第10話_生徒会

 早朝、全校生徒の憧れである生徒会長の木下から「おはよう。キミが伊藤涼介君ね。ねえ、生徒会に入らない?」と握手をされた。



 ……最悪だ。



 涼介はその場にいた生徒から注目され、教室に入ってからも不穏な視線を感じていた。その視線の発生源は同級生の明なのだが。


 「おい、涼介。あれはどういうことだ?」

 明の目がすわっている。

 「知らねぇよ」

 何度も同じ質問を明からされた。だが、答えようがなかった。



 放課後。

 涼介はダッシュで教室を飛び出そうとしていた。帰る支度は万全。あとは、足のつま先にありったけの力を込めるだけだった。これ以上かかわりたくなかった。生徒会にも、明にも。

 だが踏み出す前に星太から「さあ、行くよ」と腕を掴まれた。小柄な体型で優しい口調とは裏腹に、ゴリラ並みの腕力で掴まれている。星太はやろうと思えば、一撃で涼介の意識を刈り取るくらいの武道を心得ている。

 背中から「オレも行こうか?」という明の声が聞こえてきたが、星太は聞こえていたのか、いなかったのかわからないが、その声はスルーされた。


 星太にがっちりと腕を掴まれたまま、離さなかった。


 さすがは幼馴染。考えがバレてるか……クソ。

 涼介は、心の中で舌打ちをした。


 星太に連行される涼介。

 涼介は帰らないといけない理由を何個か並べたがすべて却下され、星太はそのまま生徒会室の扉を開けた。

 生徒会室にいた者たちの視線が全てこちらに向いた。涼介は、武道の先輩でもある久原貴斗と目が合った。

 星太は気にすることなく「失礼します」と軽く頭を下げ、生徒会室に入り、涼介を引きずり込んだ。



 生徒会長である木下舞が立ち上がり「伊藤涼介君。来てくれてありがとう。生徒会に入ってくれるんだね」と笑った。

 「いや、入るとは……」

 その言葉を星太が遮り「入らせます」と言った。

 木下は「そうね、入らないとまずいわよね。伊藤君のためにも入るべきだよね」と頷いた。


 木下は、涼介の方に向き直った。

 「伊藤君に、私がなんで生徒会に誘った理由をちゃんと説明しないといいけないよね。でも、その前に質問させてもらってもいい?」

 涼介は後ずさりながら「はい」と返事をした。


 隙あらば逃げようと思うのだが、星太が何気ない動作をもって生徒会室の出入り口を完全に制していた。力づくでも絶対無理だ。

 「伊藤君、コロッセオに参加しているよね?」


 ……コロッセオ?何のこと?


 涼介は、後ろにいる星太の方を見て「コロッセオってなに?」と聞いた。

 星太が怪訝な表情を見せる。

 星太が口を開く前に、木下が「え?知らないの?」と聞いてきた。それに追随するように星太が「涼介、嘘をつくなよ」と言った。

 「いや、ホントに知らない。なに?」


 いきなり生徒会室に連れてこられ、生徒会メンバーに囲まれて、コロッセオ、コロッセオと言われても分かるわけがない。しかも、おとなしい星太にも睨まれている。


 ……ものすごく帰りたい。


 そんなことを考えつつ、涼介は周りを見渡す。興味なさそうにしている小太りの男に、ただ様子を見ている女。久原はなぜかずっとこっちを睨んでいる。


 木下が「え~知らないの?」と首をひねる。この生徒会室の中で唯一木下だけが笑顔だった。


 「じゃあ、質問を変えるね。スカウトマンって名乗る人と会った?」

 「え?ああ、スカウトマンとは会いました」

 「スカウトマンの名前は?」

 「石田さん」

 「え?」と木下が目を丸くした。

 奥に座っていた生徒会メンバーの女が「え?本名?マジで?」と笑った。

 木下が「スカウトマン・なんとかって言ってなかった?」と聞いてきた。


 ……そういえばスマホにメッセージが届いていたな。


 涼介はスマホを取り出し「ちょっと待ってください。えっと……スカウトマン・ヘクトスです」と言った。


 木下は奥に座っている眼光が鋭いメガネ男に「ねぇ、世良君。ヘクトスって、あの?」と声をかけた。

 世良と呼ばれた男が「ああ。やる気のない、いいかげんなスカウトマンで有名なヤツだ」と即答した。

 「もう。伊藤君の前でそんな言い方して……伊藤君ごめんね」と木下は苦笑いをした。

 涼介には、何が「ごめん」なのかわからなかった。


 「それで、スカウトマン・ヘクトスからは何も言われたかった?コロッセオのこととか、その説明とか」

 「いや、何も」


 ……あのオヤジ。

 涼介は石田の顔をにやけ顔を思い出し、イライラしてきた。だが、その苛立ちを無理やり奥の方に押し込んだ。


 木下は頷きながら「なるほどね……少しわかってきたわよ」と笑顔になった。

 「あと、最後の質問いい?」

 「はい、何でしょうか?」と返事をした。ただ、涼介は何を質問されても、何も知らない。

 「伊藤君、ラスボスと会ったわよね?」

 「え?あ、はい……」


 生徒会室がざわついた。

 興味なかった男も、様子を見ていた女も全員、目を丸くしてこちらを見た。なんか視線が痛い。


 「涼介、ラスボスと会って……お前、よく戻ってこられたな」と久原が言った。


 ……なんか、マズいことを言ったのかもしれない。

 涼介は、軽く返事をしたことをものすごく後悔していた。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介:高校1年生。久原道場の元門下生

・古賀星太:高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生

・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。


・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞:高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良:生徒会メンバー

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。


■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス


■不明

・水野:日本刀を持つ女

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