ぼっち神父は孤高を目指す

栗頭羆の海豹さん

第1話

「ほう、確かにこれは面白い子だね。」


「はい、どうか聖女の癒しであの子の心を開かせて下さい。」


 シスター服を着た女性は赤ん坊の頃から誰とも遊ばず、話さず、近寄らない子を心配して総本山から自分の派閥の聖女様に来てもらったのだ。

 長年この教会で孤児を育ててきたシスターであっても3歳で書庫の虫と化している子を心配していた。

 今では誰よりも知識が豊富になった3歳児を件のシスター以外のシスター達や神父達は神童だ!と持て囃す始末である。

 そんな子供なら調子に乗って天狗になる状況でもこの子は我関せずで黙々と1日を読書と祈りに費やしていた。

 最近ではこの教会の全ての本を読んでしまったから、大人に混ざって戦闘訓練に参加している状況で同年代の子どもと混ざって遊ぶ様子がなかった。

 同年代の子達からは大人に媚び売っている気に食わない子だと思われている為、正直嫌われるか、君が悪がられるかの二択だった。


「そこの子。少しワシと話さないか?」


「・・・だれ?お婆ちゃん、この教会の人じゃないよね。」


「その年でワシの年齢を察せるか。」


 聖女は実年齢としてはお婆ちゃんのお婆ちゃん所ではない年齢だが、見た目は20歳と言われても10人中10人が信じる程の美貌を保っていた。

 そんな大人でも騙される容姿を一瞬にして看破した少年の眼を聖女は感心した。


「?当たり前。どう見てもそこらの人とは違う。」


 少年は聖女の気配がシスターよりこの教会に通っている老人に近い気配から推測したのである。

 この聖女は特に老齢からなる大樹の様などっしりとした雰囲気が強く出ていた。自然と周りを落ち着かせる暖かな雰囲気は若輩者には醸し出さないと少年は思っているのである。


「お主、人見知りだな。」


「・・・・・・」


「良い良い、隠さなくても。お主からはワシの友と似た思考をしておる。フランクに話す事ができず、どういう表情で、どういう姿勢で、どういう話し方でと悩んでおるな。だからこそ、無表情に微動だにせず淡々と話しておる。」


 違うか?と言う聖女の言葉は的を得ていた。

 この少年は俗にいうコミュ障である。人と群れる事が出来ず、孤独に生き、しかし、群れたくない訳ではない。そんな運命を背負って産まれたものである。

 赤ん坊の時から人とどう接したら良いのかという疑問を抱え、どうしても友が欲しいという欲望が生まれた時から湧き出ていた。


「転生じゃな。お主の悩みは前世から続く思いじゃ、願いじゃ、欲望いや、野望じゃ。それがお主の魂にこびりついておる。」


「・・・・転生?確かに産まれてすぐからずっと覚えているけどこれもその転生の副作用ですか?」


「いや、それはお主がただ単に記憶力が良いだけじゃ。」


 転生には2種類ある。

 思念を前世から引き継ぐ場合と記憶を前世から引き継ぐ場合である。

 思念の方が記憶より転生されている人は多い。記憶も思念も程度があり、知らない内にトラウマがある程度の思念や夢でしない地の記憶が出る程度の記憶など、少年のようなかなり強く思念を受け継いでいるのは希少である。


「それで土聖女どせいじょ様はどうして此処にいるのですか?」


「・・・やはり、お主賢いな。思念型はIQが高い傾向にあるが、お主はその中でもピカイチじゃな。何故、ワシが聖女と分かった?」


「土聖女様の持ち物の神聖さがこの教会のシスターの比じゃないのと自然体かな?」


 シスターや神父が日頃から持つものには自然と体内から漏れ出る聖力せいりょくによって持ち物に神聖さが宿っていくが、このおばあちゃんの持ち物は全てが桁違いの神聖さを自ずと隠していた。

 おばあちゃんの自然体はこの教会のシスター達に似ていたが、それをより洗練されていて立ち姿が芸術品にまで昇華されていた。


「それだけなら土聖女という事までは分からんと思うが、それは?」


「この教会のシスターが修めている武術は聖女護身術です。それを極める聖女は土聖女様です。よって、おばあちゃんは土聖女様だと確信しました。」


「なるほど、確かによく勉強して観察力も磨かれておる。・・・その通り、ワシはド清純で!努力家な!土聖女じゃ!」


 高らかに言う土聖女は神聖全開で後光が指している様に少年から見えた。


「どうじゃ、お主。ワシの弟子になって土聖女にならないか?」


「私、男ですよ?」


 

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