第3話 ココロ・ハッサクというクラスメイト

 ココロ・ハッサク、彼女はノエルのクラスメイトだ。茶髪のショートヘアがよく似合う、活発な印象の美少女だ。見た目だけならすぐにでも彼氏が出来そうなものだが、口を開けば下ネタに猥談、そして下心を隠そうとしないその態度が原因で、彼氏が出来たことはない。


 そんなココロはおばあちゃん子だった。ココロの両親は仕事が忙しく、ココロに構うことがあまり出来なかった。そんなココロの孤独を癒やしたのは、祖母だった。


「おばあちゃん! 今日のご飯はなに?」


 ココロは大きな声で祖母に問いかけた。あまりにも大きなその声は家中に響いていた。


「今日はカレーだよ。もうすぐできるからね」


「やったー!」


 ココロの祖母は加齢により耳が遠くなっていた。そのためココロは常日頃から大きな声を出すようになった。これがココロの能力の基盤になっていた。

 そんなココロが中学に上がる頃、ココロの中に性欲が芽生え始めた。その性欲は並大抵のものではなかった。性欲が人一倍あったココロは、中学で他の男子生徒に対してセクハラな言動をしていた。


「ねぇ、何色のパンツ履いてんの?」


「いい胸板してんねー!」


 男子を見つけては、イタズラを繰り返し、そして避けられてきた。その結果エロ魔神というあだ名を付けられ、男子たちに距離を置かれるようになった。ココロはそれでもめげずに、性欲から男子たちにちょっかいをかけ続けた。


 そして中学を卒業し、夏暁学園に入学したココロはそこでノエルと出会った。ココロはノエルを初めて見た日のことを鮮明に覚えていた。

 ノエルが入学式に現れたとき、その姿を見て、ココロはあまりの美しさに呼吸を忘れていた。そして我に返ったココロは、ノエルの容姿を舐めるように、下卑た視線を向けた。


 しかしその反応をしたのはココロだけではなかった。他の女子生徒もノエルを見て、太ももをモジモジと擦り合わせ、性欲を抑え切れていない様子だった。

 特に性欲の強いココロは、その場で自分の股を弄り出しそうだった。しかし何とか理性でそれを抑えた。


 ココロは入学式の最中、ずっとノエルを観察していた。そして翌日、教室へと着いたココロは、そこにノエルがいることに狂喜乱舞した。


(まさか同じクラスになれるなんてー!)


 ココロはこれをまたとないチャンスだと捉え、積極的にノエルにアプローチをした。


「ノエル君はどんな女子がタイプ?」


「趣味は何?」


「ノエル君はどんな下着が好み?」


 最初はありきたりな質問をしていたココロだったが、徐々に過激な本性を晒していき、セクハラまがいの質問をするようになった。

 こうなった場合、ほとんどの男子生徒は嫌悪感を露わにし、ココロから距離を取るようになる。しかしノエルは違った。優しいノエルはココロのセクハラに対しても笑顔で対応して、ココロから距離を取るようなことはしなかった。


 ノエルは幼少期の経験から、セクハラな言動程度では何も思わなくなっていたのだ。またココロを筆頭に、女子生徒が性欲を隠そうとしない下卑た目線を向けてもノエルは何も気にしていないといった様子だった。


 こういったノエルの態度から、ココロは自分でもノエルと付き合えるのではと思った。ココロは今までの人生でここまで異性と仲良くなれたことはなかった。ココロはノエルにメロメロになっていた。

 そしてココロがいつ告白しようかと悩んでいたところで、例の噂、決闘でノエルに勝つと付き合うことができるというものが流れてきた。


 その噂を聞いた女子生徒たちは、目の色を変えて、ノエルに決闘を挑むようになった。もちろんココロもその一人だった。ココロは異能での戦いに自信があった。中学でも何度か決闘をしたことがあり、その時から無敗を誇っていたのだ。


(これはもらった! ノエル君と付き合える! エッチなことがたくさん出来る!)


 ココロは勝負への自信からすでに勝った気でおり、ノエルと付き合った後のことを想像していた。


(処女をノエル君みたいな美少年で捨てられる! もう最高!)


 そして何日かが過ぎ、ココロとノエルが戦う日になった。闘技場に着いたココロはノエルの体を見ながら舌舐めずりしていた。


(もうすぐノエル君がうちのものになる……! あぁ早くエッチしたい!)


 既に勝った気でいるココロは有頂天だった。


「両者、正々堂々と戦うように! わかったな?」


「はい!」


「それでは、始め!」


 立会人の先生が開始の宣言をすると、ココロは自身の気持ちを声に乗せて攻撃をした。


「ノエルくーん!!!! 大好きです!!!! 付き合ってくださーい!!!!」


 衝撃波を伴った咆哮は闘技場中に響き渡った。そしてココロの正面にいるノエルに襲いかかった。ノエルは衝撃波に吹き飛ばされ、闘技場の壁際まで押し込まれた。

 そんなノエルにココロは追撃を放った。追撃の咆哮がノエルに直撃し、大きな土埃が舞った。


(これは流石に勝ったかな? あぁ、どんなエッチなことをしようかなー?)


 勝利を確信したココロは頭の中でノエルを陵辱していた。そして妄想に夢中になっていたココロは、ノエルが土埃の中から出てきたことに気付かなかった。

 ノエルは既に半竜の姿に変身していた。変身を終えたノエルは一気にココロに肉迫し、拳での一撃を与えた。完全に油断していたココロはもろに一撃を貰い、そのままノックアウトした。


 こうしてノエルとココロの一回目の決闘は終了した。

 少し時間が経ち、ココロは保健室で目を覚ました。最初ココロは自分が負けたことを認識出来ていなかった。じっと保健室の白い天井を眺めていて、ようやく負けたことを理解した。

 ココロは茫然自失といった様子で保健室を後にした。そして女子寮の自室に着くと、そのままベッドに倒れ込んだ。


(うち、負けたんだ……)


 一世一代の告白を失敗したココロは、ベッドにうずくまりながら油断していた自分に後悔していた。もしあそこで油断せずさらに追撃を加えていたら、もしあそこで妄想に夢中になっていなかったら、そんな考えがココロの中を埋め尽くしていた。

 そうして時間が経つとココロは疲れから、そのまま眠ってしまった。

 そして夜が明け、朝になった。


「ココロ、朝だよ!」


「……うん」


 ココロはルームメイトに起こされ、のそのそと登校の準備をした。しかしココロは登校するのが憂鬱だった。告白を断られた相手がいる教室に行くのはかなり度胸が必要なことだった。


 ココロは重い足取りで教室に向かった。そして教室の扉を開けると、すでにそこにはノエルがいた。昨日までのココロなら一直線にノエルの元に向かって話しかけていたが、今日はノエルを避けるように自分の席に向かった。

 するとノエルはココロが来たことに気付いた。そしてノエルは昨日のことがなかったかのようにココロに朝の挨拶をした。


「ココロさん、おはよう!」


「お、おはよう、ノエル君」


 ノエルに挨拶をされたココロは、少しどもりながら挨拶を返した。


「昨日は思いっきり殴っちゃってごめんね。大丈夫だった?」


「う、うん。大丈夫だったよ」


「それなら良かった!」


 ノエルは昨日の決闘で殴ってしまったことをココロに謝った。ココロはノエルに話しかけられたことに動揺しながらも、嬉しさを感じていた。


(ノエル君、うちの下心ありきの告白を受けても、心配してくれるんだ……)


 ココロはノエルの優しさに感動し、さらにノエルのことが好きになった。そして昨日の憂鬱さが消し飛んで、ノエルへの愛が心の中に芽生えた。

 ココロは初めて性欲以外から異性に好きという感情が生まれた。本当の意味で人を好きになったのだ。今までのココロはただ付き合ってセックスがしたいだけだった。しかし今は一緒にいたいという感情の方が強かった。


 ココロはノエルとの短い交流で晴れやかな気持ちになった。そしてこの恋を何としても成就させたいという気持ちになった。


(ここでこの恋を諦めちゃダメだ! 何としてでもノエル君と付き合ってみせる!)


 ココロは強く決心した。


「ねぇノエル君、うちとまた決闘してください!」


 ココロはノエルに頭を下げ、再び決闘を申し込んだ。そして負け続けてもココロはノエルに挑み続ける。初めての恋を成就させるために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る