2. お見合い相手、まさかの〇〇嫌い
「まあ物はためしよ。ためし。会ってみなくちゃわからないわ」
なんてメイドに言って、応接間に向かったのだけれど……。
第一印象はなんて不健康かしら、だった。
定期検診でコレステロール値とか引っかからないのかしら。早死にしたら大変よ、とまで思うくらいにまぁるい体。
噂通りのもっさりとした長ーい黒髪で、顔はよく見えず、見えたところは吹き出物だらけ。
思わず息をのんだわよ。
「遅れて申し訳ありません。お初にお目にかかります。エミリー・カーレスと申します」
「………………ケネス・ウォードだ」
しかも何も喋らない。長い沈黙の後、口を開いたかと思えばボソボソと。
しゃっきりしなさいな、みっともない。
「ウォード伯爵、こちらが娘のエミリーです。遅れてしまい大変申し訳ありません」
「いえいえ、むしろ逃げられていないのが不思議なくらいですから。座ってください」
と初老と言っても過言ではないようなウォード伯爵。確か晩婚だったとかなんとか。早く家督を譲りたいと常々溢していらっしゃるのは聞いたことがあるわねぇ。
「逃げるだなんてそんな……」
「これがこれなものですから。よくあるんですよ、ハハハ」
口元は笑っているけれど、死んだ魚みたいな目だわぁ……。これは相当お見合いが難航しているのね。階級が二つも下な男爵に敬意を払うなんてよっぽどだもの。
「失礼します」
言われた通り座れば、お父様の睨みつけるような視線が。……反省しております。
我がカーレス家はお母様が早くに亡くなり、お父様が後妻を迎えなかったので、子供は姉、私、妹の女のみ。姉はすでに婿を取っていて……、つまりは妙齢の女性が家にいると非常に邪魔なのです。
「ウォード家のお噂はかねがね。なんでもこの度新事業に成功したのだとか」
「いやいや、そんな大したことでは。それこそその新事業こそケネスが主体で動いていまして」
一方ウォード家は、お母様も健在、ケネス様が長男で、その上に既に嫁がれたお姉様、未だ学園に通っていらっしゃる妹様、弟様……とケネス様が結婚に焦る必要はないと思うのですが。
話を聞くに、どうやらお家を継ぐ者としての能力が高いようで。
「さて、我々の話はここまでにしまして。あとは二人に……」
家同士の会話が終わって、どうにか会話をしようと思っても無視、無言。最近の子ってこうナイーブな子が多いのかしら。ああ、いえ、私も最近の子だわ。
「ケネス様は何かお好きな物など……」
「……………」
「では、嫌いなものは……」
「……………………野菜」
まぁ、野菜ですって? だからそんなに不健康そうな体なのかしら。
ってあら、なんだか聞き覚えがあるわね。……ああ、あの人も最初野菜が嫌いだったわ。まったく頑固で治すのが大変だったわ。
なんて考えていたら、私の一方的なおしゃべりが止んでしまって、場が沈黙に包まれてしまいまして。
まるであの人のお通夜みたいだわ。
「エ、エミリー、庭を案内したらどうかね」
「ええ、お父様。そうさせていただきますわ」
気を遣ったお父様がそう仰いましたのでその通りにしましょうかね。
「ケネス様、いかがでしょう?」
「…………わかった」
私が椅子から立ち上がると、ケネス様も続けて立ちあがろうとしたのだけれど……前世も含めて百二年生きてきて初めて見たわ。お尻に嵌って宙に浮く椅子なんて。
驚いている間に椅子はずるりと落ちて脚が折れてしまいました。
「……………椅子を壊してしまった」
「か、構いませんよ。お気になさらず」
そうして応接間を出ると、ヒタヒタとついてきまして。何かの妖怪みたいね、これはもう。
さて……庭といっても表は暑いのよねぇ。なるべく涼しくて会話に困らない……ああそうだわ!
と閃いたので家の裏手に回り、見慣れた畑に。ここなら日除けもあるし、井戸もあるし。なんてったって野菜がある。
「お、お嬢様。いくら縁談を破棄したいからといってここは……!」
とメイドがヒソヒソと耳打ちしてきますけども……別に縁談を破棄しようなんて思ってないわよ?
「…………なんだここ」
「なんだとは失礼な、私の畑ですよ。は・た・け」
「…………なぜ野菜が?」
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