第6話 ノエルと嫉妬

 五月も中盤に入り、ノエルたち生徒に中間テストが近づいて来ていた。ノエルは来る中間テストに備えるべく、図書室を訪れそこで勉強をしていた。図書室では他にも大勢の生徒が来ており、皆が真面目に集中して勉強をしていた。

 ノエルも集中して勉強をしたいのだが、勉強をしていると上級生と思われる女子生徒が近寄ってきて小声で話しかけてきた。


「ノエル君だよね? 勉強教えてあげようか?」


「私たち、結構頭良いんだよね。どう?」


 囁かれた提案にノエルはきっぱり返答した。


「大丈夫です。僕、勉強には自信があるので」


「そ、そうなんだ。じゃあ、頑張ってね」


 ノエルに提案を断られた女子生徒はおずおずとノエルから離れていった。このようにノエルは図書室で勉強をしていると、ノエルと懇意になりたい女子生徒が下心で話しかけてきて、勉強に集中できなかったのだ。

 声を掛けてこなくても、ノエルの様子をうかがいながら勉強してる生徒がほとんどで、ノエルは見られているという意識のせいで集中できなかった。


(これだと僕だけじゃなくて、他の人の勉強にも支障がでちゃうな……)


 そう考えたノエルは立ち上がり、図書室での勉強を諦めて退出していった。


(大人しく部屋で勉強するかー)


 ノエルは高校生らしいことがしたいと思い、図書室で勉強をしようと思ったのだが、それはノエルの人目を引く容姿のせいで上手くいかなかった。

 溜息をついたノエルは、寮に向かうために帰路に着いた。ノエルが帰りの道を歩いていると、またしても視線を感じた。ノエルが振り返ると、教室の扉の影に一人の男子生徒がいた。その男子生徒はノエルが振り返ると、教室の中に隠れてしまった。

 ノエルは不審に思い、その男子生徒が隠れた教室に近づいていった。


「あの、僕に何か用ですか?」


 ノエルが教室の扉を開けると、そこに男子生徒の姿はなかった。教室の中を見回すと窓が空いていた。そこから外に出たようで、教室はもぬけの殻だった。


「またか……」


 最近、ノエルには悩みがあった。それは誰かに後を付けられていることだ。ノエルは後を付けられる、いわゆるストーキングをされているのだ。

 ノエルは女性にストーキングされることは何度か経験があった。しかし男子にストーキングされた経験は今までなかった。


 最初は何かノエルに用があるのかと話しかけようとしたが、その度に逃げられていた。ノエルはストーキングしてくる男子生徒のことを調べだした。

 そして相手が誰か判明した。相手はライ・ハルツキという金髪ベリーショートの髪をした同じ一年生だった。ノエルは何故ライが自分を付け回るのか気になっていた。


 何度か直接問いただそうとしたが、機会がなくそれは出来なかった。そうしてノエルが手をこまねいていると、中間テストの日になった。

 ノエルは一旦ライのことを頭の片隅に追いやってテストに集中した。図書室で声を掛けられたりストーキングをされたりしたが、ノエルは中間テストに向けてしっかり勉強していた。もともと軟禁されていたときに勉強をたくさんしていたので、ノエルは勉強を苦に感じなくなっていた。


 そして中間テストが終わった。ノエルは全力を出し切った。その結果を見にノエルは成績が張り出される掲示板に向かった。

 掲示板に向かう途中でココロと遭遇したノエルは一緒に成績を見に行った。掲示板の前に着くと、ココロは自分のものよりもノエルの順位を第一に確認した。そしてココロはノエルの順位を見つけると、驚愕から大きな声を出した。


「ノエル君! すごいよ! 学年一位じゃん!」


 ノエルはほとんどのテストで満点、もしくはそれに近い点数を取っていた。そのため学年で一位を取っていた。


「やったー!」


 ノエルは無邪気に喜んだ。努力が報われたのだ。これで喜ばない人はいないだろう。


「ココロさんはどうだった?」


「うち? うちはえーっと、あった! 中間ぐらいかな」


 ココロの順位はちょうど中間ほどに位置していた。ココロはそこまで勉強が得意ではなかったため、中間の順位だったのは妥当だった。

 するとノエルや他の生徒が一喜一憂していた掲示板の前で地団駄を踏む生徒がいた。


「クソっ!」


 感情を露わにする男子生徒にその場にいた生徒の目線が集まった。ノエルも気になってそちらに目を向けた。そこには最近ノエルを付け回していた生徒、ライの姿があった。

 ライは自分を見ている生徒を睨んだ。そしてその睨んだ目がノエルを見て止まった。ライはノエルを見つけると、ズンズンと近寄っていった。そしてノエルの目の前に行くと、怒号を浴びせた。


「何でよりよって! お前が一番なんだよ!」


 ライは今にもノエルに襲いかかりそうな態度だった。興奮しているせいか能力も少し発動していた。辺りにバチバチという静電気のような音が鳴り、ライの髪の毛が逆立っていた。

 ライの取り巻きの生徒は、ライを落ち着かせようと必死に言葉を掛けた。


「ライ君、気にしなくても大丈夫だよ! たかが中間テストなんだから!」


「そうですよ、ライさん! 落ち着いてください!」


 紫電を迸らせるライは、取り巻きの必死の対応で、徐々に落ち着きを取り戻していった。深呼吸をしたライは、ようやく落ち着き、能力も収まった。


「今回のテストはお前の勝ちだった。でも次はそうはいかないからな! 覚えてろよ!」


 ノエルに捨て台詞を残したライは、取り巻きと一緒に教室へと戻っていた。


(僕、何かしちゃったのかな……)


 残されたノエルはライの機嫌を損ねた理由を考えた。しかし特に何も思い至らなかった。



          ※



 ライ・ハルツキ、彼はかなりの美男子だった。光を吸い込んだような鮮やかな金髪に、意思の強さを表すかのような大きな青い瞳、高い鼻にシャープな輪郭。街に出れば女性が放っておかない、そんな容姿をしていた。

 そんなライは幼少期からチヤホヤされていた。告白は数え切れないほどされ、いつも自分が選ぶ側だった。そしてカリスマ性から取り巻きが出来ていき、いつも自分を褒め称えさせていた。


 ライが何か達成すれば、取り巻きが仰々しく賞賛の声を上げた。またライはかなりの天才肌で、要領よく何でもこなすことが出来た。勉強、異能の強さ、容姿、三拍子揃ったライは、自分が最高の男だという自覚のもとに育ってきた。


 そんなライは夏暁学園でも、今まで通り自分が一番で、チヤホヤされながら生活出来るだろうと思っていた。しかしそれはノエルの登場によって叶わないものとなった。

 ノエルの美しさはライのそれを上回っていた。そしてノエルはその愛嬌からすぐに学園で一番チヤホヤされる存在となった。


 ライは自分以上の美しさを持つ存在が現れたことに焦りを感じた。ライの地位が脅かされるのではと考えたのだ。自分の取り巻きがいなくなり、そこらの有象無象と同じになると思ったのだ。ライはそれが許せなかった。

 ライはノエルの粗を探すために後を付けるようになった。ノエルの弱みを握り、自分が上に立とうとしたのだ。しかしどれだけ調べても、弱みになりそうなものは出てこなかった。


 するとライはノエルの後を追うのを止めて、勉強に力を入れるようになった。勉強をしてテストで好成績を取り、ノエルにマウントを取ろうとしたのだ。

 天才肌のライは勉強すればするほど知識を吸収していった。そして迎えた中間テストの結果発表の日、ライは取り巻きを連れて、自信満々に廊下を歩いて行った。

 そしてライは成績が張り出された掲示板の前に着いた。そこで順位を確認した。ライの順位は二位だった。


(良しっ!)


 ライは心の中で激しく喜んだ。普段あまりしない勉強をした甲斐があったのだ。その結果、自己最高の二位という好成績を取ることが出来たのだ。

 しかし喜ぶライとは対照的に、取り巻きの生徒たちは顔を青くしていた。


「おい、どうしたんだよ?」


「ライさん、その……」


 取り巻きの一人が掲示板の上の方を指差した。ライがその指の先を見ると、一位のところにノエルの名前が書いてあった。


「……は?」


 ライは絶句した。ノエルとライ、点数の差は僅かだったがライは負けてしまった。その事実が受け止められずライは地団駄を踏んだ。怒りと悔しさから興奮してしまい、能力が漏れ出してしまっていた。


「よりによって! よりによってーっ! クソっ!」


 ライは怒りから周りの生徒を睨んだ。周りの生徒たちがまるで自分をバカにしているように感じたのだ。そして睨んで怯ませていると、一人の生徒と目があった。特徴的な白髪に、陶磁器のような白い肌、それはノエルだった。

 ライはノエルを見つけると、怒りを抑えられなくなり、ノエルに近づいていった。


「何でよりによって! お前が一番なんだよ!」


 他の生徒が一番だったならここまで怒っていなかった。ライはノエルに負けたことが何より悔しかったのだ。

 そしてライは取り巻きの生徒になだめられ、落ち着きを取り戻した。そしてノエルに捨て台詞を吐いてその場を後にした。


 教室に戻ったライは怒りを隠そうとせず、その表情を怒りで歪めていた。教室の雰囲気は最悪になっていた。クラスのリーダー格であるライの機嫌がすこぶる悪かったからだ。

 取り巻きたちは何とかライのご機嫌取りをしようと必死になった。


「大丈夫ですよ、ライさん! 次の体育祭でクラス対抗の決闘大会があるので、そこで一番を取れば良いんですよ! ライさんの実力なら楽勝ですよ!」


「そうだよ、次の決闘大会はライ君の独壇場だよ!」


 おだてられたライの機嫌は徐々に直ってきた。そしてライの中で次の目標が決まった。それはクラス対抗の決闘大会でノエルに格付けをすることだった。

 そうと決まったライは翌日、取り巻きを引き連れてノエルのクラスに向かった。


「ノエル・ブランはいるか!」


「はい、います!」


 ライに呼ばれたノエルは廊下に出て、ライと対面した。野次馬の周りの生徒たちはヒヤヒヤしながら様子を伺っていた。


「中間テストはお前の方が上だった。でも調子に乗るなよ! 次の体育祭で俺はお前に必ず勝つ! 決闘大会に出ろ。そこで決着を付けてやる!」


「の、望むところです!」


 何故ここまでライに敵視されるのかがわかっていないノエルだったが、売られた決闘は買う気だった。

 ノエルへの宣戦布告を終えたライは、取り巻きたちを連れてクラスへ戻っていった。そしてライはノエルを完膚なきまでに倒すための作戦を立て始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る