第24話 スカイとレナ(ベータ2)

 スカイとレナの沈黙の会話は続く。スカイは頭の中を読み取られるのは初めての経験だった。自分も同じ能力を持っており完全に遮断することは容易だが、オープンな状態で自分の考えをコントロールすることには慣れていない。


(仕方が無い。質問に集中しよう)


 スカイはレナの質問を反芻し、答えを、自分が考えていることに集中して伝えることにした。彼女の質問はベータ問題がどうなるのかと僕が考えているかだ。


(僕は理想的には、ジーンだっけ? ベータのリーダが考えているように、リリアムなり、どこかの国なりにベータ種を隔離して、アルファと共存するのがいいと思う。でも、現実にはそうはならないだろう。リリアムでは世界中から特定の性質を持つ男性を誘拐して集めているんだろう? キリーから聞いたが、X国は全く共存方針を取るつもりが無い。いずれ、リリアム含めベータとX国は全面的な対決をすることになるだろう。結末は――想像が全くつかない……)


(あなたはどっちに付くの?)

(僕は…… どちらにも付かない)

(なぜ? あなたベータでしょ)


(僕はベータでも男だ。どの道、どちらにも居場所が無いし、それよりもまず争いをする者達と一緒にいたくは無い。例えそれが攻撃を受けているベータ側でもだ)


(ベータは被害者よ)


(戦争をする者はみなそう言う。自分は被害者だと。でも抗戦し始めた時点でもう加害者も被害者も無い。不可抗力だろうがなんだろうが相手を傷つけるものは皆加害者だ)


(あなただって、さっき念力で衝撃波を使って反撃したじゃない)


(ああ、僕も矛盾する自分が嫌いだよ。いずれこんな世界とは決別するさ)


 レナには、スカイという孤独な男のアルビノの薄青の瞳が、まるで半分死の世界を覗いているように見えた。スカイは19歳という若さで、すでに数々の言われなき差別を受けてきた。彼と同じ境遇の男はこの世にいない。兄の助けがなければとっくに精神が崩壊していたことだろう。


 レナは一度目を瞑ってから、再び開いてスカイにテレパシーを送った。


(あなたのことは大体わかったわ。私の、まだたった9年だけど、どこで生まれどう育ち、能力がどう発現していったかは全て教えるわ)


 沈黙の数分が経過した。レナの過去は全てスカイに伝送された。


 レナは生まれて1年も経たないうちに、知性が身に付き異常な知的成長を遂げた。そして一歳を超えた時点でベータ専用施設に送られた。しかし彼女は知能に加えて他の仲間をはるかに上回る超能力を有していた。最初は面倒をみてくれていたスタッフやベータのお姉さん達が間もなくレナを気味悪がり近寄らなくなった。


 施設内でも差別され、悪い意味で特別な存在に置かれたレナは、8歳の時にX国からやってきた当時13歳のアイリスのおかげでようやく救われた。アイリスこそが、世界で初めてのベータ2という特殊個体だった。アイリスにとってもレナは世界で唯一の自分の仲間であり、守るべき妹になった。


 レナはこの1年間、施設でアイリスとともに平和に暮らしていたのだった。そして今回、二人とも初めてリリアムに行く。しかし平穏は…… 得られそうにもない。

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