天獄のエデン

@gandolle

♢♢=《【イギリス】》=♢♢

♢1ー《プロローグ》ー1♢





『頼む、頼む。やめてくれ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、頼むから――』







「――はッ。はぁ、はぁ」


 日の出と共に小鳥が鳴き、目が覚める。


「夢か……」


 全身汗でぐっちょりとなっていて、すごく気持ち悪い。


「はぁ。あの悪夢ももう卒業したいな」


 もう三歳ぐらいの時から聞き続けているのに、まだ夢の中に出てくる老人の声。


 苦しそうな、今にも死んでしまいそうな声でこちらに訴えかけてくる。


 いつまでも慣れないから、余計に辛いんだよな……


 ベッドから腰を下ろし、机の前に行く。


 机の上にはもう冷めちゃった昨日のコーヒーと、入学通知書が置いてあった。


「……もう入学かぁ」


 私は今年、アメリカ1と言われる名門大学に合格した。


 元々勉強ができる方ではなかったけど、将来の夢のために毎日死にものぐるいで勉強した。


 仲が良かった友達とも距離を置き、遊ぶことなんて一切しなかったけど、友達は私のことをいつも応援してくれたし、合格した時はまるで自分のことのように喜んでくれた。


 高校生活は勉強ばかりで楽しいとは言えなかったけど、そのおかげで今の私がある。


 今まで支えてくれた人達のためにも、これからもしっかりと勉強しないと。


 そう決心しながら置き鏡を立てて、寝癖を直していく。


 鏡の中の自分と見つめ合いながら、再び過去の思い出を振り返る。


 ……結局、恋愛とかも一切しなかったなぁ。


 告白されることは結構あったけど、正直それどころじゃなくて、毎回お断りを入れていた。


 高校はそれどころじゃなかったけど、大学に行ったら私も恋愛できるかな?


 そう甘い妄想をするが、きっとそれも無理だと早々に諦める。



 なぜなら、高校に入学する時も全く同じことを思っていたからだ。


 きっと大学に行っても同じに決まってる。


 一通り髪をセットして、服を着替える。


「よしっ!」


 ドアを開けて階段を下っていく。


 リビングに行くと、そこにはパソコンと睨めっこをしているママがいた。


 ママは私に気づくと、少し驚いた様子で腕時計を確認する。


「今日は早いじゃないエミリー。またあの夢?」


「うん……最近はずっと」


「やっぱり、少し疲れが溜まっているんじゃないの?病院で診てもらったほうが――」


「大丈夫。いつものことだし」


 ママは少しだけ顔をむすっとさせるけど、今日は病院になんて行っている暇はない。


 なんたって今日は、私の引越しパーティーをする予定だからだ。


「パパは来れないの?」


「……えぇ。また仕事らしいわ。全くあの人は、エミリーの結婚式まで出ないつもりかしら」


「別に大丈夫だよ。毎日電話はしてくれてるしね」


 私は生まれてからこの方、パパと会ったことがない。


 理由は分からないけれど、私を産むことに大反対だったらしく、そのせいで離婚までしたのだとか。


 これだけを聞くと私はパパから嫌われていると思う人がほとんどだけど、本当は違う。


 生活費は毎年過剰に送ってくれるし、大学の学費も全て出してくれた。


 大学に合格した時は、『お前は私の誇りだ』なんて言ってくれた。


 電話でしか話したことはないけど、私はパパがとっても大好き。


 どんな道に進もうとしても応援してくれたし、実際にどうやったら行けるのか道を示してくれた。


 会いたいと言ったらやんわりと断られちゃったけど、きっとまだ昔のことを悪く思っているんだろう。


「……もしも入学式にこなかったら、会社まで乗り込んでやるわ」


 ママは普段の優しい顔とは違い、まるで鬼のような形相をしながら指の骨をバキバキと鳴らす。


 余談だけれど、パパは毎日ママに怒られてる。


 いつまで仕事が忙しいのだとか、いつになったら会えるのだとか。


 私と喋っている時は堂々としてるのに、怒られている時の消え入りそうな声を聞くとどうしてもクスッと笑ってしまう。


「まあまあ。パパも忙しいんだよ。それよりもママ、また徹夜?」


「うーん。あとちょっとなのよねぇ。あ、仕事はやめたけど、これはバイトみたいなものだから。きちんと休みはとってるわよ」


「……どこに国家任務をバイト感覚でやる人がいるのよ」


「はいはい。頼られたら断れないのよー」


 ママは元凄腕のFBI捜査官だ。


 主に国内の犯罪などを取り締まっており、いくつものテロを未然に防いでいる。


 結婚してからは引退したらしいけれど、その優秀さゆえにいまだ仕事のオファーが来るというエリートっぷりだ。


「機密情報とかを一般人に渡しちゃってもいいの?」


「そんなのはもらってないわよ。精々、誰かさんの黒い情報とかを集めてきてーぐらいね」

 

 それも一般人に渡すべきじゃないと思うけど……


 そんなことを思っていると、ママは話を逸らすように私を見た。


「さぁそんなことよりも、パーティーの準備は終わってるの?」


「うん。てか、昨日一緒に準備したでしょ」


 リビングにこれでもかと飾られた装飾を見る。


「そういうことじゃなくて、あなた自身の準備はできたの?」


「私自身?」


「そう。明後日はもうあっちに行っちゃうのよ。友達とお別れする準備はできた?」


「……」


 そう言われるとなにも言えなくなってしまう。


 小さい頃から仲良しだった子ばかりだし、いざお別れするとなるとすごく悲しい。



 けど――


「またいつか会えるんだし、大丈夫だよ」

 

 そう言うとママはクスッと笑った。


「分かったわ。じゃあ最後に、地下室から持って行きたいものは持っていきなさい。エミリーが出て行ったら全部捨てる予定だからね」


「……ないと思うけどなぁ」


 私の家にはかなりの大きさの地下室があるけど、今はもう物置になっている。


 パパに欲しいと言った物は全部送ってくれたけど、そのたびにママが怒って地下に放り投げた結果、今では魔境と化している。


 いわく、『欲しい物が当然のように手に入ると思って欲しくない』だそうだ。


「思い出のある物の1つや2つぐらいあるでしょ。捨てた後に後悔しても遅いわよ」


 貰った瞬間放り込まれたのに、思い出のあるものがあるわけないじゃん……



「ほら早く、皆んな来ちゃうわよ」


「……はーい」


 リビングの端に行き、数あるボタンの中から一番右下のボタンを押す。


 すると、なにもなかった壁がウィーンと開いた。


「あまり長居しないでよ」


「分かってる。大丈夫だよ」


 扉の先に行き、内側に設置されているボタンを押すと、ガゴンッと下へ降りてゆく。


 もう引越しかぁ……早いなぁ。


 引越しといっても、遠い大学に通うだけなため、私が寮に移動する形になる。


「楽しかったな……」


 今までの人生を振り返ってみる。


 今思えば、恵まれてばかりの人生だったと思う。


 何不自由なく生活できたし、両親からも愛され、友達にも恵まれた。


「あっちでも、頑張らないと」


 引っ越したらもう友達はいなくなっちゃうし、ママもいない。


 パパとは電話できるけど、もう一人でも生きていけるよう自立しないと。


 そんなことを思っていたら、エレベーターが止まった。



 どうやら地下についたようだ。



「うわぁ……」


 扉が開くと、そこには広大な地下空間が広がっていた。


 あちこちに荷物の山ができており、広大な空間を占拠している。

 

「これ絶対、私が生まれる前からのも置いてあるでしょ」


 今までかなりの数のプレゼントを貰ってきたが、こんないくつもの山ができるほど貰ってはいない。

 

 どれほどの間手が付けられていなかったのか、見当もつかなくなってくる。

 

「あ、あそこは変わっていないんだ」


 私は10歳の頃、一度だけここに来たことがある。


 その時見たものはとても印象に残っていて、今でも鮮明に思い出せる。


「懐かしいなぁ」


 そう、この巨大な地下室の中央にある、巨大な地球儀だ。


 USH《ユニバーサルスタジオハリウッド》にあるものと同じぐらい大きく、どういう訳かちょっとした力でも動かせる。


 グルグル動かしていたらママが来て、こっ酷く怒られたなぁ……

 

 懐かしいと思いながら、後ろにある高級感満載の椅子に座る。


 この地球儀を中心に9つほど椅子が置いてあり、初めて来た時は秘密基地だと興奮したのを覚えてる。

 

「これも捨てちゃうのかな」


 正直どうやってこんな大きい物をいれたのかも分かんないけど、解体なりなんなりして捨てちゃうんだろうなぁ。


 もったいない。



 ガタンッ


「!?」


 突然後ろで音がした。


 振り向くが、そこには山のように積まれた荷物があるだけだった。


 なにかいる……?


 ママかな?


 いや、それはない。


 エレベーターしかここに来る手段はないし、ママが来ていたら音で分かるはず。


 けれど、何もしていないのに物が落ちる訳もない。


 つまり、何かいる。


 サァッと背筋に冷たい物が走る。


「誰かいるの?」


 返事はない。


 スマホのライト機能を起動して、ゆっくりと近づく。


 心臓が破裂しそうなほど鼓動を上げ、積まれた荷物の元にまで辿り着いた。



 バッと思いっきり荷物の後ろを確認すると、そこには一つの懐中時計が落ちていた。


「これは……」


 その懐中時計を開けてみると、中にはさらに6つほど時計が入っており、なんとも言えない神秘的な雰囲気を感じる。



 ガタッ



 !?



 まじまじとその懐中時計を見ていると、再び後ろで音がした。




 勢いよく振り返ると、そこには猫がいた。



 左右の顔の色が違い、左の顔は黒に水色の目、右は茶色に金色の目といったオッドアイで、明らかに他の猫とは違う姿をしていた。


 その猫はまるで初めからそこにいたかのような表情で、私を見つめてくる。


 な、なんでここに猫が……? まぁでも、幽霊とかじゃなくてよかったぁ。


 幽霊だったら今頃気絶していたと思う。


「どうしてここにいるの?」

 

 答えが返ってくるはずもないのにそう聞く。


 案の定、猫はなにも喋らない。


 ただなんか動揺しているようで、その色違いの目が泳いでいた。


 きっと、いきなり出てきた私を怖がっているんだろう。


「ふふ、可愛い」


 頭を撫でようとすると、猫が急に覚悟を決めたかのような表情をして、その小さな口を開いた。



「こんにちはエミリー」



「…………え?」












 カチッ











 突然、視界が真っ白になった。


 

 

 

 ーーーーーーーー

♢大事なお知らせ♢


小説家になろう「アースノベル大賞」に応募しています! 1稿されているので、そちらの方もぜひ見てくれると嬉しいです!


なお、カクヨムにはなろうには書かないキャラクターの裏設定などをあとがきに書くつもりです。

どちらも見てくれると嬉しいです(≧∇≦)


 

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