第23話 住居拡張


 ごごごごご、と洞穴が拡張される。


「なんだ、なんだい?!」


 竜の素材を弄っていたタキナが、俺達の元へ飛んでくる。


「〈住居の拡張〉が起きたみたいなんだ」


「〈称号〉があれば色々できるんだろ? あたしも役所で聞いてたけどさ」


「タキナも知っているのか?」


「あんたは追放されたから情報に疎かったんだっけな。称号があれば色々できるが……。あんたの竜殺しが称号になったってことか!」


 ドワーフでギャルなだけあり、タキナは察しが良い。


「きゃっ!」


 ぐらりと揺れる住居。

 ラビが俺の袖を掴む。俺もラビを抱き留める。


「想像以上の成長だよ!」


 タキナも俺に捕まってきた。


 兎の洞穴は、住居の拡張によってすさまじい成長を始めていた。


 やがてずぅん、と揺れが収まる。


「なんだか〈上に伸びた〉、みたいだね」


 タキナはひっそりと歩き出す。


 ラビも窓の方に歩いて行き、恐る恐る顔を出した。


「お兄ちゃん、タキナさん。空が近いよ」


「空?」


 俺も窓から顔を出す。

 そもそもなんでいきなり窓があるんだ、と思うが……。


 窓から外をみると、すべてが理解できた。


「そうか。兎の洞穴は大樹の根元にあったが……」


 はじまりの丘とリスタルの街の一部が見下ろせるほどの高さまで成長していた。


「この大樹は始めから住居として想定されていたんだな」


 住居拡張の力で、兎の洞穴だったワンルームが拡張し、大樹の中が居住スペースとなっていたのだ。


「12階ほどの高さらしいね」


 タキナが大樹の中を調べる。


 俺が手を当てた宝珠の当たりには、魔力映像の光が映し出され、案内図を造っていた。



【大きな気になる樹の家】


:木造十二階建て

:大樹をくり抜いて造られた。

:建築家〈オーガエイト〉

:オーガエイト建設(株)



「なになに。住居拡張は三段階ありますだって?」 


 タキナの隣で俺も魔力映像を見る。


「第一段階は家で二階建て。第二段階は屋敷で三階建て。第三段階は寮で五階建て……。ん? この樹木は十二階建てだろ?」


「待ってお兄ちゃん。ここ……」


 ラビが魔力映像の隅を指さす。


【秘密】と小さく文字があった。


 俺は躊躇いなく文字を押してみる。



【秘密の第四段階の解放方法】



 と表示がでた。


 

『おすすめはしませんが、深層の奈落ダンジョンを攻略すると十二階層まで拡張されます。未踏ダンジョンの攻略によって、ソウルワールドの資源が拡張されると、建築家オーガエイトは考えているからです。命の保証はしませんが、ぜひ挑戦してみてください』



 俺は自分のしたことの重大さを改めて理解した。


「俺が奈落竜を倒したから、この兎の洞穴を造ったオーガエイトの条件を満たし一気に四段階成長をしたんだ……!」


 無自覚だったが、とんでもないことをしてしまったらしい。


「あんた……。すごいことをしたんだねぇ!」


 タキナが俺の手を取る。


「このために闘ったわけじゃないんだが……」


「奈落が開拓されて資源が拡張されるってことはソウルワールドの世界のバランスが揺らぐってことだよ!」


「少し、大げさじゃないか?」


「鍛冶屋クラスだからわかるんだよ! これはおもしろいことになったかもしれないよ」


 ラビもタキナに同意のようだった。


「オーガエイトさんに会いに行こうよ」


「ラビもか?!」


「役所で聞いたんだけどね。オーガエイトさんは各地にこうした建造物を造っているみたい。条件を満たした冒険者を求めているって」


「君、色々知ってるんだね」


「これでもシーフですから」


 住居が拡張したことで、俺達は気持ちが大きくなっていたが、十二階建てなんてのは気が休まらない話だった。


 結局、いままで寝ていたワンルームで三人で雑魚寝することになった。


「安心するね」


「ああ」


 ラビも俺と同じ気持ちのようだ。


「だだっぴろいから、2部屋ほどあたしの工房にしてもいいよな?」


「タキナは鍛冶屋をやりたいんだよな。どんな店にしたいんだ?」


「でかいけど、客を大事にする店だよ」


 暗闇の中で仰向けになりながら、俺達は招来を語り合った。


「タキナってさ。不思議だよな。ギャルなのに鍛冶屋をやりたいって」


「物を造りたいからね。現世では魔導具師とか憧れてたからねえ」


「渋いな」


「魔導具を造るにしても、要するに鍛冶屋が基本だからな。あたしだって魔山紫苑によって街から追放されたんだ。成り上がって見返してやりたいのさ」


「……追放仲間だからな。協力するよ」


「じゃあ、あんたの武器は私に任せてな」


 タキナと反対側では、ラビが暗闇の中で頬を膨らませていた。


 俺にひっついてくるが、俺はどうにも恥ずかしくなって、距離を置く。


「だめ。寂しいから」


 ラビに駄目と言われたら仕方が無い。


 ぐすんと啜り泣きが聞こえる。


 ラビは俺の横で泣いていた。


 強制的に15歳ほどまで成長したと聞いていたが、精神年齢は10歳なのだ。


「泣きたくなることもあるのだろう」


 俺が守らなければならない。


 追放同士で身を寄せ合っていたが、【大きな気になる樹の家】を得たことで未来が見えてきた。 


「俺達で成り上がろう」


「ああ。追い出した奴らを見返してやろう」


「……すぅ。お兄ちゃんが行くとこなら、どこでも……むにゃ……」


 タキナとラビと俺とで成り上がる決意をした。


 ワンルームで川の字で眠りながら、追放者同士で決意を固めるのだった。



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