第10話 さよならの代わりに
木下美紀は片づけを終えた。自分のものだけを片付けると、段ボール二箱分だけだった。こんなにも色々与えてくれる人だったのに。彼は、今日も休日出勤だった。
仕事が忙しい人であることは初めからわかっていた。だから、彼との時間が少ないことは覚悟の上だった。だから別れの原因はそれじゃない。
何度言ってもシンクにおいてくれない、使ったコップ。何度言っても洗濯機に入れてくれない靴下。何度言ってもきちんと閉めてくれないジャムの瓶。
そして、止めてくれない煙草。
彼は言った。煙草が嫌いな私の為に禁煙すると。彼は私の前では煙草を吸わない。
だけど、彼はいつも帰ってくると消臭スプレーの香りがするのだ。その奥に、私が煙草の匂いを見つけないと思っているのだろうか。
彼は見えないところでも私との約束を守ってくれない。その対価が段ボール二箱分になった。
最後に彼女は桜の花を取り出した。花屋に売っていた枝ごとの桜。
それを、テーブルの上の花瓶に入れて、彼女は出ていった。
桜は傷つけると、枯れてしまうから。
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