花容を刷く

田辺すみ

マリア・カンテミールの回想  サンクトペテルブルク 1727年

 美しい筆蹟でございましょう。

 私がアラビア文字を読めるのは不思議ですか。

 小さい頃、コンスタンティノポリスに住んでおりましたから。


 父がカンテミール家からオスマン帝国へ送られた人質であったことは、ご存じかと思います。父の大著と言われている『オスマン帝国史』は、あの頃の経験無しに書かれることは難しかったでしょう。


 これは、母の大切な友人が、私に送ってくれた手記です。

 大帝のもとへ参じて以来、互いにどこにいるかも分からなくなっていたのですが、弟がウィーンから持ち帰ってくれました。


 母が笑っていた思い出は、いつも彼女と共にあります。


 読んで差し上げるのは構いませんが、約束下さい。

 いつか殿下も、ご自身のためだけの物語を見つけられますよう。

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