絶世の白竜 ノエル

詠人不知

第1話 ノエルという美少年

 この世界では、男性より女性の方が大きく強い。そのため貞操観念が逆転し、女性が優位に立っている。

 そんな世界に一人の少年がいた。名前をノエル・ブラン。ノエルはただの少年ではなかった。まさに絶世という表現がピッタリと合うほどの美少年だった。これほどの美少年は世界中を探しても一人いるかというレベルだった。


 ノエルの容姿は、神が手塩に掛けて作ったといっても過言ではないものだった。パッチリとした輝く大きな瞳、スッと伸びた鼻に、均整のとれた一つ一つのパーツ、陶器のように滑らかで白い肌に、神秘的な美しさを醸しだす白い髪。


 そのどれもが絶妙なバランスで、ノエルの美しさを構成していた。またノエルは体の線が細く、触れたら砕けてしまいそうな儚さも持ち合わせていた。

 そんなノエルの容姿は美しすぎた。その美しさは特に女性にはかなり魅力的に映り、女性がノエルを見れば、たちまち股を濡らし襲わずにはいられないのだ。

 そんな女性にとって劇薬とも言えるほどの魅力を持つノエルの幼少期は、混沌を極めていた。


 ノエルは幼少期の頃から、その魅力で女性を魅了していた。そして魅了された女性がノエルを襲おうとしたり、誘拐しようとしたりした。ノエルを巡って血が流れたことは、一度や二度ではきかない。

 ノエルの周りではいつも彼を巡って争いが発生していた。その度に誰かが傷つく様を見て、ノエルはいつも悲しく思っていた。


 ノエルは子供にして、自分のせいで争いが発生していることを察して、自分が存在しない方がいいのではと考えるほどだった。

 そんなノエルを守るため、ノエルの両親は彼を連れて実家のある田舎へと引っ越した。そしてそこでノエルを軟禁し、ノエルの身の安全を守ろうとした。


 軟禁されたノエルは、極力外界との接触を避けるように育てられた。ノエルの両親は心苦しかったが、それがノエルを守る唯一の方法だったのだ。

 軟禁されて育てられたノエルは、子供ながらにこのままではいけないと考えるようになった。ノエルは争いが起きるのは自分が弱いせいだと考えたのだ。自分が強くなれば、自分の身を自分で守れるようになれば、傷つく人が減ると考えた。


 そんなノエルが十二歳の時、一つの奇跡が起きた。ノエルは異能に目覚めたのだ。異能、それは人の中から稀に出現する、超常的な能力のことだ。

 異能に目覚めたノエルは、自身の胸の内を両親に明かした。


「僕、強くなりたいんだ! 誰も怪我をしないぐらい強くなりたい!」


 ノエルの決意を聞いた両親は、ノエルの意思を尊重し、ノエルに異能による戦い方を教えるようになった。

 ノエルの両親は、家に信頼できる異能者の知り合いを呼び、ノエルに異能による稽古を付けさせた。


 異能による特訓は怪我も多く、ノエルは何度も泣きじゃくり、特訓を辞めたいと思った。しかし自分が弱いままでは、両親が、親しい人が血を流すと思い、何とか特訓を続けた。

 そしてノエルが忍耐強く特訓を続けた甲斐もあり、ノエルはドンドン強くなっていった。強くなっていったノエルは、次第に軟禁から解放されて自由に外に出られるようになった。


 そして自分の身を自分で守れるようになったノエルは、この春から、都会にある異能者の学校に通うことが許された。

 ノエルは大きなキャリーバックに荷物を詰めていた。通う都会の学園は全寮制のため、多くの荷物が必要なのだ。


 荷物を詰めながら、ノエルは自身の部屋を見返した。軟禁され数多くの時間を過ごしたこの部屋とも、あと数日で去ると思うと、ノエルは寂しさを感じていた。

 そんなノエルの部屋をノックする音がした。


「ノエル、入るぞ」


 そう言ってノエルの両親が部屋に入ってきた。ノエルの両親は神妙な面持ちでノエルの前に座り、話を始めた。


「ノエル、これからお前が行くところは、この田舎と違って危険がいっぱいだ。もし何かあったら、すぐに帰ってきていいからな」


「大丈夫だよ、師匠から聞いていると思うけど、お墨付きが貰えるくらい僕は強くなったからね!」


 心配する両親を安心させるため、ノエルは自身の強さをアピールした。


「それでもだ。都会には悪意に満ちている人だっているんだ。気をつけるに超したことはないんだ。辛いこともたくさんあるだろう。その時はすぐに誰か信頼できる人を頼るんだぞ」


「わかった!」


「ルームメイトとは仲良くするのよ」


「わかったよ、お母さん!」


 話を終えた両親はノエルの部屋を出ていった。そしてノエルは、再び部屋で一人となった。ノエルは荷物を詰めるのを一旦止め、この田舎での暮らしを思い返した。

 軟禁されていたため、友達がほとんど出来なかったことを除けば、この田舎での暮らしはノエルにとって悪いものではなかった。空気は綺麗で、食べ物も美味しい。隣人も優しい人ばかりで、街に住んでいたときと違い、ノエルを巡った争いもほとんど起きなかった。


 ノエルはこの田舎を離れることに少しの寂しさを感じたが、それ以上に都会の学園での生活に希望を抱いていた。

 ノエルは都会にある学園で、友達をたくさん作りたいと考えていた。また都会で色々な遊びを経験したいとも考えていた。田舎は娯楽が少なかったため、今までの分を遊び尽くそうと思っているのだ。


 荷造りを粗方終えたノエルは少しの不安と大きな期待を胸に、眠りについた。

 そしてあっという間に学園に旅立つ日となった。ノエルは荷物を持つと、部屋を一度見返してから、大きく深呼吸をして、部屋を後にした。


 家を出たノエルはキャリーバックを車の後ろに積み込み、車に乗り込んだ。そしてノエルは帽子に眼鏡、マスクをした。

 ノエルはいつも出歩くとき、徹底的に顔を隠すようにしていた。それが自衛のためであり、余計な争いを起こさない秘訣なのだ。


 そして家のある田舎を出発した車は、駅へと向かった。

 車に揺られること一時間半、ようやく駅へと到着した。ノエルが車を降り、両親と駅へと向かうと、そこには一人の黒髪の美丈夫が立っていた。

 ノエルはその美丈夫を見かけると急いで駆け寄った。


「師匠! 来てくれたんですね!」


「当たり前だろ、何たってめでたい弟子の門出だ!」


「ありがとうございます!」


 ノエルに師匠と呼ばれる美丈夫、彼はこの数年間、ノエルの異能を特訓した人物なのだ。名前をユウキという。ユウキはノエルと境遇が似ており、子供の頃から美少年だったため、女性に襲われることが何度もあった。

 そのためノエルに自分と同じような悲しみや恐怖を味わわせたくないと思い、ノエルを厳しく特訓したのだ。その甲斐もあって、ノエルは独り立ちできるほど強くなっていた。


「何かあったら、すぐに俺を呼べよ。すぐに助けに行ってやるからな!」


「はい、わかりました!」


 ノエルはユウキの言葉に心強さを感じた。


「それじゃあ、列車がそろそろ出るので行きますね」


「おう、わかった」


 ノエルはユウキとハグをしてから別れると、改札の方へと向かって行った。改札を通ったノエルは、改札の向こう側で見送る両親とユウキに手を振った。


「それじゃあ、行ってきます!」



          ※



 列車に揺られること数時間、ノエルはようやく学園のある都会の駅に辿り着いた。列車を降りたノエルは、そこにいる大量の人と並び立つビル群に圧倒された。

 ノエルは大きく深呼吸をした。田舎より空気が汚れている気がしたが、それすらもノエルにとっては新鮮に感じられた。

 ノエルは人の波に流されそうになりながら、何とか駅を脱出して学園の寮のある場所を目指した。


 数十分ほど歩くと目的地の寮が見えた。ここに辿り着くまで何人かの女性にナンパされたノエルだったが、それを何とか振り切って到着することが出来た。

 寮に入り、受付で自分の部屋番号を聞いたノエルは、これから三年間を過ごすことになる部屋へと向かった。

 部屋に着いたノエルは、ノックをした。


「はーい、どうぞー」


 すると中から声がした。どうやら既にルームメイトが入寮しているようだった。


(どんな人がルームメイトなんだろう?)


 ノエルは期待に胸を膨らませながら、部屋の扉を開いた。するとそこにいたのはかなり大柄な人物だった。


「ああー、君がルームメイトなんだー。俺はヒロキ、よろしくねー」


 大柄な人物は名前をヒロキと言った。ヒロキを見たノエルは、彼の横幅に驚いていた。ヒロキはいわゆる肥満体型というやつだった。


「お、おっきいね……」


「最近100キロ超えたんだよねー」


 ヒロキはノエルの失礼な反応にも、特に嫌な顔をせず返事をした。ノエルは軟禁されていたため、若干コミュニケーションが下手な部分があるのだ。


「ところで、君は?」


「あっ、はい。僕はノエルです! よろしくお願いします!」


 ノエルはマスクと帽子、眼鏡を外してからヒロキに挨拶をした。しかし挨拶の返事は来なかった。ノエルが顔を上げると、ヒロキは驚いたような顔をしていた。そして見つめ合うこと数十秒、ヒロキはようやく言葉を絞り出した。


「すっごい、綺麗だね……」


「ありがとう!」


 ヒロキはノエルの容姿のあまりの美しさに言葉を失っていたのだ。しかしそれからはノエルとヒロキはすぐに意気投合した。

 どうやらヒロキも田舎の出身だったようで、話が合ったのだ。そのためノエルとヒロキはすぐに友達になった。

 そしてノエルは初めてと言っても過言ではない友達との話を楽しんだ。


 ちなみにノエルが入寮した日、とんでもない美少年がいるという噂が流れ、女子生徒が寮内を探し回るという事態が起きていた。

 ノエルはそんなことは露知らず、部屋で談笑に花を咲かせていた。



          ※



 時は少し流れ、入学式の日となった。ノエルは高揚感に包まれていた。しかし周りの新入生は隠されていないノエルの容姿に釘付けとなっていた。何人かの女子生徒はノエルに近づこうとしたが、それを周りの男子生徒に阻まれ、一触即発の空気になっていた。


 しかしそんなことにノエルは気付かない。これから始まる学園生活が楽しみで、他のことを考える余裕がないのだ。

 そして新入生が入学式の会場に入場する時間となった。新入生が入場し、ノエルの姿が大衆の目に触れると、会場は騒然とした。


 新入生の中で一際輝くノエルの容姿に、会場にいる人々は息をのんだ。そして特に性欲が旺盛な女子生徒たちには目の毒で、全員がノエルに一目惚れをし、股を濡らしていた。

 こうしてノエルの波乱の学園生活が始まった。

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