第29話 秘密基地みたいでワクワクする!

 私はマリーナさんに手を引かれる。

 一体何があるんだろう。

 私は何も知らされていないからか、想像の余地しかなくて考え込んだ。


「あのマリーナさん、なにがビッグニュースなんですか?」


 私はマリーナさんに尋ねる。

 するとマリーナさんは柔和な表情を浮かべた。


 一際怪しく見えてしまう。

 だけど敵意のような悪い気配は感じない。

 好奇心旺盛な私のことを楽しませる雰囲気満載だ。


「それはアルマちゃんが自分の目で見た方が早いよ!」

「見るってことは、ってことですか?」


 マリーナさんの言葉から私はビッグニュースの正体が、情報伝達的な何かじゃないと悟る。

 けれど物となれば、またどんな物なのか気になって仕方ない。


 マリーナ本は私に興奮が冷めて欲しくないからか、自分の目で見た方が良いと言ってくれた。

 だからあえて訊かない。訊くのは流石に野暮だって分かった。


「じゃあ楽しみにします!」


 私は好奇心が胸の高鳴りを上げるのを感じ取った。

 冷静な思考を今回は前面に押し出すと、勝手に動き出しそうになる口を押さえる。

 ギュと喉を絞り込むと、マリーナさんは更に続けた。


「きっとアルマちゃんにとって、ううん。トワイズ魔導図書館にとって、すっごく大事なものかもしれない。だから気を引き締めないと」

「気を引き締めるんですか!?」


 一体どんな代物なのか。私は更に想像力を掻き立てられる。

 早く見たい。そこまで言うなら知りたい。

 あー、私のバカ。後、マリーナさんやめて! それ以上私の好奇心を駆り立てないで。

 そう恨んで仕方がなく、私はマリーナさんに手を引かれながら、危なく階段をバタバタ駆け下りた。



 私はマリーナさんに連れられて総合カウンターにやって来た。

 角ばった卓で隔てられ、奥方には木製の壁もある。


 とは言え何処も不自然ではない。

 何処にでもあるような特別変哲もない総合カウンターで、私は首を捻った。


「マリーナさん、ここになにかあるんですか?」

「もちろんあるわよ。見ててね、確かこの辺りに……」


 私はマリーナさんに手を離された。

 するとマリーナさんは総合カウンターの奥。角ばった机の下を手で弄る。


 まるで何か探している様子。

 私は首を今一度捻り直すと、マリーナさんは「あっ、あったあった!」と満足そうな表情を浮かべた。


「アルマちゃん、少し下がって」


 私はマリーナさんにそう言われる。

 危ないことでもするのかな? それとも何か隠し通路的なものが出てくるのかな?

 それはそれで面白い。私は後者を絶対的に推すと、「分かりました!」と応え、三歩程後ろに下がる。


 カチッ!


 私が下がると、マリーナは指先を動かす。

 スイッチが入る音が聞こえ、私はピクッと顔を上げた。


 すると突然総合カウンターの奥の壁が揺れ出した。

 一体何が起きたのか。何が起きているのか。

 私は瞬きをして、動揺が加速する。


「えっ、な、なんですか!? マリーナさん!」


 私はマリーナさんに叫ぶ。

 するとマリーナさんは私の隣に立って、壁に人差し指を指した。


「見ててアルマちゃん。壁が開くよ・・・・・

「壁が開く?」


 私は今一度壁に視線を動かし、注力する。

 ゆっくり総合カウンター奥の壁が軋み出す。

 ジリジリと埃を払い落としながら壁が開くと、視線の先に空間が生まれた。


「空間? って、階段ですか!?」


 壁の奥に隠れていたもの。それは階段だった。

 しかもただの階段じゃない。かなり古いもので、石造りで丁寧に作られていた。


 しかもただの石造りじゃない。

 この階段はかなり古い。それこそ千年以上も前のものだと思う。私が昔読んだ建築系の本にそんな記述があったのを思い出す。


 だけど石造りの階段の丁寧さにはまだ不思議がある。

 魔力が宿り、常に最高の状態を保ち続けていた。

 こんな真似ができるのは現代の魔導士じゃ無理。私は実物を見て驚いてしまい、言葉を失ってしまった。


「凄い……」


 唯一出て来た言葉はただそれだけ。

 ゴクリと喉を鳴らすと、マリーナさんが隣に立つ。

 「ふふっ」と笑い声を浮かべると、私を連れて階段を下りようとした。


「マリーナさん、この階段って?」

「ここはトワイズ魔導図書館の中でも、特に大事な核に当たる所に行くための専用通路なの」

「専用通路?」


 地下への階段を用いる辺り、私の読みは当たっている。

 もしかしたら地下で直接魔力を感じ取るとか?

 色んな想像が更に湧き立つと、私は目をキラッと輝かせた。


「面白そうですね!」


 子供みたいなはしゃぎ出す。

 心臓を打ち鳴らす鼓動が、バクバクと高鳴った。

 だってこんなの秘密の通路で、これからシークレット・エリアに向かうのは確定。そんな場所に足を踏み入れられるなんて、ワクワクが止まらないじゃなんか!


「アルマちゃん?」

「秘密の通路を通って向かうのはシークレット・エリア! そこにはどんな冒険が待ってるのかな? もしかして貴重な財宝魔導書かな? それともただのエネルギー機関かな? どっちでもいい。どっちでもいいけど、なんにせよ、そんな場所に、はわぁー」


 私はとろけてしまいそうだった。

 好奇心が冷静な思考を淘汰して、加速度的に腕をブンブン振る。


 その様子がやけに気になったのか、マリーナさんは「ふふっ」と今一度笑う。

 それから私のことを見てこう言った。


「そんな態度、アルマちゃんって可愛い」

「はい、ありがとうございます!」


 私は満更でもなかった。

 早く行きたくてウズウズしてしまい、私の方からマリーナさんの手を取る。


「行きましょう、マリーナさん!」

「うん。でも気を付けて下りてね」

「あいっ!」


 私は敬礼をしてマリーナさんと一緒に階段を下りる。

 最初の一歩。踏み出した瞬間、猛烈な魔力を感じる。

 こんな魔力、そう感じ取ったことはない。

 私は目を見開くと、ニヤリと笑みを浮かべてステップを踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る