第45話 精霊の魔導書のお礼

 ウェルジさんの悪行はこれにて終わった。

 思い起こせば一瞬の出来事のようにさえ思える。

 だけどそんな私の命さえ奪われ掛けたこと。それを救ったのが精霊の魔導書であること。そのどちらもが決して変わることはない。


「だけどよかったよ。これで精霊の魔導書も無事で」


 ヒノワ館長は改めてウェルジさんを縛り直すと、絶対に動けないように関節も外した。

 流石の所業。ウェルジさんは白目を剥いたまま痛々しい姿を露わにすると、私はマリーナさんに話しかけられた。


「アルマちゃん、精霊の魔導書と仲良くなったんだね」

「はい! もう私達は友達です。ねっ!」


 私は精霊の魔導書を強く抱きしめると、精霊の魔導書も魔力を使って示してくれる。

 同じ想いを抱いているようで安心した。

 にこやかな笑みを浮かべて微笑むと、精霊の魔導書は私に応えてくれる。


『アルマ、もう会えないの?』

「えっと、うーんと、ちゃんと蔵書しないといけないからね。でも、たまには読みに行くよ!」


 私は精霊の魔導書の想いを汲むことは完全にはできない。

 だけど私ができることは、精霊の魔導書はそんな私のことを想ってくれる。

 だからだろうか。フワリと宙に浮かび上がると、私の前に姿を示す。


「精霊の魔導書?」


 私は不思議な出来事に困惑する。

 ポツリと口走ると、精霊の魔導書は輝きを放った。


「うわぁ!?」


 あまりにも眩しい。眩しすぎて前が見えない。

 手の甲で顔を覆うと、急に精霊の魔導書の声がダイレクトに私の頭の中に伝わった。


『魔導書を出して、アルマ』

「えっ、魔導書?」

『そう、貴女の魔導書を見せて。そして私に掲げて』


 何やら精霊の魔導書には考えがあるらしい。

 一体何をする気なのかな?

 首を捻って困惑するも、私は言われた通りアルマの魔導書を取り出した。


「アルマの魔読書!」


 私が手を前に出すと、私の魔導書が姿を現す。

 既に色合いは元に戻っている。

 真の姿を示すことはなく、真白の魔導書がその姿を明らかにすると、フワリとこれまた宙に浮かび上がり、精霊の魔導書と対面する。


「どうする気なの?」


 私は精霊の魔導書に問い掛けた。

 すると行動で表すようで、私に真価を見せてくれる。


『私の魔法を受け取って』

「えっ!?」


 そう答えると、精霊の魔導書が眩くなる。

 既に視界には収まらない。

 だけどそれを優に超える輝きで太陽のように照らし出すと、精霊の魔導書がパラパラと風に煽られて捲られてしまい、幾つもの光の線を浮かばせた。


「な、なに!? 一体なにが起こってるのー?」


 私は困惑してしまい、もう何が何だか分からない。

 プチパニック状態の中、私のアルマの魔導書が呼応するようにページを捲られる。


 その上に少しずつ光の線が落ちていく。

 まるでインクのようで、新しい文言が刻み込まれる。

 これは何? 私は初めて見る光景に素っ頓狂な態度を取ると、アルマの魔導書が斬新に煌めく。


「ま、眩しい!」


 私が大きく叫ぶと、急に光が収まる。

 今の一瞬が何を意味したのか、私には分からない。

 だけど必ず意味があった筈で、光が消えた後、何事も無かったかのようなトワイズ魔導図書館の中で、私は二冊の本を回収する。


「おっとっと! 危ない危ない。急にどうしたの、精霊の魔導書?」

「アルマちゃん、今のって?」

「えーっと、分からないです。ただ精霊の魔導書がなにか……あっ!」


 私はマリーナさんに訊ねられても答えられなかった。

 困惑した状態でアルマの魔導書を手にして開くと、そこには信じられないものがある。


 私が書いた訳でも無い謎の文字。

 しかも古代文字になっていて、私には当然読めやしない。


 だけどこの文字が必ずを意味があるのは分かる。いや、そうに違いない。

 私の中である程度の確信が出ると、私は精霊の魔導書に訊ねた。


「ねぇ、精霊の魔導書? これはなに」

『それは私の魔法の一部。アルマにしか使えないように調整しておいたから、使ってあげて』

「ええっ!? 精霊の魔導書の魔法なの。それって凄く貴重な筈じゃ……」


 私は目を丸くして見開く。

 まさか精霊の魔導書にこんなに施して貰えるなんて、私は全然想像していない。そんな目に突飛に出遭うと、流石に頭を押さえたくなる。


「ちなみにどんな効果の魔法なの?」

『召喚魔法だよ』

「召喚魔法!?」


 私は声を上げてしまう。

 まさか召喚魔法なんて思わなかった。

 私が今まで触れることのできなかった魔法。しかも相手は精霊。そんなことになれば、私の魔導書はもはや国宝だ。


「そんな魔法貰って……」

「アルマちゃん、よかったね。精霊の魔導書が応えてくれたんだよ」

「応えてって……えーっと、どんな反応で」


 私は悩んでしまった。

 こんな経験をしたのは久々で、私は混乱してしまう。

 だけど精霊の魔導書もマリーナさんも私のことを待ってくれていた。だからこそ、自分に正直になる。


「ありがとう、精霊の魔導書。大切に使わせて貰うね」


 私は精霊の魔導書の行為に感謝をした。

 ギュッと今一度精霊の魔導書を抱きしめると、温かな魔力をその身に受け取るのだった。

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