第7話 剣術実力試験②

『401番から500番の生徒は闘技場に集合してください!』

「ようやく俺らの番か」

「ですね」


 集合がかかったので俺たちは観客席から立ち上がると闘技場の方へと向かう。


「フィーネは何番だったっけ?」

「440番です。アッシュさんは441番でしたよね?」

「ということはフィーネの活躍はすぐ目の前で見られるってことだな」

「な、何だか恥ずかしいですね……」


「……きみがアッシュ・レーベンか」


 そんな雑談をフィーネとしていると、突然気だるげな口調で俺の名前が呼ばれる。

 思わず会話を打ち切り声の主を探すがどういうわけか姿が見えない。

 ……空耳か? 


「……下だ。下を見ろ」

「うおっ!?」


 言われて下を見ると、そこには紺色の髪の少女が不貞腐れた顔でこちらを見上げていた。

 というかこの子って……。


「もしかして……、サラサ・エンフォーサー、さん?」

「そうだ。それ以外の何に見える? というか私1人を探すのに一体どれだけ時間をかけているんだ」


 その小柄な少女、サラサ嬢はやれやれと呆れている。


「い、いや。まさか君から話しかけられるとは思っていなくて……」

「私もそのつもりだったが、あんな魔法を見せられたら話しかけないわけにはいかない」


 サラサ嬢は不敵な笑みを浮かべ、さらに俺に詰め寄ってきた。


「きみが作り出したあの人工的に巨大な雷雲を発生させて超特大級の落雷を放つ魔法、あれはこれまで発表されてきた魔法理論にない全く新しい魔法だ。単に属性を組み合わせたり、1つの魔法を極めただけでは再現することなど不可能だろうな。事象とそれに伴う結果、これを完璧にイメージできていなければあんな芸当はできない。さあ教えろ。きみがあの魔法を生み出したきっかけは何だ? きみの師は一体どこの誰だ? それと――」

「あー、えっと……」


「あの!」


 途切れることがない質問の嵐にどう答えようか困っていると、フィーネが声を上げて俺とサラサ嬢の間に割って入る。


「きみは……、フィーネ・シュタウトか。きみのあの光の魔法にも興味があるが、今は彼への質問が先だ。邪魔をしないでもらおう」

「わたしたちは集合がかかっています。質問は後にしていただけないでしょうか」

「私は知りたいと思ったことはすぐに知りたいのだが」

「それはわたしたちが試験の集合場所へ向かうことを妨げる理由にはなっていません」

「ううむ……。難しいな……」


 心なしか気が立っているような印象がするフィーネの言葉にサラサ嬢は考え込む。


「アッシュ・レーベン、残念だが今回はここで引き上げさせてもらおう。また会った時はじっくりと私の質問に答えてくれたまえ」


 サラサ嬢はそう言ってぶかぶかの制服からはみ出した手をヒラヒラさせながら、俺たちの前から立ち去る。


「ごめんなさい。でしゃばったことをしてしまって」

「いやあ本当に助かったよ、フィーネがいなかったらどうなってたか」

「そ、そうですか。だったら良かったです」


 俺が感謝を伝えると、フィーネは頬を赤く染めて顔を背ける。


 あの手のタイプの人間に絡まれるのはこれが初めてだ。

 手を上げるわけにはいかないし、かといってわざわざ質問に付き合う時間も義理もない。フィーネが助けにきてくれなかったら本当にどうなっていたか。


「と、駄弁ってる時間はもうないな。フィーネ、走るぞ!」

「えっ、あ、はい!」


 そう言って俺はフィーネの手を掴み集合場所へと向かうのだった。




◇◇◇



「次、440番フィーネ・シュタウト!」


 番号が呼ばれフィーネは貸し出された剣を持って闘技場に上がる。

 フィーネは深く息を吐くとゆっくりとゴーレムとの距離を詰めていく。


『………!』


 先に動き出したのはゴーレムだった。

 ゴーレムは右手に装備した片手剣をフィーネに振り下ろす。


「……っ!」


 それに対してフィーネは自分の剣で攻撃を受け流し、ゴーレムの武器は闘技場の地面に埋まってしまう。


「はあっ!」


 フィーネは剣を抜こうともがくゴーレムの腕を踏み台にして高く飛び上がると、全身を甲冑で覆っているゴーレムの本体が唯一晒されている部分、鎧兜の目の部分に剣を突き刺す。

 頭に剣が刺さったゴーレムは硬直し、膝から崩れ落ちる。


「フィーネ・シュタウト、93点!」


 試験官が点数を叫ぶと場内で歓声が沸き起こる。

 魔法と剣術、両方の実力試験で90点以上もの高得点を叩き出したのは相当久しぶり……というかあの最強王太子様以来の快挙だからな。

 しかしそれより喜ぶべきはフィーネのこの高得点に対してブーイングではなく歓声が起こったということだ。

 4馬鹿、いやエリーゼを含めたら5馬鹿か。あいつらが宝剣を正式な決闘とはいえ学生の単なる私闘を持ち出すなんて蛮行を働いたこともあったからか、生徒の中にはフィーネへの認識を改める者が現れつつあったが、今回の大活躍で殆どの生徒が彼らに続くことになるだろう。

 

「つ、次、441番! アッシュ・レーベン!」


 さて、ようやく俺の番か。

 俺は軽く体をほぐしてから気合を入れ、新しい剣を装備したゴーレムが待ち受ける闘技場に上がった。


『…………』


 ゴーレムは剣を構えながら、こちらがどう動くか様子を伺っている。

 さて剣術実力試験では武器が破壊されると自動的に決着がついてしまう。

 そして貸し出されたこの剣の耐久力で武器破壊すればこちらの武器も木っ端微塵になりかねない。

 あの決闘の時に使っていた剣のステータスは全体から見れば中の下だが、実力試験で貸し出される剣はイベント専用武器というユニーク性はあるが性能は最低クラスだ。

 それに今回はフィーネのバフもないから耐久力を上げることも出来ない。

 こちらの武器を破壊しないようにしつつ、あのゴーレムを沈黙させる方法……。


(いや、そうか。破壊されなければいいのか)


 俺は剣を左手に持ち直すと、一息でゴーレムの死角に回り込む。

 相手はゴーレムだ。アルベリヒの時のようにわざわざ力加減してやる必要はない。


「っ!」


 俺は握り拳を作り、それを鎧兜に覆われたゴーレムの頭部に全力でぶつける。


『―――――!』


 衝撃波が発生した後、鎧兜はその中のゴーレム本体の頭部ごと粉々に砕けていく。


 この剣術実力試験には「剣で決着をつけないといけない」なんてルールは無かったはずだ。

 だったら力加減をせずゴーレムの部位を素手で破壊して決着をつけてしまう。

 これが俺の出した答えだ。

 とはいえ……。


(剣術実力試験で正拳突きで勝負を決めたとなったら評価は落ちるだろうな)


 そう考えつつ自分の採点が出るのを待つが、試験官たちはずっと何かを話し合ったままだ。

 ……まさか再試験になるのか? そうなったら素手で壊すとかも禁止されそうだな。

 そうなったらいっそのことサラサ嬢のように即降参してしまおうか。


「お待たせして申し訳ない。ただいま採点結果が出ました。441番、アッシュ・レーベンは99点とします!」


 …………99点?

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