オカン系男子高校生が、美少女な幼馴染二人と再会する話

鼈甲飴雨

序幕 スカイブルーソーダ 序話 ようこそ、エトワール荘へ 1

  序幕 スカイブルーソーダ


 今日も、我らが男子寮は平和だ。


「知ってるか……女子寮の幽霊、全裸らしいぜ!」

「すっげぇええええええええ! 何だよそれ、超見てえ!」

「男だけど」

「うっげー、なんだよそれガン萎えだぜ」

「何でも花園を見たいと願って屋上から落ちた男の怨念が彷徨っているという」

「ぶっはははは! 馬鹿じゃんそいつ! 扉開ければそこが女子寮なのによ!」

「ふむ、トンネルの向こうが雪国だった的な表現、素敵だぞ……で、あれなんてタイトルだっけ?」

「ロリの国から?」

「お前まだロリコン治ってなかったのか」


 野郎との会話を、俺は正直愛していた。つまらん恋愛なんぞに振り回されない。最高の空間だ。野郎とバカやってる時が、一番楽しい。


「なんの話だよ、お前ら」

「おう、羽斗! 混ざれよ、えっと、雪国でロリが全裸だった話だっけ?」

「えっ、凍死するじゃねえか!」

「羽斗、お前はもう少し違う方向から物事を見ろ。そこじゃないから突っ込むところ」

「ほれ、唐揚げできたからみんなで食おうぜ!」

「いよっ、さすが羽斗! みんなのオカン!」

「誰がオカンじゃ! テメェらいい加減にしねえと締め上げるぞ!」

「男子寮の生活が回ってんの、ほぼ機能してない寮母じゃなくお前のおかげだからな……洗濯は嫌がらねえでやってくれるし、飯作んのも嫌がんねえし、お前が美少女なら絶対ほっとかねえぜ!」

「今男で心底よかったと確信してるわ」


 今日も馬鹿をやる。

 敬語なんてない。年もバラバラ。でも、そんなカオスな状況が俺は好きだった。遠慮がなかったから。前世から兄弟だった気もしてきていた。気のせいだけど。

 一年生の六月まで、俺は幸せに暮らしていた。

 そう、この頃までは。





 何があったのか端的に説明すれば。


 隕石だった。


 俺の部屋は、夜間外出の際に、すんげえぶっ壊れてた。なんか見たこともない合金であることが分かり、世間が騒然となってマスコミもいっぱいきた。

 俺の部屋だけが、ごっそりと無くなってしまった。俺達はそのがれきの残骸の木材でバーベキューを決行して、俺は盛大に見送られた。

 さすがに学園も想定外だったと言うことで、住む場所はどうにかしてもらった。


 で、無事だった荷物をリアカー(学校の備品らしい)を押して何とかやってきたのは、ごく普通の一軒家のような物件だった。大きさはそれなりだが、少し年代が気になる。


「…………」


 エトワール荘と書かれている。まぁ、学園側の設備なんだし、堂々としてりゃいいか。


「ちわーっす」


 声を掛けながら呼び鈴を押してみる。

 ……? 留守か? いや、誰か来る。


「ほーい、なにー?」

「いっ!?」


 寝ぼけ眼の金髪女がデカいTシャツ一丁でドアを開けてこちらを見上げていた。いや、見上げるのは不自然じゃない。俺は男子成人平均身長の百七十くらいをクリアしている。正確には百七十四センチ。だから彼女の方が背が低いのは、当然とも言えた。


 けど、え? 胸元が見えている。裾はパンツがギリギリ見えるか見えないかのラインだ。何でこんないかれた格好なんだ? あれか? 女子の中では薄着がブームとか? 無防備さをさらけ出すことで男をミツバチのように集めているとか? そういうことなのか!?


 いやでも、これだけは言わせてくれ。


「服着ろや!」

「あーもう、うっさいなー。あんた、男子ってことは羽斗泰斗やろ? 男子寮からくるって。荷物、一階の右の一番奥、一〇四の部屋やから。はい、鍵。まったく、もう一人はどこほっつきあるいてんだか」

「お、おう」

「荷物運ぶの手伝う?」

「頼む。というか、先輩ですか? 同級生?」

「うちも一年。鵯小春。ここ女子寮だから、こーいうカッコに慣れた方がいいけん。みんな結構自由なカッコしとるけんね」

「……」


 マジで? 女の子ってもっと可愛い部屋着とかでキャッキャウフフしてんじゃねえの? 俺の妄想を目の前の女がダンプカーのような勢いと説得力(物理)で蹂躙していく。酷い、俺の妄想が粉微塵に……木々に撒いたら花でも咲くだろうか。


「せめて短パンはけ」

「はいてるよ、ほら」


 お腹の位置までシャツをめくりあげた。確かにデニムのホットパンツがあるけども。というかキュッとしたくびれなんか見えたりして大変目の毒。


「そんなシャツ一枚と変わらぬ露出度で応答すんな! お前マジで変な奴が来たらどうすんだよ!」

「股間蹴り上げる」


 何て恐ろしい言葉を吐くんだこの子。

 にしても、可愛い子だ。目が大きいからなのか、力がある。今のところ仏頂面だけど、笑うと可愛い感じだろうなあ。


「なん?」

「いや、別に。運んじまおうぜ、雨降ってもかなわねえ。PCあるから雨降ったらおじゃんだ」


 少し雲行きが怪しいのだ。この調子だと夜にはざんざぶりだろう。しかし天気は急変もしたりする。早いに越したことはない。

 PCが雑に突っ込まれた箱を指さし、彼女は頷いた。


「それからはこぼっか」

「お願いします」

「ん。女だからと気を遣わないの、大事だよ、ここでは。主張していかんといかんけん」

「勉強になる」

「あんた、うちの組やろ?」

「え、一年六組だけど……君みたいな可愛い子いたっけ……」

「いつもはポニーテールに眼鏡やからな」

「なんでそんな変装してんの?」

「そのカッコにしたら、うっざい告白がゼロになったん。ホント、よく知りもしないやつに好意ぶつけられても怖いだけやし。男子、覚えとってね」

「お、おっす……まぁ確かに、勇気出したかは知らねえけど、よく知りもしねえ女子にいきなり好きですはホラー並みだわな」

「あ、分かる? これ分からんアホ多いとよ。同じクラスやとか学年が同じやとかそれほぼ他人やん。三十人くらいの他人が押し込められとるだけやし、クラス。でも、あんたとは仲良くなれそうやん。よろしく、羽斗」


 そうニカッと笑った顔は、確かに可愛かった。とても爽やかな笑みはどこか、なんだろう。アホみたいに青いソーダ味のアイスみたいな。そんな清涼感。ドキッとしながら、俺はその表情に笑顔を被せた。


「よろしく! 正直マジで不安だったんだよなぁ。男子寮の時はノリと勢いが全部だったけど、ここじゃそういうわけにもいかねえだろ?」

「そやね。静かにしてれば問題ないんじゃないかな」

「それをしながら、主張はしとけって?」

「そ。わかってるやん」


 荷物をえっさほいさと運ぶ彼女はよく笑う。俺も笑い返して、荷物を部屋に放り込んでいった。


「そういや、ここって女子寮なのか?」

「まぁ、そうらしーよ。いや男子の入居者がなかったらしかったんだけど、まぁ、女子しかおらんかった。色々気を付けりーね」


 雑談を交えながら運びの作業が終了した。少し多くなったが、エロ本とパソコンとゲーム機が多かった。俺のベッドは粉々になってしまったが、まぁそれは仕方ないだろう。趣味のグッズが無事だっただけ儲けものだ。


「これエロ本?」

「げっ!? なんで分かるんだよ!」

「必死に自分でいの一番に持ってったじゃん。ねーねー、一冊ちょうだい?」

「な、何する気なんだよ」

「いや、男子がどんなの読んでるのか単純に興味があって。上の先輩は男同士の絡みしか見ないみたいだし、ひとりは何かそういうの聞くのハードル高いし、ひとりはむっちゃ怖いし、同級生は真っ赤になるし。うち、ずっと女子校育ちだったんよ。河原に拾いに行くのもばっちいやん? ね? ね? いいでしょ?」

「……言っとくけど、俺が読んでんのはメッチャソフトだぞ」

「えーから」


 渋々、コレクションの中からなるたけ女性向けのやつを思い出しながら彼女に差し出した。


 男子寮のみんな。俺は今、女の子に自分がチョイスしたエロ本を渡しています。


 ホント、何やってんだろマジで。でも引っ越し手伝ってくれた手前断りにくいことこの上ないし。まさかそれを狙ったわけじゃないんだろうけど。

 また嬉しそうに俺の部屋に居座って読み始めるし。


「せめて自分の部屋で読んでくれ」

「それもそっか。ムラッとするの?」

「しねえわけねえだろお前可愛いんだよ自覚しろ」

「……ごめん。じゃ、エロ本ありがと! そんじゃ!」


 去っていく金髪女。手を振ってたけど、何だったんだマジで。

 ドッと疲れが押し寄せる中、俺は新しい寝具に横になる。家具の類は用意してくれていたらしい。うわ、何このマットレス! すげえ! 体がいい感じに沈み込む感覚がある。うわー、寝れるわー。


 いや、寝るわけにもいかん。この寮では自分の食事は各自だと言われてある。食材は昨日のバーベキューで焼き切ったから、後は買いにいかないと。


 俺はとりあえず部屋に施錠をしてから、俺は買い物に出かけた。

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