この世界の綺麗なところで、

桜空 ゆうき

第1章 『僕が住んでいる綺麗な世界』

僕、成瀬 綾人なるせ あやとは早朝ある学校へ向かうため一人で歩いていた。

『四葉園』と呼ばれるその学校は僕の祖母が設立したもので僕は今日からそこの職員としてお手伝いをする事になっている。四葉園は所謂いわゆるフリースクールと呼ばれるような場所。他の学校と違うのは、行ってみたらわかるとのことなので僕も正直よく分かっていない。

「…ここか。」

門をくぐるとおしゃれなステンドグラスがつけられた建物が見えた。思いの外広かったため地図を持っていても迷ってしまいそうだ。


「おにーさん、誰?」

小学生くらいの女の子に声をかけられた。四葉園には小学科と中学科、高校科それぞれ一クラスずつで区分されている。ちなみに僕が勤めるのは高校科だ。

「職員室に用事があるんですけど行き方が分からなくて。」

女の子に目線を合わせてしゃがみ怖がらせないように注意しながら伝えると小さな力で僕の手を掴み「こっち」と引っ張って行ってくれた。優しくて親切な子だった。


「綾人ー!よく場所分かったね。」

「遅くなってすみません、この子が案内してくれたので。」

「案内した!」

「本当に助かりました、ありがとう。」

女の子にお礼を言うと嬉しそうに笑った。ちなみに僕を職員室で待っていたのは母のお姉さんにあたる方で、僕を園に誘ってくれた張本人だ。お姉さんはこの園の小学科を担当している。

「舞ちゃんありがとね、クラス戻ってて。」

と一緒に戻ってる!」

女の子の名前は舞ちゃんと言うらしい。「たっくん」と一緒に戻るということだったが一人でその場を離れて行ってしまった。

「たっくんって子…待たなくていいんですか?」

「この園に通う子達のことどのくらい聞いた?」

僕が聞いた質問の答えは返ってこず逆に質問を返されてしまった。

「クラス分けくらいで他は特に…。」

そっか、と目を伏せながら一息ついて言った。


「『たっくん』はこの世に存在してない、あの子がつくった妄想上の友達なの。」


「妄想上……『イマジナリーフレンド』ってことですか?」

『イマジナリーフレンド』というものについては以前ニュースで見たことがあった。自分の中にのみ存在している仮想友達のようなもので解離性障害かいりせいしょうがいに区分けされる。

「…よく知ってるのね。舞ちゃんは解離性障害を持つ子なの。この園にはたちだけが通ってる。」

「……そういう子。」

その言葉がどこまでを指す言葉なのか理解は出来なかったがおそらくこれから色んな人に会う事になるのだろう。

「怖い?」

「いえ、楽しみです。でも仲良くなれますかね。」

僕の言葉にお姉さんは少しびっくりしているようだったが、それからすぐに笑った。

「大丈夫よ、きっと。」

何年振りかの再会だったがこの安心感は昔から全く変わっていなかった。



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

【人物まとめ】

成瀬 綾人…僕

お姉さん…成瀬の母の姉(叔母)、小学科の職員

舞ちゃん…小学科の生徒、解離性障害を持つ

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