第40話 停戦交渉開始

 初日、午後から停戦交渉が開始された。停戦の条件として連合軍とX国側がベータに提示した主要な部分は次の通りだった。実質的には終戦条件であった。


 ① ベータの無条件全面降伏

 ② 停戦後リリアム・ベータはX国・連合国の管理下におかれる


 これを見たサーシャはジーンにひそひそ話した。


「何ですかこれ。全面降伏して支配されろ、ですって。あり得ない」

「本当に。ひどいわね」


 ジーンも顔をしかめた。しかしこれはジーンには想定内の案であった。X国が安易な妥協案を出してくるはずがない。これに対してベータ側の提示は次のようなものであった。


 ① ベータの人権の保障

 ② リリアムの独立自治権の承認

 ③ 人工維持に必要な男性の勧誘の容認、及び精子の提供


 アマンはこれを見てばっさり切り捨てた。


「話にならんな。どれも許容できん」


 キリーとアルファは、アマンが飲める条件とは思えなかったが、各々意見を述べた。


 キリーは「首相のおっしゃる通りですね」

 

 アルファは「アマン首相、事前に協議した通り、妥協点を目指して協議を進めましょう」


 アルファが言っている妥協条件は次の通りである。停戦協議を言い出したのがX国であるため、全体にX国よりの内容となり、ベータ側が容易に合意できそうな条件には落とし込めなかった。


 ① リリアムの自治は認めるが国としての独立は認めない。

 ② リリアムに出入りする者はX国・連合国側の審査・許可制とする。

 ③ 男性を勧誘することは禁止。

 

 初日は互いの主張について説明と質問がなされ、具体的な協議には入らなかった。あまりにも隔たりが大きかったからである。


 今後、合意に近づけるために、どのような手順で進めるのが最適かを話し合い、進め方だけは合意され初日の会議は早々に終了した。


 明日以降の協議に向け両者、別々に作戦会議が行われた。通常は初日のディナーを双方一緒にする形が多いが、そんな状況のため急遽、別々にディナーを取ることになった。


 ◇ ◇ ◇


 夜、ジーンの研究室の中、スパイデバイスがあちこちで研究室内部を録画、録音している。さらに超小型の自動スパイツール、マイトが動き始めた。


 マイトは透明で全長2ミリメートル、直径が百ミクロン程度の線虫のようなデバイスだ。マイトは床を這い、机を登り、情報端末を見つけると内部に入り込んだ。


 機密情報を盗み出し、監視デバイス経由で送信した。こうしてジーンの重要な研究情報は盗まれたのである。

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