人生を舐め腐ったパパ活JKはモンスター収集RPGの最初のパートナー候補に転生して雑魚トレーナーに飼い慣らされる
丹生谷冥
第1話 猫になった日
「ちょっといい気にさせるだけでこんなにくれるんだから、オトナってチョロすぎ」
受け取ったばかりの封筒の中身を取り出し、つくづく思う。毎日好き勝手遊んでも、欲しい物はなんでも手に入る。お金なんて
明日はこれで新しい服を買って友達と美味しいもの食べに行こっと。
エレベーターがロビーに到着し、ドアが開く。視界の先に、帽子を目深にかぶった男が映った。
その男はなぜかこちらを向いたまま微動だにしない。なんだか不気味で、足早に立ち去ろうとすると、突然男が急接近してきた。狭いエレベーターの中に逃げ場など無く、すぐ目の前に男が立ち塞がる。その瞬間、胸に激痛が走った。
——男の手には赤く染まったナイフが握られていた。
ぼやけゆく視界の中、微かに男の顔を捉えた。
あ、知ってる人だ。名前は……誰だっけ…………。
背中のあたりを何かに圧迫されているような感じがして、目を覚ます。
草の茂る地面が近い。ここは外……?
——ッいた!
背中の圧迫感が突如、鋭い痛みに切り替わった。首を回して後ろを振り返ると、巨大なピンク色の生物の鉤爪が私の背中に食い込んでいた。
慌てて飛びのき距離を取る。なにアレ……、ヒヨコ……?
見たことの無い生き物。でも、あの丸みのあるフォルムに鳥の嘴、ヒヨコに似ている……サイズと色を除いて。
……ん、いま私、移動したとき、四足歩行だった?
はっとなって自分の身体を確認する。持ち上げた右腕は黒い毛で覆われていた。
え……うそ……。
近くに見えた水皿に駆け寄り水面を覗き込む。
そこには、小さな猫のようななにかが映っていた。
ああ、そうか。これは夢だ。明晰夢ってヤツ、臨死状態だと見ることがあるって昔テレビでやってた。私はナイフで刺されて今は生死の境をさまよってる。だからこれは夢なんだ。
改めて辺りを見渡す。ここはどこか牧場のようで、遠くまで緑が広がっている。ところどころに動物の姿が見えるが、そのどれもが私が知っているものとは少し違っていた。
自分もその中のひとつだと思うとなんだか不思議な感じだ。さっきは突然過ぎて驚いてしまったけれど、夢の世界で猫になってみるっていうのも意外と悪くないかも。
牧草に寝ころび暖かな陽だまりに微睡んでいると、そよ風に乗って誰かの話す声が流れてきた。
それは慣れ親しんだ日本語だった。どうやらこの世界にも人間はいるらしい。
声のする方に近づいてみる。白い建物のある方から、白衣を着た女性が少年を連れ歩いてくる。
「テイムのやり方は分かる?」
「は、はい。勉強してきたので」
「そっかそっか。あっ見えてきたよ」
女性が指を差した方には、あのヒヨコの他にヤギとトカゲみたいなのがいた。これから二人が何をするのか気になって、その後ろに回る。
「さあ、この3匹の中からキミの好きな”ファーミィ”を選んでね、ってあれ……4匹?」
まず女性と目が合って、それから少年の方と目が合う。ボサボサの長い髪の隙間から覗くその視線に、思わず背筋が凍る。
「……あの子でもいいんですか」
少年がオドオドとした様子で言った。私の方をじっと見つめて。
「あー、そうね……ここにいるってことは博士が新しく連れてきたのかな? 見たことない子だけど、まあ大丈夫でしょ、多分」
頷いた少年が、手にした腕時計型の端末を私に向ける。これって——。
気づいたときにはもう終わっていた。端末のレンズから照射された光を浴びた瞬間、頭の中を電流が流れたようだった。体には特に変化は無い。けれど、大切ななにかを失ってしまったような気がした。
「テイム完了だね。じゃあ続きは研究所の方で」
喪失感の正体を掴めずにいると、突然目の前が明るくなった。次に目を開けたときには、狭く暗い空間に閉じ込められていた。
何も見えないが音は聞こえる。二人の会話を聞いているうち、恐ろしい予想が立っていく。
そしてその予測は、最悪の形で的中してしまった。
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