第10話 おかえり、我が家へ

 ティオは、協会で契約を交わし正式にリタの使い魔となり、そしてリタの義弟として、アスタルト家の一員となった。

 協会から帰ってきた2人。家には両親、兄達、そして使用人達が出迎えてくれていた。


「おかえり…リタ、そして、ティオ…」

「ただいま戻りました!」

「契約は…済んだみたいだね…」

「はい!これで、ティオは正式に私の使い魔になってくれました!」

「こ、これからよろしくお願いします…サイガさん…」


 おどおどした様子でサイガに挨拶をしたティオ。だが、サイガはティオに視線を合わせるように、しゃがみこんで笑顔で言った。


「ティオ…もう君は僕ら"家族の一員"さ…だから、"さん付け"はおかしいよ…」

「え、でも…」

「お父様は君を"リタの義弟おとうと"として迎えるように言った、リタの義弟と言う事は、でもあるんだ…だから、今日から僕も君の義兄あにって事さ!」

「え、義兄…」

「そう、ユーリもサティも、今日から君の"お義兄さん"と"お義姉さん"って事さ!だから、僕らの事は"義兄にいさん"、義姉ねえさんって呼んで良いよ…」

「…はい、サイガ…義兄にいさん…」

「おい、兄貴…」

「よろしくお願いします…ユーリ義兄にいさん…サティ義姉ねえさん…」

「勝手に呼ばないで!私はまだあなたを義弟として認めてないんだから!」


 ユーリは複雑な表情をしていたがサティに関してはリタの事もあってか、まだティオを家族としては認めていなかった…。


(もう、何よ!リタの愛情があの子に独り占めされちゃうわ!)


 そんなサティの思いとは裏腹に、ティオは使用人に招かれて食堂へ足を運んだ。


「うわ~!おいしそう!!」


 テーブルには、ハンバーグ、カレーライス、スープ、サラダ等のあらゆる料理が並んでいた。それはティオを新たに家族の一員として迎える為に両親が用意したものであった。


「おかえり、今日は新しい家族を出迎える為のお祝いだ…好きな物を食べなさい」

「いいんですか!?」

「ええ、あなたはもう私達の子供だもの…」


 両親は優しい笑顔でティオを心から歓迎した。


「あ、ありがとうございます…お…お父様、お母様…」


 いきなり親になった2人に対してはまだぎこちなさがるのか、ティオは2人を父親と母親と認識するのはまだ早かった。


「いいのよ、ゆっくりで…」

「これから、私達の事を親として見ればいい…」


 ぎこちない会話を終えたティオはすぐさま席へついて食事を始めた。ティオはどれも嫌な顔をぜずにおいしそうに食べていた。まるで手をまったく止めないかのように食べる事に夢中になっていた。


「ティオ、よく食べるね…あ!それ、ニンジンだけど…?」

「ん?ニンジンおいしいよ!」


 リタは驚いていた。普通の子供なら嫌がるはずの野菜をティオはおいしそうに食べていたからだ。


「竜人は暴飲暴食だって本で見たことあるけど…」

「ただ、単に好き嫌い無いだけじゃね?」


 サイガは冷静に観察、ユーリは少々驚きつつ、ティオの食べる姿を見つめていた。

 そしてリタはそんなふうに何でもおいしそうに食べてリルティオを微笑ましく感じていた。


「ティオえら~い!好き嫌い無いなんて!」

「うん!僕、嫌いな食べ物無いから何でも食べるよ!食べるの大好き!!」


 そんなティオの食べている姿に、家族は微笑ましい雰囲気に癒されていったのだった。


「俺も食うぞ!いただきます!」


 まるでティオに釣られたかのように、ユーリも食事を始めた。そしてそれに続いてサイガ、サティも食事を始めた。


「美味しい!!これも、これも!全部美味しい!!」

「ふふ、ティオ、口にソースが付いてるよ、お姉ちゃんが拭いてあげる」


 ティオの口元にハンバーグのソースが付いていた事に気付いたリタは優しくナプキンで拭いてあげた。ティオは恥ずかしそうにお礼を言う。


「ありがとう!リタさん!あ!」

「ティオ…さっきも言ったじゃない…私達はもう姉弟でしょ」

「そうだった、じゃあ…リタ…姉さん…」


 やはりまだティオは照れていた…そんなティオにリタは…


「うふふ、ティオの好きなように呼んでいいけど…どうせなら…って呼んでくれる?」

「え??」

「うん!」

「じゃあ…お姉ちゃん…」

「なあ~に?」

「お姉ちゃん…お姉ちゃん!!」

「は~い!お姉ちゃんだよ~!」


 「お姉ちゃん」と呼び方を変えてティオはまるで重みが解けたかのように明るくなった。そしてリタもまた、ほほえましい笑顔でティオを義弟おとうととして改めて接していったのだった。


「はあ~!!羨ましい~!私だって、リタにって呼ばれた事ないのに~!!」

「ははは、リタの方が先にになっちゃったね…」


 やけな表情でがっかりしたサティとそれをなだめるサイガであった。


「ティオ、改めて歓迎するよ…ようこそ我が家へ…」

「はい…」

「そして…おかえり…」

「え?」

「今日からここが君の家になる…だから、だよ…」


 「おかえり」の一言があまりにも嬉しすぎたのか、ティオは涙を流した…。


「はい…ただいま…サイガ義兄にいさん!」


 その後、お腹いっぱいになったティオは満足したかのようにほっこりした笑みを浮かべた。

 


 そして、寝る時間になった。

 リタとティオは、初めて会った日と同じように、同じベッドで寝る事となった。もっとも、ティオの使う部屋がまだ用意出来ていなかった為、それまでの間としてでもあった…。


「ティオ、今日からず~っと一緒だよ…お姉ちゃんがそばに居てあげるからね」

「うん、お姉ちゃん、僕…絶対お姉ちゃんを守れるくらい立派に使い魔がんばるから!」

「うふふ、そんなに気にしなくてもいいよ…お姉ちゃんはティオがそばに居てくれるだけで幸せだから…」


 他愛もない話を済ませた2人は、明かりを消して眠りにつこうとしていた…


「お休み、ティオ…」


 おやすみの挨拶を伝えたリタはそっとティオの頬にキスをした。


「え?なに!?」

「うふふ、前にティオが気になっていたでしょ?!」


 それは、以前リタがサティにねだられていた「おやすみのキス」であった。以前、ティオは子供らしい疑問を持っていたが、いざ自分がされたとなり、赤面していた。


「これが、おやすみのキス?」

「うん、普通はやる人とやらない人がいるんだけどね、キスをするのはその人の事がだからなの…」

「すごく…好きだから?」

「うん、だから、ティオもお姉ちゃんが好きなら、してもいいよ…」


 ティオはサティの事を理解した。サティもリタの事がすごく大好きだから、あの時キスをしてほしかったんだなと…


「僕もお姉ちゃんの事、大好き!だから…」


 赤面しながらではあったが、ティオもリタの頬にキスをした。


「じゃあ、改めて…お休み、ティオ」

「お休み、お姉ちゃん」


 こうして、家族として、2人の義姉弟きょうだいは仲良く眠りについたのだった…。

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