第32話 聖者さま

 夜の砂漠。

 もくもくと土魔法を使い、砂をコンクリートブロックに変える。


 それをフヨフヨがマジックバッグに入れていく。触手も駆使してバキューム状態。

 淡い歓喜の波動がちょいちょい来る。楽しいみたい。


 これ、一石二鳥作戦。

 ゼロからコンクリートの壁を作るより、砂を使った方が魔力の消費は小さい。

 運搬にも魔力はいるけど、マジックバッグのおかげでちょっとで大量に運べるのだ。

 宇宙に行く回数も減らせる。


 ここの砂を減らしてなにがしたいかというと、遺跡を探している。


 だって、あんな個人宅に宝物庫みたいな遺跡がポツンとあるのおかしくない?

 本体の遺跡がどこかにあると思うんだよね。


 だから、魔力節約と遺跡探しの一石二鳥作戦なのだ。


 でも、これがなかなか見つからない。

 結構前からワームを倒して砂を土に変えたりしてるんだけどね。


 フヨフヨに、もしかしてもう見つかってレスレ王国が管理してるんじゃないかと聞いてみたけど、ないらしい。


『満タン』


 マジックバッグが満タンらしいので、いったん置きに行く。


 先に遺跡を見つけてマジックバッグが増えたら嬉しいんだけど、そう上手くはいかないみたい。


 ディープに乗って公国と帝国の国境の森へ。

 自分で移動するより、移動は任せてマジックバッグの運搬に集中した方が速い。


 モンスターの巣の近くにコンクリートブロックを出す。


 これもう5往復目。

 モンスターは、やけに強そうな蜘蛛たちなんだけど、残念ながら強くない。というか、たぶん俺が強くなりすぎたせいで加護レベルが上がらない。


 そろそろ位置を決めたほうがいいかな。

 コンクリブロックだらけだ。山がいっぱいできてる。


『あ、森に壁を作るとしたら木が……犠牲に……』


 そっとヒタチをうかがう。


『どいてもらうのー!』


 えっ。すごいミシミシいいながら、2本の木が左右によけていく。うわー……。

 間が10メートルくらいあいた。地面はボコボコ。


『……すごいなヒタチ。フヨフヨ、位置どう?』

『大丈夫』


 いいながら触手で地面に線を書いてくれた。

 方向感覚もあるし、国家元首たちの知識まで手に入れたフヨフヨ、マジチート。


『……壁、10メートル幅はさすがにキツいかな。7メートルくらいでどう?』


 中を空洞で作ればいけるかもしれないけど、それだとすぐに壊されそう。


 フヨフヨが2本の線をひきなおす。そして線を伸ばしていく。

 当然次の木にぶつかる。


『ヒタチ、いけそう?』

『がんばるの!』


 木がどんどんよけていく。根っこごと。

 すごい音。葉も降ってくる。

 なんだか路をあけてもらったみたい。ちょっと気分がいい。ありがとう。


『魔力足りないの』


 ヒタチはフェネカの上にくずおれた。

 フヨフヨが魔力を渡す。


『この調子でいって平気かな? 冒険者も来ないよね?』

『来ない。丑三つ時』


 もうそんな時間か。深夜3時くらいってことだろう。


『……昼間はいるの?』

『たぶんいない。言いたかった』


 フヨフヨ……。

 しっかり国境線が決まっているわけじゃない。いわばここは緩衝地帯だ。人の住む場所からは遠い。


『高い壁ができたら見える人もいるよね?』

『いる。村から見える』


『あと、木がよけたことで悪影響ない?』

『このくらい大丈夫なの! 平地なの!』


 あー。山だと土砂崩れも考えないと。


『妾はできることがないのう』

『……先にワーム狩り頼んでもいい?』


 ワームではもうまったく加護レベルが上がらない。


『お安い御用じゃ!』


 嬉々として砂漠へ行ったみたい。

 ヒタチが俺の頭に乗った。


 分担して作業を進めよう。

 地面を掘るように、土を固める。結構へこんだな。2メートルくらいの溝。ここにコンクリートを入れて土台にしよう。


 それから、砂漠と国境森とを行き来して、空が明るくなってから宇宙経由で帰る。

 一晩で結構すすんだ。


『森は全長なんキロくらいになるかな?』

『ラングオッド王国まで2キロくらい。反対は20キロくらい?』


 フヨフヨもはっきりはわからないみたい。

 3カ国の国境なので、壁の端はラングオッド王国に飛び出す形になる。

 逆側は、大河に飛び出す予定。


 夏休み中に終わらせるのは無理そう。

 でもやるぞ。土魔法もまだ成長している気がする。


 翌日から、シリュウが加わった。

 俺たちの話を聞いて考えていたらしい。

 無属性魔法で砂をすくい、遥か上空を飛んで移動。俺が掘って固めた溝に砂を入れていく。


 どんどん効率が上がっていった。

 遺跡が見つからないな?



  ◆◇◆



 夕方。夏休みも終わりが見えてきた。

 3度目の遠征を終え、門の中へ。


 クラウスくんは、ずいぶん大人しくなった。それどころか、トーニくんとシェキアに光魔法を教えてくれている。


 エマ、ミリーさん、ラヴィさんは、なんだか仲良しトリオみたいになっている。


「ユイエルさん、ミリーさんに魔力回復のコツを教えていただけませんか?」

「ユイエルさん、ミリーさんの聖域をみてあげて下さい」


 なんて、ラヴィさんとエマが交互に言ってくる。なんか雰囲気も口調も似てるんだよね。


 だから俺はミリーさんに聖魔法を教えている。エマとラヴィさんが、引っ込み思案なミリーさんを助けている感じかな。


 門を入ったところで解散。


「またねー!」


 シェキアが手をふり、エマと一緒に帰る。

 Dクラス寮に移ったら、同じ寮になれたらしい。


 俺はみんなを見送ってから門番さんのところへ。

 残ったカレン先生だけついてくる。

 今日の門番さんのひとりは、片腕なんだよね。

 最近は再生しまくっている。


「こんばんは。ご苦労様です」

「こ、こんばんは……」


 めっちゃ身構えてる。知ってるっぽい。噂になっているらしい。


「腕を治してもいいですか?」

「も、もちろん、なにも……お返しできず心苦しいですが、どうかお願いします」


 お礼は断ることにした。

 縁は大事にしたいけど、いろいろもらっても困るかもしれないから。

 実は寮のリュックには大金が。だってマジックバッグはコンクリブロックの移動に使う。

 あえて手を組み祈る。


再生リジェネレイト


 動かして確認してもらう。大丈夫そう。


「あ、ありがとうございます! ありがとうございます……聖者さま!」

「……え?」


 みんな『聖女』さまと言うので、否定するつもりでかまえていた。

 そしたら、なんかちょっとだけ違う言葉が聞こえたような?

 噛んだの?


「同僚に……その、男性なので『聖女』さまと呼ばないようにと、言われておりましたので……」


 不安そうにしている。


「ありがとう! 『聖女』は絶対に嫌だったので嬉しいです!」


 門番さんは、ホッと息をついた。

 カレン先生が横に来たので振り向く。


「ユイエルくん、少しいいですか?」

「はい……?」


 カレン先生が門番さんから離れていくので、門番さんと挨拶をかわしてから追う。


 十分離れ、誰もいないところで立ち止まった。


「今週土曜に、付き合っていただきたいところがあります。ご予定はありますか?」

「……いえ、特には」


 予定はあけてある。王城だよね?


「本来は5年生の行事なのですが、事情がありまして、ユイエルくんにお願いしたいのです。服装は制服でかまいません。馬車を用意しますので」


 事情というのは『聖女』が長期間不在で、俺が再生を使えるからといったところのはず。

 そしてたぶん、上級生に出来そうな生徒がいないのだ。じゃないと俺が筆頭になったりしなかったはず。


 再生、そんなに難しくないと思うんだけどな。加護がなくても出来たし。差はなんだろう?

 前世知識かダークマターか、その両方かな。


「……行き先は教えてもらえないんですか?」

「陛下の御前です」


 その言い方ビビるんですが。

 わざとか。でもカレン先生ひとりを相手に説得を試みてもあまり意味はない。

 直談判だ。


『……王様相手にビビったら、アドバイスくれる?』

『もちろんじゃ』


 フェネカ笑ってる。

 みんなついてるから大丈夫か。


「……わかりました。よろしくお願いします」

「では土曜、早めに昼食をとって向かいましょう」

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