第2話:共同生活始めます
「ウッソ…。何これ…信じられない…ここは天国?」
私は目の前の光景が信じられず、ただ開いた口を手で押さえるのに必死だった。
眩しい。とにかく目の前が眩しかった。私はここでこれから本当に生きていけるのだろうか…。
「何をボケっとしてるんですか。挨拶してください。」
隣にいる氷室さんには冷たい視線を向けられている。
「神様…。ありがとう。」
ついには天に向かって手を合わせ拝み始めた私に、氷室さんはゴミを見るような眼差しを向け始めたが、こうなるのは仕方ないと思う。
私に共同生活を提案してくれた氷室さんに連れられ、着いたのは大きな戸建ての家だった。外観だけじゃなく内装も綺麗で、リビング・キッチンなどの共同スペースの他に、自室が割り当てられている。正直、今まで狭いボロアパートを寝城にしていた私にとって、これ以上にないほどの贅沢な空間だった。
そして、極め付けはこのシェアハウスに住んでいる住人たち。
「はは、お前面白いな!天に向かって拝んでる人初めて見た!なんかの役作りに使えるかな?」
「恭弥くんが女の子連れてくるなんてびっくりしたよ。彼女?」
「…俺まだ依頼残ってるから部屋戻っていい?」
目の前で口々に話す住人たちを横目に、私は氷室さんに問う。
「ひ、氷室さん…。一言どうしても言いたいんですけど良いですか…?」
「どうぞ。」
私はスゥ〜〜〜〜っと息を吸い込み、そして。
「顔面偏差値が高すぎる!!!!!!!」
ギャン!と大きな声で叫ぶ。この状況に騒がずにはいられなかった。
「なんなんですか、ここ!こんな1カ所にイケメンを留めて!こんなの、ネタの宝庫じゃないですか!!しかもみんなタイプの違うイケメン…。眩しい。眩しすぎる。こんなの妄想しか捗らない。ずるいですよ氷室さん!!こんなオアシスを今まで黙っていたなんて…。それでも私の担当編集ですか?せめてネタを提供するくらいしてくださいよ!!」
私は興奮のあまり氷室さんに一気に捲し立ててしまった。
「…げ。こいつ変人?」
「恭弥さんが捲し立てられてるの初めて見たな〜。」
「へえ。面白くなりそうじゃん♪」
やばい。入居初日に変人認定された。仮にも参考資料にさせて頂く訳だし、ここで印象が悪くなるのはまずい。ここは当たり障りなく挨拶を済まさないと…。
「初めまして、桃瀬みのりです。職業小説家です。訳あって今日からこちらに入居させて頂きます。よろしくお願いします。」
ここは余計なことは話さず、ただの同居人としてしばらく過ごさせてもらおう。日常生活は観察できる訳だし、細かいネタとかは仲良くなってから少しずつ聞いていけばいいし。BL小説家っていうのは伏せたほうがいいよね。うん、そうしよう。
「みのりちゃんね。俺、葉月蓮。仕事は商社で営業やってるよ。よろしく〜!」
そう言った彼は、人好きのする笑顔で自己紹介しながら握手を求めて来た。明るめの茶髪で清潔感がある。口元のほくろは少し色っぽい。こういう人を陽キャって言うんだろう。とにかくコミュニケーション能力が高そうな人だ。
「よろしくお願いします。」
私は差し出された手を握り返し、握手を交わす。
「ん?」
「ん〜?」
握手が長い。不思議に思い顔を見つめるが、葉月さんはニコニコとするだけで手をなかなか離してくれない。
「あの…手を…。」
「あっ、ごめんね♪」
指摘するとようやく手を離してくれた。どうやらこの人はスキンシップが多そうだ。
「蓮は生粋の女好きです。気を付けてください。」
「恭弥くんひど〜い!」
氷室さんの言葉にもケラケラと笑って返す葉月さん。BL小説家目線だと、こういう人が意外と一途だったりするんだよな。次のネタにいいかも、使えそう。
そんな
「俺は
金髪の髪を靡かせ、少し垂れ目のくりっとした綺麗な目。顔立ちも整っていて俳優というのも頷ける。
「今はヤクザの役やっててさ。金髪でガラ悪く見えたらごめんな!全然そんなことないから!気軽に話しかけて!」
胸の前で手を合わせてごめんねのポーズを取る朝比奈さん。なんだか明るい人だ。
「詩苑は確か先生と同い年ですよ。」
「え!同い年?仲良くしような!ていうかその恭弥さんの先生って呼び方新鮮だな。あと敬語も。」
「先生とは仕事を通じての間柄でしかないので。」
「あはっ、めっちゃドライ。」
確かに氷室さんとはお互い敬語でしか話さないので、氷室さんが普通に敬語使わず会話してるイメージ湧かないな…。確かにドライだけど、まあ事実だし。
あと挨拶してないのは…キョロと辺りを見回すと、グレーアッシュの髪色にだぼっとしたパーカーを着た人物と目が合う。
「初めまして。よろしくお願いします。」
私が声をかけると、彼は無愛想に「…ん。」と返事をする。
よく見る棒付きの飴を咥えて、コロコロと転がしている。
私のことを真っ先に変人認定した人だ。私は意外と目敏いし根に持つタイプなので覚えている。
「…
一言そう名乗ると、宇佐見さんは自室へ戻って行ってしまった。
「ごめんね〜。うさちゃん、口下手でさあ。」
葉月さんはそう言いながら近寄ってきた。
「うさちゃん?」
「宇佐見だから、うさちゃん。可愛いっしょ?」
「うさはフリーの天才プログラマーなんだよ。一番年下なんだけど、依頼バンバン取ってひたすら引き篭もってパソコンと睨めっこしてるぜ。」
「な?」と朝比奈さんは葉月さんに同意を求めている。なるほど、難しい性格をしているらしい。名前はうさちゃんだけど、性格は猫みたいだな…。
挨拶を済ました私は、自分の仕事用のネタ帳に3人の情報を覚えている限り追加した。使えるものは全て使う。崖っぷちの私にはもう手段など選んでいられないのだ。
こうして私は、BL小説のネタ要素満載の環境で、個性豊かなイケメンたちとの共同生活をスタートさせたのだった。
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