第19話 砂漠の大樹

 夜。


『ディープ落ち着いて……』

『楽しそうで何よりじゃの』


 宇宙に来ている。

 ディープの魂は、みるみる馬の姿になった。

 そして俺を乗せ、宙を駆け回っている。すごい速度で。

 飛ぶことには抵抗がなさそう。空気抵抗ももちろんない。


 ディープは、俺にはだいぶ馴染んだ。が、まだフヨフヨとフェネカは怖い様子。

 なので、ふたりは少し離れたところで見守っている。ジワジワ近づいてるけど。


『なんでフヨフヨはフェネカに乗ってるの?』


 フェネカが捕食されているみたいで笑ってしまった。


『まねっこ』

『どう考えても無理があるがの』


 フヨフヨの方が大きいからね。

 全長はどのくらいなんだろうな?


 そもそもフヨフヨはとてもやわらかな流動性ボディ。追随ついずいを許さぬやわさ。サイズを測るのは難しい。


『ディープ、そろそろ砂漠へ行くよ』


 お? 行きたがってるみたい。知らない場所を走り回れればどこでもいいのか。


 レスレ王国の砂漠を目指し、降下開始。

 砂漠が有用な土地になれば、あとは上層部の浄化で良き隣国になるかもしれない。

 そこまでは無理としても、戦争や内紛の可能性を下げられるのではないかと思う。


 エマの魔法を見ているうちに、砂を土に変換してしまえばまともな土地になる気がした。


 とりあえず、ダメもとで見に行く。敵国を避けていてはなにも解決しない。


 いままで土魔法は、マグカップをつくるくらいしかしていなかった。前世で使い慣れていたものを思い出して作った。

 茶色い土にはあまり馴染みがなく、使い道も思いつかなかったのだ。コンクリートに囲まれて生きていたので。


 なんとか砂漠を土に変え、そして少しずつ雨を降らせたい。

 もちろん、誰かが種を植えてくれないとまた砂漠化すると思う。でも、まともな土地が出来ていたら喜んで植えるんじゃないかな?


 ディープに任せて移動しながら見てまわる。


『ほんとに砂しかないね』

『モンスターいる』


『え、どこ?』

『砂の下。いっぱい』


 ……もしかしてワームみたいなの?

 早々に計画が頓挫しそう。駆逐しよう。

 いや、ドロップを確認してから決めよう。


『悪いモンスターかどうか知ってる?』

『悪い。近づいた人、飛び出して食べちゃう』


 ……それは、現実だと怖すぎる。

 フヨフヨは誘拐実行犯あたりの知識で見たのかな。


『ディープ、ストップ……くるくる回っていいから』


 旋回を開始。


『見られそうなところに人いる?』

『いない』


 ためしに小さめの雷を砂丘に落とす。バリバリッと。

 ……でてこないな?

 砂って絶縁体だっけ?


 無属性の細長い槍を10本ほど落とす。ドスドスッと。

 なんだか砂がうごめいた。


『2匹死んだ』

『……威力高すぎた。フヨフヨ、ドロップなにか知ってる?』


『知らない。近づいた人、食べられた』


 ……食べられるところを見た人の記憶があるの?

 聞かないでおこう。


『どうやったら出てくるかな?』


『やってみて良いかの?』

『フェネカお願い』


 バランスボール大の火球が飛び、砂丘にあたった途端に爆発。盛大に砂が飛び散る。


 そして飛び出すワーム。想像通り、頭が牙だらけ巨大ミミズ。頭というか、口しかない。


 ふぁっ。

 突然、フヨフヨがワームの根本に抱きついた。


『フヨフヨ!?』

『ひっぱりだす』


 たぶん実体化している。

 助かるかも。このまま倒すと砂の上にドロップ品が落ちて探すのに苦労しそう。下手をすればワームの穴にドロップ品が。


 すーっと持ち上がっていくワーム。実体化フヨフヨ、移動速度は遅いけど力はあるみたい。

 けど、ワームが黙って出されるはずもなく、牙の生えた口がフヨフヨに向かう。


シールド!』


 ゴンッと無属性の盾に頭をぶつけ、倒れていくワーム。

 砂に潜らないよう、無属性の板を敷く。範囲広めにしとこう。


 フヨフヨがゆっくりとワームを持ち上げていく。なんか、おおきな大根の収穫みたい。のんびり。頭の方はのたうってるけど。

 ときどき盾で牽制しておく。

 お、ワームの尻尾が出てきた。


『よいしょ』


 フヨフヨが、砂に敷いた無属性の板の上にワームを転がす。長い。15メートルくらいかな。自信はない。

 フヨフヨは離れ、ワームはのたうち回っている。


風刃ウインドカッター


 輪切りになったワームが消える。

 モンスター狩りにはすっかり慣れた。魔力量のため、身を守るため、加護レベルは必要なのだ。これから授業でも倒さなければならないし。

 でも人型は倒したことがない。


 ドロップは銀貨2枚。え? 思ったより高い。それなりに強いモンスターかも。


『ゴールドと魔石と牙かな』

『みたいじゃの』


 特に大事な資源っぽくはない。牙やツノをドロップするモンスターは多い。


『……ただの危険なモンスター?』

『じゃろうの』


 よし、俺の新しい加護レベル上げ狩り場に認定。

 実はラングオッド王国とワコウ皇国のモンスターでは、なかなか加護が上がらなくなっていた。人型は除外しているし。


『ラングオッド王国モンスター図鑑』に、山脈にはドラゴンがいるとあったので、チラッと見に行ったが、数が少なそうだったので倒してはいない。


 ドラゴンが敵が味方かって、物語やゲームによって違うよね。でも重用な役割のはず。絵本にも重用っぽくでてきたし。


『フヨフヨ、疲れた?』

『全然大丈夫』


『ワームの多い場所わかる?』

『こっち。この辺』


 父様の真似をしてみようかな。

 無属性の細い槍を大量につくるイメージ。

 右手を振り上げる。


『我が計画を邪魔したこと、地獄で悔いよ!』


 右手を振り下ろす。

 砂埃が舞う。ボコボコと砂丘がへこんだ。


 加護レベルはひとつあがった。

 ここを発掘すると、たくさんの銀貨が得られることでしょう。魔石と牙も。


 うーん。土魔法に不純物を掘り出すような魔法ないかな?

 ヘソクリはすでにたくさんある。けど、銀貨や魔石が埋まりまくってる土地を作るのはどうかと思うよね?


 土魔法、やっぱりいまいちイメージつかない。エマの真似ならできるけど。

 ……計画変更。休みに図書館へ行こう。ちょっと土魔法を調べてからやる。


『……しかし、この広さ。どう考えてもひとりじゃ無理』


 ワームを駆逐するだけでも大変。なのに砂を土にするとか……エマを育てて連れて来る? ふたりでも無理。


 それはそうか。少数の魔法使いでなんとかできるなら、とっくにやっているだろう。


 仕方がない。地道に行こう。

 ……帰るにはまだ時間がありそう。深夜3時くらいと予想。


『ディープ、好きに移動していいよ』


 歓喜の波動。びゅーんと北の方へ。

 このまま走って帰る気か。


 お、砂漠を抜けた。ひび割れた大地。砂漠予備軍。


『あ、待って、いま樹があった!』


 ディープに指示を出すと、戻ってくれる。

 ひび割れ大地にポツンと生えた樹。5メートルはある大きな樹だ。

 葉はない。寒々しい見た目。

 そのまわりを周る。


『ちょっと降りるよディープ……この樹、立ち枯れてる?』

『たぶん、まだ生きてる』

『すごい生命力じゃの』


 生きているなら、回復でいけるはず。

 両手を組んで祈る。


 元気になって、ここの砂漠化を止めて欲しい。

 みずみずしい緑をたたえた大樹をイメージ。砂漠を緑に変える、この地の守護神。


 手応えがある。植物だって回復できる。

 やけに魔力を使うな。

 フヨフヨがわけてくれる。


 想像通り、みずみずしくなってきた。そう思ったところで、葉が芽生えはじめる。

 いいぞ、がんばれ。


 回復だけでは足りないか。

 地面がカラカラに乾いている様子。


 少し上空へ上がり、水魔法で雨を降らせる。栄養たっぷりイメージの小雨。

 地上へ戻り、土も少しモコモコと根本に盛る。栄養、栄養。


 フヨフヨが幹にプスッと触手を刺した。


『フヨフヨ?』

『フヨフヨも魔力あげる』


 ……なんか、この樹、大きくなってない?

 幹の太さが元に戻ったレベルではない気がする。回復したら育ったみたいな。葉もキラキラしてきたような?


『もっと雨欲しいって』

『……え? それ、樹が言ってるの?』


 フヨフヨから肯定の波動。

 樹って喋るっけ?

 馬は喋らないのだが……。

 とりあえず、水魔法で雨を降らせる。


『もっと土欲しいって』

『……』

『妾には聞こえぬ』


 モコモコと土も追加。

 こうなればとことんやろう。


『次は回復がいいって』


 フヨフヨの言う順番で魔法を使う。

 魔力をもらってまた魔法。

 樹がどんどん育っていく。


 全然止まる様子がない。

 綺麗だな。葉擦れの音も気持ちがいい。


 ……もう20メートル超えてない?

 世界樹かなんかなの?


『あ、フヨフヨ縮みすぎ。いったん宇宙行こう』

『うん』


 ディープに跨り、ぴゅんと意志移動。

 フヨフヨに回復を使いながら聞く。


『あの樹なに? モンスター?』

『普通の樹』


 そんな馬鹿な。


『普通の樹、しゃべる?』

『しゃべらない。フヨフヨと一緒』


『どういうこと?』

『ユイエルがやった』


 ……そんなつもりは微塵もないのだけど。

 フヨフヨと一緒というのは、俺が回復したら特別になったってことか。


『おなかいっぱい』


 樹のところへ戻る。

 いない間に、さらに大きくなっていた。そしてまたフヨフヨと一緒に育てる。

 樹、育つ。

 フヨフヨ縮む。


『名前、欲しいって』

『……樹が? モンスターになったの?』


『なってない』


 なんなのー?

 このー木なんの木、気になる木ー……。

 そっと幹に手を突っ込む。


『ヒタチ』


 うおう!

 ポンッと樹からなにか飛び出した。

 大人の手のひらより少し大きいくらいの女の子。ちょっとぬいぐるみっぽい。

 目の前に浮いている。


 繋がっている感覚がある。

 樹、テイムしちゃった?

 それでなんで女の子でてくる?


『……ヒタチ?』


 歓喜、感激、感謝。そんな波動が来た。


『……もしかして、精霊?』

『そうなの! ヒタチ、樹の精霊なの! ありがとなの!』


 しゃべった。

 デフォルメされたみたいな女の子。

 緑色のモコモコした帽子をかぶって、服も緑モコモコ。ピンクの瞳。

 笑顔がかわいい。


 姿を見る前に名付けて良かったかも。見ていたらブロッコリーになっていた。


『……ヒタチ、砂漠化を止めるの、手伝ってくれる?』

『もちろんなのー!』


 ヒタチ、えいえいおーの動き。

 頼もしい。

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