第10話 ノエルと打ち上げ

 体育祭の翌日、学園は振替休日のため授業がなかった。そのためノエルは昼過ぎまで寝ていた。体育祭の疲れもあり、ノエルは全く起きる気配がなかった。

 結局ノエルは、クラスメイトからチャットで連絡が来るまで寝ていた。起き上がったノエルは大きな欠伸をした。まだまだ寝足りないノエルだったが、時間も時間だったので起きることにした。


 そしてノエルは勉強をしたり本を読んだり、同室のヒロキと雑談をしたりして時間を潰し、夕方まで過ごした。陽が落ち始めた頃、ノエルは出かける準備を始めた。

 ノエルはクローゼットから私服を取り出して着替えた。白いシャツにカーディガンというシンプルな装いだったが、ノエルが着ると様になっていた。


「こんな時間から出かけるのー?」


 ヒロキはノエルに問いかけた。外は暗くなってきており、一般に高校生は家に帰る時間のはずだった。


「うん、今日はクラスの皆と体育祭の打ち上げをするんだ!」


「そうなんだー、羨ましいー」


 ヒロキは打ち上げと聞いて、ノエルを羨ましがった。


「どこに行くのー?」


「近くの焼肉屋さんだよ」


「焼肉かー、いいなー」


 ヒロキは焼肉と聞いて唾を飲んだ。そしてそうこう話しているうちに、ノエルが出かける時間になった。ノエルはマスクと眼鏡、帽子を被って準備をした。


「それじゃあ、行ってきます!」


「行ってらっしゃーい」


 ヒロキに見送られノエルは寮から外に出た。そして学園近くにある焼肉屋へと向かった。

 歩くこと数十分、目的地の焼肉屋が見えてきた。ノエルが着くと、既にクラスメイトのほとんどが到着していた。


「皆、お待たせ!」


「お! 主役の登場だ! さ、早く中入ろうぜ」


 ノエルが来ると、クラスメイトたちは待ちきれないとばかりに焼肉屋の中に入っていった。ノエルもクラスメイトに続いて中へと入った。

 ノエルたちは大きなテーブル席に案内された。ノエルが座ると、誰がノエルの横に座るかで、クラスメイトが揉めだした。


 熾烈な争いの末、じゃんけんで勝ったココロたち女子グループがノエルの横に座った。そして全員が飲み物を持ってくると、ココロが乾杯の音頭を取った。


「それじゃあ皆、飲み物はもったね? では、ノエル君の優勝を祝して、かんぱーい!」


「かんぱーい!」


 ノエルは照れながらも、優勝を祝ってもらったことがとても嬉しかった。そして乾杯を終えたクラスメイトは続々と肉を焼きだした。


「ノエル君、あーん」


 途中で調子に乗ってココロが、ノエルに肉を食べさせようとして一悶着あったが、打ち上げは楽しく進んだ。



          ※



「もう食えないー」


 打ち上げが終わり、会計を済ませて外に出ると、クラスメイトたちは満腹になり満足したようだった。ノエルもクラスメイトから肉を食べろと渡され続けたため、自分の限界以上に肉を食べた。


(明日からダイエットが必要かなー)


 ノエルの体重は平均より軽いため、食べ過ぎなぐらいがちょうど良いのだが、ノエルはそれを良しとしなかった。ノエルは明日からダイエットすると誓った。

 そしてノエルたちは家路に着いた。ノエルたちが暗くなった道を歩いていると、ノエルは焼肉屋に帽子を忘れたことに気付いた。


「いけない、帽子を忘れちゃった。取ってくるから、皆先に帰っててー」


 ノエルは走って焼肉屋に戻り、帽子を回収した。そして再び寮への道を歩いていると、ノエルの真横に白いリムジンが止まった。


(すごい、リムジンなんて初めて見た。どんな人が乗ってるんだろう?)


 リムジンを初めて見たノエルは、それに目を奪われた。するとリムジンの扉が開き、中から黒服の女性たちが降りてきた。そしてノエルの前に立ちはだかった。


「ノエル・ブランさんですか?」


「はい、そうですけど……。僕に何か用ですか?」


 黒服の一人がノエルに確認を取った。ノエルは目の前の黒服の女性たちを警戒していた。そしていつでも能力を発動できるようにしていた。

 ノエルに確認を取った黒服はインカムで連絡をした。するとリムジンからゴージャスなドレスを纏った、プラチナブロンドの髪の女性が降りてきた。

 ノエルは嫌な予感がしていた。ノエルは昔この手の輩に声を掛けられた後、誘拐されかけたことがあったのだ。


「あら、警戒しなくても大丈夫よ。ちょっとお話がしたいだけよ」


 ノエルが警戒していると理解したドレスの女性は、優しい口調でノエルに話しかけた。


「昨日の決闘大会、見事だったわ! 私、あなたに興味があるの!」


「そうですか」


 ノエルは毅然とした態度を保ったまま相槌を打った。


「この後予定はあるかしら? 私と少しお話しませんこと?」


「すいません、寮の門限があるので。失礼します」


 ドレスの女性の提案を断ったノエルは足早にその場を離れた。ノエルは背中を向けながらも警戒を怠らなかった。


「あら、振られてしまいましたわ……」


「追いますか?」


「いいわ、機会ならいくらでもあるもの。今日ぐらいは休ませてあげましょう」


 黒服の女性の一人がノエルを追うか指示を仰いだところ、ドレスの女性は後を追わせなかった。その場に残されたドレスの女性は、再びリムジンに乗り込み、黒服たちと一緒にその場を後にした。

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