追放者特有の殺意だ。


 またご主人様のつける〈鳩の市民バッジ〉も、すべてレーゼさんから貰った偽造バッジだった。


 偽造バッジは精巧で本物と見分けが付かないが、バッジの尾が欠けているのが追放者の証だ。


 また〈追放者の証明〉は定期的にルールが変更される。


 今月はバッジの〈鳩の尾が欠ける〉。次の月は〈鳩の耳が欠ける〉などである。


 このメイド喫茶に通うことが、追放者コミュニティの条件なのだ。


「おちゃらけてみえましたが。あなたも覚悟が決まっている人のようですね」


「ラビにだけは笑顔で居て欲しいですから」


「ちなみに裏切りや密告については心配ありませんよ。すでに〈粛正〉は何度か行っています。『嘘がわかる能力者』がいますから」


 レーゼさんは満面の笑顔だった。


 ちょっと怖かったが逆に信頼できる。


「というわけで。アルトさんにお願いがあります」


「なんなりと」


「ラビさんにシーフとしての依頼をしたいのです」


「駄目です」


 俺は即答した。


「本人の希望ですが」


「駄目です」


「シーフの力に向き合って仕事をしたいということですが」


「駄目です。ラビを危険な眼には合わせられません」


 ラビにシーフをさせるというのはタキナの意見でもあったが、俺は反対だった。


 ラビの意見を尊重したいのはやまやまだが、危険な眼に合わせられるわけ無いだろう。


 そのとき俺は背後から手が回される。

 なんだかいい匂いがした。

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