第32話 メレオン島プロジェクト、停戦交渉

 ジーンはアイリスのクローンについてのプランをサーシャに語った。するとサーシャは言った。


「ベータ2のクローンは難しいんじゃないでしょうか?」


「かもね。でもアイリスの細胞は成長が驚異的なのよ。今の所、クローンは順調に育っているわよ。もしかしたらベータ2はクローンにはうってつけかもしれない」


「クローンは何体作られているのですか?」


「一体よ。私は一人しか作るつもりは無い。もし第三の人間がアイリスのクローンを大量に作って悪用したら…… 世界は崩壊するわ」


「危険ですよね」


「そう、なのでアイリスのクローンは一体しか作らないし、このクローン技術に関しては完全に機密で進める」


 ジーンは一息ついた。そして少し遠い目をして口を開いた。もう一人のベータ2、レナについての対応だ。


「レナなんだけど、彼女は隔離する方向で考えている」

「隔離ってどこへですか?」


 サーシャはジーンがまた想像できなかったような事をしようとしているのを感じて、多少の驚きを持って訊いた。


「メレオン島」


「どこです? それ」


「南方の秘境の島よ。もう少ししたら極秘裏に最低限の居住区の開発を始める」


「そこへレナを送ってどうされるおつもりですか?」


「リリアム、いや人類のバックアップ、または未来のガラパゴス島として機能してもらうわ」


「送り込む人員はレナの他は?」


「ベータの男スカイが候補で、あと数名選ぶ」


「いつですか?」


「一年後が、めどかな」


「わかりました。レナにはいつ話しますか? スカイの確保は?」


「レナには時期を見て私から話す。スカイの勧誘もレナにやってもらう」


「承知しました」


 ジーンの極秘プロジェクトを知ったサーシャは、ジーンが考えている計画が自分では想像もできないレベルであり、彼女はいつも誰よりも数歩先を行く人だということを実感した。



 ◇ ◇ ◇



 ―― マヤ空港での事件から3年が経過したが、ベータ側と、X国を含む連合軍側との争いは一進一退を繰り返していた。


 そして唐突感は否めないが、3月にX国からの提案があり、停戦交渉が行われることになった。


 一般的には、戦費を費やし財政状況が厳しくなってきたX国が現状の膠着状況を打開するために、やむなく停戦に持ち込もうとしているものだと受け取られたが、前に記したようにアマン首相に停戦する意思など全くなく、これはキリーの裏の意図を持つ作戦であった。


 停戦交渉はX国の希望でリリアムで一週間に渡り行われることになった。キリーはリリアムでの開催をベータ側に受け入れさせるには骨が折れると読んでいたが、ジーンは意外にあっさりその要求を受け入れた。


 キリーは訝しがったが、結果オーライではあったので、特に深読みはしなかった。実はジーンの方が上手だったことが後で分かる。

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