弱小領主の軍師になりましたが、異世界アニメで助かりました!

覚醒のジュリア

第 1話 妖精

 中学校に入学して、もうすぐ四ヶ月が過ぎようとする6月某日の土曜日


 本当なら『己巳の日』にするべきだが、こちとら中学生 遊ぶのに忙しい


 そこまでは合わせられなかったので、『巳』の日で納得しておく


 パパの誕生日が近いので、地元浅草の神社へ『油揚げ』を持って向かう


 前日にスーパで買っておいた業務用だ 1枚2枚ではなく、業務用なのだ


 そこに、願いの大きさや意気込みが『具現化』されたような多さだ


 ここの神社は、願うと『出世』が叶うありがたい神社


 『出世稲荷』としては、メジャーではないのかも知れない


 だが、それが良い 知る人ぞ知る、この『アングラ感』が堪らなく良い


「忘れないうちに、お札を買っておこう!」


 社務所でお札を頂き、鳥居をくぐり小銭を数枚賽銭箱に入れる


 鈴緒を掴み揺らす「ガランガラン」鈴の音が鳴り響いた瞬間


 3匹のきつねが足元に現れた


 「あら!ワンちゃん! いや…きつね!?」


 お社には「きつねの焼き物」が多数奉納されているが、特徴を捉え似ている


 「あっ、これをあげるわよ… ちょっと待っててね」


 持参した『業務用油揚げ』の封を開け、3枚取り出そうとした所、1枚落ちた


 その落ちた油揚げを、3匹のきつねは口で咥え引っ張りあう


 「ちょっと待って!みんなにあげるからね」


 油揚げを2枚取り出し、『業務用油揚げ』の袋はお社にお供えした


 2枚の油揚げを差し出すと、引っ張り合うのを止めた2匹が、改めて咥える


 3匹のきつねたちは、綺麗に油揚げを平らげた


 参拝に時間を掛け過ぎてしまったと少しばかり反省し、後ろをチラリと振り返る

 

 後ろには確かに居た 順番を待っていた、おばさんとおじいさんが… だがいない


 辺りを見渡しても、誰も見当たらないし声も聞こえない


 ちょっとばかり怖くなった『ちせ』は、お社を出て三段の石段を下る


 二重に設置された鳥居を通り抜けたと同時に、とても変な感触が全身を通り抜けた


 1匹のきつねが、ズボンの裾を噛んで引っ張る


「ど~したの? どこに行くのよ??」


 引っ張るきつねと、引っ張られる『ちせ』 その後ろから2匹のきつねが続く

 

 お社の裏手に小さな入り口があり、きつねはそこに誘導したいらしい


 「こんな所に勝手に入ったら、怒られちゃうよ! ・・・分かったわよ!」


 ちせは、小さい入り口をくぐり中に入るが、すぐに行き止まりだった


 大人2人分が入れるそのスペースの最奥 行き止まった壁下の地面には、


 小皿に綺麗に盛られた盛り塩と、空のお猪口


 つけたばかりの線香が、煙をくゆらせている・・・


 ポシェットには未開封の小さいお茶のペットボトルがあったので、


 それをお猪口へ注ぎ 一応拝んでみた


 外に出ると、そこは辺り一面樹海だった 


 再度振り返るとそこにお社はないが、今出てきた穴はある・・・


 その穴は、巨大な岩に掘られた、超絶短い洞窟… ではなく、岩のかまくらだ


 森の中に迷い込むって… ホラーかミステリー 非常に怖いシチュエーションだ


 これが「流行りの異世界」なのだろうか? 疑問は尽きないが、怖くて堪らない


 中学生女子1人ときつね3匹のパーティ 正に負け確の組み合わせ


 スマホを取り出し電話を掛けるが…繋がらない ネットもダメ


 充電し忘れたので半日も持たない 充電残量は25%


 兎に角人に会いたい… 会えば会ったで逆に怖いが


 矛盾した気持ちを抱えながら、きつねの歩む方へ歩き出す


 かれこれ一時間は彷徨っただろうか


 視線の奥の更に奥の方に、人工的な何かが見えた・・・


「板かしら?」


 近づくにつれ、全貌が見えてきた


「柵だ! あんたたち… やっと着いたわね… 全くもう」


 テレビで観た牧場の柵と大差ない作りだ

 柵に手を掛け左右を見渡すが、出入り口は見当たらない


「入っちゃおう」


 怒られても構わない気持ちで柵を乗り越えると


「コラ~!! 勝手に入ったら、イケないんだよ!

 園長先生に言いつけるからね!


 その声に反応したきつねは、3匹共逃げてしまった・・・

 女の子の声が聞こえたが、辺りを見回しても誰もいない


「ねぇ? あなたどこにいるの~?」


「ここに、いるじゃない!!」


「え~? どこ? どこなの?」


「もうちょっと上! 少し右… 違った左、 下 そう!」


 指示された方向を見ると、羽の生えた虫… 蝶々 いや!

 小さい人形に羽が生えてる?


「あなた妖精なの?」


「そうよ!わたしは妖精 ピクシーのピコ! この村の警備をしてるんだからね」


 アニメでよく見る、いわゆる『ド定番』の妖精だ

 この子があるあるの『最初の相棒』って流れ? いや… 確実に違うな!


「私は『木野村ちせ』よろしくね!」


「あなた… 怪しいわね! 連行するから、ついてきなさい!」


 なんか『ちゃいちい奴』に連行されてしまった

 妖精『ピコ』の後をついて行くと、ある建物の前でこう言った


「ここが園長先生とわたしの家『太陽園』よ!」

 妖精がドアを開け中に入り、誰かを呼んでいる

 すると小屋の中から、年の頃50歳くらいの細身の女性だ


「ピコ、一体どうしたの?」


「園長先生、わたしが村の警備をしてたら、怪しい子を見つけたの!」


「怪しい子?」


「そう!だからここまで連行したのよ!」


「あら?あなたは初めて見る方ね? どこから来たの?」


「あのぅ、実ははぐれて迷ってしまいました… 浅草ご存じですか」


「アサクサ… ちょっと存じ上げないわねぇ」


「ここはどこでしょうか?」


「ここは泡沫国傘下ノア男爵様のご領地【タカミ村】」


「ほうまつこくさんかのあだんしゃくさまのごりょうち【タカミ村】・・・」


「私はこの施設のシスター、テクラです この子はピコ あなたのお名前は?」


「私はちせです!」


「ティセさんね」


 その出会いから2年が過ぎた・・・

 その間には、何度も岩のかまくらに行くが、帰る事はできなかった


「ねぇ、シスター! じゃあ行ってくるね ピコも待っててね」


「気を付けて行ってらっしゃい 早く帰って来るんだよ!」


「ティセ、ピコにおみやげ買ってきてね!」


 乗り合い馬車に乗り込み、互いに手を振って別れる

 私は『ある物』を買いに『王都』へ向かった

 

 一緒に乗り合わせたのは4人

 スペースは余裕があって良いのだが、座り心地は悪い

 目的地の『王都』へは、

 馬を休ませながら行くので、約2日掛かるそうだ

 時計はあるが守られた試しがない、とてもアバウトな人々

 剣や魔法、魔物や魔王がいるリアルでファンタジーな世界

 元の世界に戻れるのかは分からないけど、死なないように生きてきた

 恐らく、王都で売っている『ある物』を買えば、死なない確率が上がるから

 乗り合い馬車は休憩をはさみながら、更に進んで行く


 ~1年ほど前のある日~

 

「おぉ!ティセおはよう!」


「ミーアさん、おはようございます!」


【タカミ村】衛兵『ミーア(女)』が話しかけてきた


「畑に行くんだろ?」


「はい! ミーアさん結婚式は決まったんですか?」


「それがさぁ、あいつポカしやがってさ・・・」


「アルゼさん、何かやったんですか?」


「夜警中にさ、居眠りしてんの・・・ しかも領主様に起こされてさ・・・

 ノートン様にメチャクチャ怒られて【ハルヨシ村】に戻されちゃったんだよ…

 明日2人共休みだからさ、王都の教会へ下見に行く予定だったのにさ・・・」


「えぇ~ 何やってんの!バカじゃん」


「そうなんだよ、バカなんだよ! 初めて王都に行くからさ・・・

 凄く楽しみにしてたんだよ… 教会とギルドに行くのがさ」


「教会は分かるけど、ギルドも楽しみだったんですか?」


「そう!ギルドでね、お買い物できるんだよ!」


「ギルドでお買い物って・・・ 普通のお店じゃないの?」


「普通のお店にもあるんだけど、ギルドだと【ジュリア】特製の商品があるの」


「【ジュリア】って何?」


「ティセは【ジュリア】知らないか? 私も聞いただけだけど教えてあげるよ」


「うん!」


「この世界の中央に【永世中立国ジュリア】って国があってね、

 その中心には『送魔塔そうまとう』天まで届くような建物があるんだって

 そこと敵対すれば、相当な軍事力があるらしいんだけど、

 周辺諸国が「我先にと」その敵を殲滅せんめつするみたい

 ここを敵に回すって事は「世界の全ての国家」を敵に回すと同じなんだって


「いい顔したいって事なのかな?」


「多分そうだね

【ジュリア】にはあらゆる『ギルド』『商会』『販売』『センター』を集約して、

 世界各国と全ての経済が繋がる『送魔システム』の大元なんだってさ

 国家レベルでの利用がメインで、普及率も個人利用率もまだまだらしいけどさ

『ギルド』に登録する事で『送魔システム』が使えるようになるんだってさ」


「へ~凄いね! それでミーアさんはギルドで何を買いたいの?」


「私が欲しいのは、ごにょごにょごにょだよ! それが凄く綺麗でね

 しかも・・・ ごにょごにょごにょなんだよ!」


「そんな事が・・・ 凄いじゃん!」


 この世界に迷い込んでからもう2年 ようやく『ギルド』に登録できる

 私の生存本能は『送魔システム』に頼るしかないと…

 


 村では見た事が無い、乗り合わせたおじいさんが、話しかけてきた


「お前さんは、何処へ行くんだね?」


「(大体話しかけてくる人間って怪しいのよね… 見た事ないし…

 ただ・・・ 王都に行くってバレたところで、今は何とも無いよね・・・)

 はい、王都へ行きます!」


 

 

 次回 第2話『老人』

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