勇者召喚って誘拐じゃないですか? 8

 ただの阿呆という発言に、サラサ王女は自信満々な顔を見せておられます。


 クリス王子とは歳の離れた兄妹であり、また腹違いでもあるので接点が少ないはずです。


 王には三人の妃がおり、第一王子の母君が正室を務めているのです。

 第二王子、第三王子は共に第二王妃、第三王妃と腹違いなのです。


 権力争いなどはなく、子供が死ぬような悲惨なことにはなっていないところが我が身としては少々つまらなくも感じますが、王族の方々は仲が良いのでしょう。


「だって、マリアンヌお姉様を手放してしまうような男は阿呆でしかありません。我が兄上と婚約をして欲しいほどです」


 サラサ王女様は、第三王子のアイン王子の妹に当たる。


 上三人の姫君はすでに他国や貴族に嫁いでいるので、現状で政治の駒として使える王女はサラサ様しかいません。


 つまり、三人の王子と四人の王女を持つ王様は大家族なのです。


「サラサ様、私のことなど」

「いいえ、数日ですが、一緒にいさせていただき私はわかりました。マリアンヌお姉様はとても素晴らしい方です。美しく、博識で、女性として理想的な方です。それなのにあの阿呆のクリス兄様はどうして、男爵令嬢などを選んだのでしょうか? 皆目見当もつきません」


 怒りを表していますが、人の恋路に関しては我が身も皆目見当がつきません。


 そればかりは法を使っても解明は難しいでしょう。


「ふぅ、クリス王子についてはマリアンヌが詳しいと思いますので、資料の提出をお願いします」

「かしこまりました」

「リベラ子爵様! 残酷ですわ!」


 我が身の命令に怒りを表して立ち上がるサラサ王女。


「いいえ、サラサ様。私は大丈夫ですよ」


「大丈夫なはずがありません。あのような仕打ちを行った男の資料を作るなど!」

「何か勘違いをされておられるようですね。どれだけ私怨があろうとなかろうと、これが仕事です。またそれができないのであれば、できないとマリアンヌがハッキリ言葉にできる女性です」


 我が身がマリアンヌについて断言をすると、サラサは驚いた顔を見せ、マリアンヌが微笑んだ。


「はい。私は大丈夫です。それに距離を取ったからこそ今まで婚約者として見ていた物の見方とは異なった冷静な視線でクリス王子を見ることができるので大丈夫ですよ」

「マリアンヌお姉様がよろしいなら」


 納得していないような顔をしておりますが、サラサ王女には次の質問をしなければいけません。


「続いてアイン王子について教えてください」

「わかりましたわ。アイン兄様は天才です」

「天才?」

「はい! 子供の頃からなんでもできて、魔法も勉強も他の兄上たちよりも完璧なのです」

「ふむ。どのくらい完璧なのか教えていただけますか?」


 サラサ王女の言葉は抽象的なので、アイン王子の凄さがわからない。


「そうですわね。アイン兄様は私よりも二歳年上で、来年には学園に入学します。勉強では主席を取ることは間違いありません。そして、魔法に関しても宮廷魔術師たちが、舌を巻くほどで五歳の時には魔法の才能を開花しておりました」


 五歳で魔法の才能を開花。


 まるで、異世界から転生してきた知識チートを持つ者のようですね。


 転生者のテンプレを思い浮かべてしまいます。


 転生者が男性で、心も男性であった場合は、


 俺様強い最強チートキャラを目指す場合が多いと言います。


 0歳児から転生して魔力増強を図り、三歳〜五歳ぐらいで、無自覚に魔法の才能を発揮して、転生前の知識を活かして様々な発明をしていくのです。


 そこから枝分かれした己の能力を隠す物や、悪事に力を使う者、果ては世界を救っているつもりで世界を破壊している者までいるそうです。


 なんとか、異世界召喚に続いて、異世界転生者の可能性まで現れるとはこれではさらに複雑化していきそうな展開ですね。


「今まで大きな功績を残されたことはありますか?」

「私の知る限りはないですわ」


 う〜ん、もしかしたら能力を隠しているつもりの転生者かもしれませんね。


 あまりにも強大な力を人にバレると排除されてしまうので、隠して能力を高めてから人々を追い詰めていくのです。


 ふぅ〜これは慎重に当たらねばならないかもしれません。


「最後にユーク・ダ・フェイ公爵についてお願いします」


 私が公爵の名前を出すと二人とも、顔を合わせて困ったような顔をした。


「どうされました?」

「リベラ子爵は貴族についてはあまり知らないのですよね?」

「はい。正直、貴族の方々と会う機会がありませんので、王様、宰相閣下、あとは数名の貴族様しか知りません」


 実際に、職場で出会う方々以外に顔も名前も知らないのです。

 法律の仕事をする際に、余計な知識は判断を鈍らせると思っているので、わざと知らないように努めていると言っても良いです。


「ユーク・ダ・フェイ公爵は、権力と欲にまみれた方で普段からも自分こそが王に相応しいと吹聴しているような方です」

「私も叔父様は大嫌いです。醜く太っており、いつも女性を舐め回すような視線で見るのです。お父様が死ねば自分こそが次の王に相応しいとも言われているのを聞いたことがあります」


 どうやら今回の事件の犯人としては一番有力ということですね。


 ただ、そんなにもわかりやすい人間が犯人なのでしょうか?


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