黒い星

赤目のサン

第Ⅰ節『天船、降下せよ』


 2000年代初頭、大戦争の末に、地球は一つの国家に統一された。

その名を…いや、単一国と化した統一国家に最早もはや、国名など存在しなかった。


―――――――――――――――


 超高層建築が地の果てまで連なる"世界首都"。

その中枢部に聳え立つオベリスクには、とある一文が刻まれていた。


 ―――"Wir我ら"はあの星々を目指さねばならない。

それが、"Wir我ら"の"次の"使命、そして宿命たるものであり、

その時、"Wir我ら"は天上へと辿り着くのだ。―――


 一体誰による文言かは不明であったが、この"スローガン"は数百年に渡って多用され、この"帝国ライヒ"による宇宙開拓の、土台となったと言っても過言では無い。




   …グレゴリオ暦2448年。

太陽系外の有人探査が可能になってから50年。

ノイシュヴァーベン星系に属する地球型惑星『NS-3エヌエス=ドライ』に、宇宙軍の有人探査船が現れた。


 『降下シーケンス、切り離しカウントダウン開始。30、29、28、27、26―――』

『諸君、先の無人探査で、惑星表面に地球外生命体による文明の痕跡が確認されている。

之は歴史に残る最初の接触だ。諸君等は、それぞれの職務に心してかかる様に。』

『―――18、17、16、15―――』

カウントダウンが進むと共に、それぞれの緊張が極限まで高まろうとしている。

単独での離着陸を可能とする、新型降下ポット…もとい降下船は、それ一機の製造にも、多額の費用が投じられていた。即ち、れっきとした国家の資産であり、失敗すれば多くの人間の首が飛ぶ事になる―――と言う心構えであった。


 …実際の所、その場合の損失が大きすぎて、責任が如何どうなるかなど、皆目見当もつかない。

『―――9、8、7、6、5、4、3、2、1、0―――』


そして遂に…

『…―――降下ポット、切り離し。』

ポットは降下を開始した。


 『上部補助ブースター、5秒間点火。カウントダウン開始。

3、2、1、0―――点火!』

機体上部のアークジェットブースターが、5秒間火を吹く。

L-2エル=ツヴァイ(着陸時、自由落下により動力無しで降下出来る距離。)に到達、"惑星引力"による自由落下を開始する。』

2448年時点で、太古の物理学者アイザック・ニュートンが提唱した"重力"と言う"概念"は、かつての"燃素"や"天動説"と同じ様に、誰も信ずる者の居ない過去の考えと化していた。

L-3エル=ドライ(大気圏の事)まで残り、約15秒との予測。…――熱シールド展開。』

『了解、L-4エル=フィーア(大気圏突入後、着陸態勢に入るまで)到達時に再度通信せよ、幸運を。』

そしてポットは…惑星NS-3エヌエス=ドライの大気圏へ突入した…。



―――――――――――――――




 闇夜の空を、多色な尾を引く火球が、線を描く様に飛んでいた…。

ケェリンゲリ王領軍を率いるケェリ王は、狼狽して目に恐れを浮かべ、眼前に見える火球が本物だというのか信じられぬとばかりに、宙を見上げている…。






「――…陛下…」




何処かから、彼を呼ぶ声が聞こえた













「――陛下!退避命令を!」


「…はっ…!」

暫く、何処か別の世界にでも行っていたかの様に、放心していたケェリ王は、

自身の臣下の言葉で気を取り戻した。


「…―――いかん、退避!――退避せよ!」


「退避ぃぃ!!退避ぃぃ!!!」


兵士等はケェリ王の言葉を待たず、既に塹壕や窪みへ飛び込んでいた。

…天上に煌めく、数多の火球は、真っ直ぐケェリ王領軍へ向ってくる。

「伏せろ!」




 その瞬間、ケェリ王領軍を、"威力魔法弾"の雨が襲う…。


…―――かくして、ケェリ王領軍は壊滅したのであった。






 この世界惑星には魔法が存在する。


俗にいう、異世界である。




『…―――本艦へ報告、こちら降下ポット。L-4エル=フィーアへ到達。

既に着陸態勢へ入っている。電波高度計の計測によれば、…現在高度70万3429m230万7840ft。速度は現在3万3000km/hで、減速中。』



彼等の知る限り、科学の頂点を極めた "Wir我ら" と、

それと対を成すかの様に、魔法の頂点を極めた 惑星NS-3エヌエス=ドライ文明。


この二文明の行く末とは…。


黒い星

第Ⅰ章『接触』

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