第12話_コロッセオ

 生徒会長の木下から命名された「ラスボスを退けた唯一の男」という肩書。

無茶苦茶だ、しかもダサい……と涼介は頭を抱えた。


 スカウトマンの石田といい、木下先輩といい勝手すぎる。最近、こんなヤツとしか会っていない気がする。


 涼介はそもそも巻き込まれたくなし、目立ちたくない。

 涼介の気も知らず木下は「伊藤君にコロッセオの説明をしておかないと……だよね」と話を進めた。


 「そもそもコロッセオってなにか知っているわよね。歴史の教科書に載っているギリシャにある古代の闘技場。人と人が戦ったり、人と猛獣が戦ったり。ウソかホントか知らないけど、あのコロッセオで海戦なんかもしたらしいわよ。その歴史の授業に出てくるのと同じ名前のコロッセオ。その名前の通り、私たちは戦わせられるってわけなの」

 「戦わせる?誰が?」

 「まあ、それはまだ知らないほうがいいかも。それよりも、現状を理解したほうがいいわ。」

 木下は軽く咳払いをした。

 「大会と言っていいのか、ゲームと言った方がいいのかわからないけど、このコロッセオは、3日前の7月13日に始まったの。勝手だよね」


 ふと涼介の頭の中ひっかかった。


 7月13日?土曜日?

 スカウトマンの石田と会ったのは……金曜日だから、7月12日。そういえば、アイツ、妙なことを言ってたな。「参加応募期限もギリギリ」って。


 涼介は、あの時の石田の言葉とその慌てる様子を思い出していた。腑に落ちるものがあった。落ちて欲しくはなかったが。



 木下が話を続ける。

 「今回の大会が第10回目で、伊藤君が会ったラスボスは前回大会の優勝者。前回大会始まってすぐに圧倒的な強さと凶暴さに参加者が震えあがったらしく、『こいつを倒すことができれば優勝できる』って口々に言われていたらしいわ。それくらいの強烈な印象からラスボスって異名がついたみたい」

 「そんなやつだったのか」

 「ええ。ただ、通常であればコロッセオに一度でも参加したものは、再度参加できないって聞いていたんだけど、ラスボスだけは異例の参加。それで、私たちも含め参加者全員が警戒しているの。バケモノ級の強さってことは確定しているから」



 それで、俺を「ラスボスを退けた男」にしたいのか……

 


 涼介はうんざりとした。でも、理由は理解できた。

 「でもね、勝機はあると思っている」

 木下は、他の生徒会メンバーの方を見渡したあとに、涼介の方に向いた。

 「これまではトーナメント制だったんだけど、今回は総当たり戦。つまりバトルロイヤル方式だから、やりかたさえ間違えなければ、ラスボスをヤレるわ」


 そう言いながら、木下はスカートのポケットからスマホを取り出し、操作した後、その画面を涼介に向けた。


 「それと、コレも大事よ。今回の大会用にアプリが作られているのよ。ログインのID、パスワードはスカウトマンからもらってね」

 そう言い、木下はスマホをさらに操作しながら「あ、やっぱり減っているわね」と言いながら、また涼介の方に画面を向けた。

そこには「47/50人」と記載されていた。

 「想像つくと思うけど、50人参加して3人リタイアしているわ」

 木下は、スマホをスカートのポケットに戻した。

 「伊藤君。私たちがこうならないためにも、伊藤君の存在と強固なチーム作りが必要なの。だから、私たちの力になってほしいの。ラスボスのことを教えて欲しいの」


 木下はまっすぐ伊藤の方も見つめた。その視線に耐え切れず涼介は「なにも役になんて、立てませんよ」と視線を外した。

 木下は首を横に振る

 「大丈夫。役に立たないなんて人はいないよ。誰もが長所と短所があることを私は知っているから。だから、長所は伸ばしあい、短所は補いあえば、ラスボスにだって勝てちゃうよ」


 涼介は目の前の笑みを浮かべた木下を見ていると、本当にあのラスボスを倒せるのではないかと思う。勇気が湧くというのではない。ただ、本当にそれを実現してくれるような気がした。


 涼介は「それじゃあ、ラスボスのことを……」と言い、ゆっくりとした口調で先週金曜日の話をした。


 ラスボスは自身のことを北上と名乗っていたこと。外国人っぽい容姿をもっていること。ラスボスに歯が立たなかったこと。戦いの最中に日本刀を振るう若い女性が参戦したこと。そして、涼介が生み出す砂の大型犬が大半食べられてしまったことすべてを話した。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介:高校1年生。久原道場の元門下生

・古賀星太:高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生

・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。


・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞:高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬:生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス


■不明

・水野:日本刀を持つ女

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