第20話 レベルアップ回避再び

 奈落竜は俺のドラゴンブレスで焦がされ、倒れ伏していた。


「がはっ、かっ……」


 だが俺ももう限界だ。


 声もでない。


 ドラゴンブレスは確かに〈呼吸〉を司る能力から生まれた。


 だがソウルワールドでは肉体も精巧に再現される。


 能力を生み出すことはできたが、俺の肉体が極進化の反動を受けていたのだ。


「げはっ、くっはぁ……」


 ゴクシンカという謎のギフトが解放されたおかげで、俺の肺はドラゴンブレスを使えるように『適応』したらしい。


 だが人の身で早々簡単に竜にはなれない。


 奈落竜との戦いでダメージと状態異常が蓄積してしまっていた。



【HP 92/1230】


(ぎ、ギリギリの戦いだ。楽勝かと思ったんだがな)


 状態も深刻だ。


 火傷、凍結、感電でHPがごりごり削れる。



【火傷のダメージが入りました】

【凍傷のダメージが入りました】

【感電のダメージが入りました】



「がはっ、げはぁ!」


 火傷と凍結と感電ダメージで吐血しながら洞窟を戻る。



【HP 53/1230】



(まずい。死ぬ……)


「ぐはぁ!」



【HP 8/1230】


 諦めかけたそのとき、レベルアップが反映された。


【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】


 戦いの中でもレベルアップしていたがそのときはまだステータスに反映されていなかった。


 遅れて上昇判定が始まったらしい。



「おせーよ」


【神裂アルト】 レベル51→56 ブレスマスター


HP 1230 →1350

MP 907 →938

TP 707 →738

攻撃 988 →1053(最大3159)

防御 783 →800

魔攻 533 →555

魔防 533 →554

素早さ 988 →1053

運命力 0

体格 50

移動 50


【バイタル】レッド(危険)。火傷。凍結。感電。

【スキル】呼吸


【アビリティ】不運、強肺、成分解析、毒耐性、呼吸経験値変換、呼気感知、身体強化、イノベーション進化、アビス適性、

【ギフト】カナリア、ブレスマスター、ゴクシンカ ←new


【アーツ】ブレスフィジカル、ブレスバレッド、ウィンドブレス、ドラゴンブレス


【HP 128/1350】



 レベルアップでHPが回復したので、状態異常ダメージも回復できた。


 ちょうど洞窟の遠くに、救援の影がみえる。


 呼吸で感知していたが、タキナとラビの声がした。


「お兄ちゃん……。お兄ちゃん!」


 ラビが俺に向かって突進してきた。


 今はうさぎアバターではなく、うさぎの着ぐるみ姿だ。


「がっふぅ!」



【現在のHP 127/1350】



 ラビを受け止めると、ちょっと削れた。



【火傷のダメージが入りました】

【凍傷のダメージが入りました】

【感電のダメージが入りました】



「ごっはぁ!」


 抱きつかれたのがきっかけで状態異常ダメージも入ってしまう!


「ああ、お兄ちゃん! ごめんなさい……!」


 タキナ腕を組みながら、薬草を差し出す。


「はいはい。いちゃつくのはそこまで。これを食べな」


「むぐぅ!」


 ドワーフギャルに薬草を食べさせられる。


 状態異常が回復した。


「ラビも。早くヒール」

「はい! タキナさん!」


 ラビはラビットシーフのはずだが、ヒールを使えるようだった。


「ヒール!」


 俺はラビに癒やされていく。


【HP 133/1350】


 回復量は5だ。


「うええーん! ちょっとしか回復してないよぅ!」


 ラビが泣き出したが俺は頭を撫でる。


「君の気持ちだけで十分だ」


「おいそこ。死にかけてる癖に甘やかさない!」


 タキナは俺を抑えつつラビにも厳しかった。


「はい。わかりましたよ。タキナさん。よーし……。ヒール!」


 ラビは杖をかざして俺を回復。


【HP 121/1350】


「ぐふっ! 減ってない?」


「うう。ごめんなさい。ああ、このままじゃお兄ちゃんが、死んじゃう!」


 タキナがラビの背中を押す。


「落ち着いて。ラビ。あんたならできる」


「はい。お兄ちゃんのためなら私だって……」


 金髪ギャルと白髪の女の子の組み合わせは、姉妹のようで眼福ではあるのだが、眼福ついでに俺は天に召されそうである。


「ヒール!」


 ラビのヒールは成功した。


【HP1256/1350】


 三度目のヒールはほとんどライフ全快だった。


 ムラッ毛はあるが凄まじい回復量だ。


 ラビは治癒術士の才能もあるのかもしれない。


「はぁ……」


 ラビはふらりとしてしまう。


「おっと」


 兎の着ぐるみの少女が俺の胸にもたれかかった。


「ごめんなさい、お兄ちゃ……」


「いや。いいんだ」


「レベルが低いのに全開のヒールをしたんだ。甘やかしてやんな」


 タキナはラビには厳しくも優しいようだった。


 ドワーフギャルでありつつもはやお母さんだ。


「お母さん!」


 俺は思わず口にでる。


「お母さん……!」


 ラビも乗ってきた。


 いいぞ。ノリは大事だ。


「誰がお母さんだよ! ……ったく」


 タキナを弄っていると、俺は『別の呼吸』を感知する。


 もう一仕事残っているようだ。


「タキナ。ラビを少しだけ頼む」


「まだ何かあるのか?」


 周囲には奈落竜によって氷漬けにされた採掘パーティらの残骸がいた。


 呼吸感知によってかすかな声が聞こえる。


「はいかつりょう、くぅん……」


 氷像化した後、砕け散ったはずの爪田の声が聞こえてきていたのだ。


――――――――――――――――――――――――――

次回序盤の山場です


着々と

しばいていく


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