じじつは小説より②
紫雲さんの情報網は、後宮の全てを
多くの女官や宦官、噂話に目のない妃嬪たちへの調査の結果、やはり最近武官の
集まった情報で特に気になったのは以下だ。
・2人はいつもコソコソと話をしていたり、
・
・いっぽう
・2人の服や髪が乱れている時があった。
これらの結果、彼らは"黒に近いグレー"だと私たちは判断した。
先日はノリノリで話していたものの、実際は半信半疑だったという紫雲さんは神妙な面持ちで呟いた。
「意外ですね。2人とも昔から仕事人間といいますか、色恋話は聞いたことがないので」
「
彼はガタイが良い割に物腰は柔らかい。部下思いだし、下っ
そんな彼に橙さんも夢中になってしまったのだろうか。
「
可愛らしい容姿の
身長差は30㎝近くありそうだが、2人はお似合いと言えなくもない。
「今の後宮でも、男性同士の恋愛って多いんですか?」
去勢時代ならともかく今の宦官たちには男性機能もあるし、結婚だってできるのに。
「
「じゃあ紫雲さんも男性から口説かれたり…」
「……知りたいですか?」
「………」
満面の笑みで返され私は黙る。
ものすごく知りたい……が、知ったが最後タダじゃすまない気がする。
また何かで彼の顔を隠してしまおうかと考えていた時、見習い坊主の
「御二人とも……生薬庫へお越しください!」
実は紫雲さんの指示で彼には例の生薬庫近くを見張らせており、
「行きましょうトウコさん」
私たちは
「
「ありがとう。お前は仏殿に帰りなさい」
紫雲さんが言うと、
私たちは足音を立てないよう慎重な足取りで生薬庫へ近づく。閉まった扉に耳を近づけると、中から男性の声がした。
『~~くださいよ』
『~~だ!』
『もう!~~~』
内容はよく聞き取れない。
「何か……言い争ってる感じですね」
私が言うと紫雲さんも扉に顔を寄せる。
「痴話喧嘩でしょうか?」
「どうします?さすがに入るわけには」
ためらう私に対し、紫雲さんは顔の前に人差し指を掲げ真剣な眼差しで言った。
「彼らの恋路をとやかく言うつもりはありません。ただどんな理由であれ、後宮で不貞行為に及んだり宝具を外すことは重罪。せめてそれだけは確かめなければ。彼らのためにも」
もし不貞行為が他の人、例えば青藍さんなんかに見つかったら彼らは即解雇、城を追放されかねない。
ここで私たちが現状を確認し、最悪の場合は彼らを食い止める必要があるということだ。
「中に入りましょう」
私たちはうなずき合い、建付けの悪い扉を慎重に押した。
薬草の匂いと
彼の
つまり
「………」
私と紫雲さんは状況が掴めずただ固まった。
緑狛さんの足元には足首まで下ろされたズボンが。その横にはふんどしのような白くて長い布が無造作に置かれている。
「────お、おい!」
『え、何ですか?』
「早く出ろ!」
慌てて
『ちょっと、まだ中に…』
「いたたた!」
声を上げた
『急に動かないでくだ───わわっ!』
そのはずみで
ぐらぐらと体を揺らした挙げ句、とうとう2人は揃って床に倒れ込んでしまった。
棚から薬草がバラバラとこぼれ落ち、2人の周囲には白っぽい
土煙がおさまると、ようやく2人の全貌が見えてきた────
床に突っ伏した
緑狛さんの太ももに顔を埋め倒れる宦官。彼の髪は女官のように二つのお団子で結われており、花の髪飾りや赤いリボンが付いている。
「おや、これは刺激が」
眼前に晒された
『あれ、紫雲殿に……トウコ殿?どうされました?』
『どうされたはこっちの台詞ですよ!』
『おい!痛えから早く抜けよ!』
『わぁすごい!直腸の内壁ってこんな風に動くんだ!』
『2人とも、ここは後宮ですよ!
『んなこと言ったって、コイツのが入ったままなんだよ!イテテ』
「……??」
"事実はBL小説より奇なり"
そんなことを思いながら私はただ、暗闇の中言い争う男たちの声を聞いていた。
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紫雲殿は「しうんどの」と読みます。「しうんでん」ではありません(ローカルネタ)
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