万能の付与術師は無双する~クラス転移して追放&奴隷化された俺は気づいたら最強になっていました。奴隷を解放したら成り行きで世界に反逆する革命軍のボスになっちゃったけど、まあどうにかなるでしょ~

にんじん男

プロローグ 追放編

第1話 クラス転移

 目が覚めるとそこは暗闇だった。


 もがっ!


 いや違う。地面にうつ伏せになっているんだ。

 しかし起き上がろうとするが背中に何かムニっとした柔らかいものが乗っていて起き上がれない。


 「く、苦しい!」


 「なにやってるの葵!その子が死んじゃうわよ」


 「あ、大変!」


 背中に乗っていたものが俺から離れた。

 黒髪清楚系美女であるクラスメイトの伊織葵いおりあおいが俺に密着して押しつぶしていたようだ。


「葵、なんでこんなことを…」


 「ご、ごめんね!教室が白く光って何か起きそうだったから、柔理じゅうりくんのことを守らないとと思って。ほら、柔理くんの右足が骨折してるし」


 葵は中学のときの同級生だ。

 中学の時はたまに会話をする程度の関係性だったが、中学卒業後の春休みに交通事故にあいそうになっていた葵を偶々救ったことで仲良くなることができた。


 しかしその代償に俺が代わりに車に轢かれて右足を骨折するはめになったのだが。葵が仲良くしてくれているのも、その申し訳なさからかもしれない。


 「俺のこと心配してくれてたんだ。てっきり窒息させようとしてるんだと」


 「そ、そんなことするわけないでしょ!」


 「そういえばあの教室での光は?」


 そうだ、さっきまで俺たちは高校の教室にいたんだった。そこで急に部屋中が白い光に包まれて、気づいたら葵に押しつぶされていたと。

 葵の言葉によって俺は直前の記憶を思い出し、ようやく周囲の状況を確認する。


 ここは先ほどまでいた高校の教室とは打って変わって、石作りの建造物の広間だった。どこかのお城だろうか。

 地面には高級そうな赤いカーペットが敷かれて、その上に俺を含めたクラスメイト全員が座り込んでいる。


 そして周りには俺たちを囲むように円形に配置された騎士たち。手に握られた剣は全て俺たちの方へ向いている。

 

 なんだこの状況は?教室は?この騎士は?

 唐突な展開に思考が追い付かない。


 クラスメイトたちの中には騎士の圧で吐いてしまっている人や、ほっぺたをつねって夢じゃないか確認してる人もいる。

 葵もようやく周囲の状況を確認したようで、不安そうに俺の制服の袖を指先でギュッとつかんでいる。


 「柔理くん、これはいったい…」


 不安そうな葵が俺に体を寄せてくる。

 俺だって不安だが冷静でいなければ。下手なことをしたら周りの騎士に切りつけられるかもしれないし。


 「気が触れて暴れる者などはいないか。召喚には成功したようだな」


 クラスメイトたちが困惑している中で、騎士の壁の向こうから女性の声が聞こえてきた。低く落ち着いた艶めかしい声。


 その声に反応した騎士たちが左右に避け、現れたカーペットの道の先には階段があった。その階段の上に設置された漆黒の玉座に鎮座する女性がこの声の主だろう。


 年は30歳前後くらいであろうか。そこまで濃い化粧をしていないだろうに、なかなかの美人だ。全身黒色の華美な服を纏っており、妖艶といった言葉が似合う印象である。

 その長い黒髪の女性が玉座の上から細めた目で俺たちを見下している。まるで品定めをするように。


 クラスメイトたちは周囲の騎士に命令されて、立ち上がって玉座の間の麓まで歩いていく。右足を骨折している俺は、葵に肩を貸してもらって皆の後に続いた。


 皆が整列を終えると、このクラスの委員長である石岩正義いしいわまさよしが玉座の女性に尋ねる。


 「あ、あなたは…?」 


 真面目な優等生はこういう時にも頼りになるな。こんな状況で普通こちらから話しかける勇気は出ないと思うが。


 生徒たちはこの問いに対する玉座の女性の返答を固唾をのんで見守る。


 「ふむ、言葉の疎通も問題ないようだな。我はこの国を統べるもの、女帝カーラである。ようこそ我が城へ」


 俺たちが知りたいのはあなたのことではなくて、自分たちの状況についてなのですが。


 そんな俺たちの内心を察してか、女帝の隣に立つ黒い鎧をまとった黒髪の騎士が彼女に進言した。


 「陛下。このものたちが気になっているのは自分たちが置かれた状況についてだと思いますよ」


 「たしかにそうだなレオ。今回の”最高位英雄召喚”は初めての試みだったもので一人で舞い上がってしまった」


 そこからは女帝カーラによる現状の説明が始まった。


 ここは俺らが住んでいた世界とは別の”剣と魔法の異世界”であり、カーラの魔法によって俺たちは召喚された。

 

 その理由は、この帝国を侵略する恐ろしい魔物たちと戦わせるため。

 

 この世界と元の世界では時間の流れる速度が違うため、こうしている間に元の世界はそこまで時間は経っていない


 カーラの能力では俺たちを元の世界に帰すことはできず、元の世界に帰るためには魔物を倒すしかない。

 


 まとめるとこんな感じか。

 つまり俺たちは、魔物と戦うため兵として異世界召喚されてしまったのだ。


 俺たちはこの世界で命がけの戦いをしなければ元の世界には帰れないと。


 冗談じゃない。最近やっと退院できて、ようやく俺の高1の青春が始まるところだったのに。


 「異世界って唐突に言われても…」

 「帰れないってどういうことだよ」

 「もうすぐ夏休みなのに」

 「化粧品とか持ってきてないんですけどぉ」


 クラスメイトはというと、話を理解している者や理解していない者、絶望している者や困惑している者など反応は様々だ。

 

 俺は話を理解した上で動揺している。元の世界に簡単には帰れないし、魔物と戦うということは死ぬ可能性すらあるのだ。

 しかも足を骨折してるってのに戦いなんてできるわけないだろ。肉壁になって終わりだ。


 隣の葵は唐突なことに状況をまだ理解できいないようで、首をかしげている。

 

 そんな中一人の女子生徒が女帝に向かって叫びだした。


 「私はそんなの信じない!これは何かのドッキリなんでしょ。魔法なんてあるわけない。どこかにカメラが隠してあって私たちの姿を見て笑っているんでしょ!すぐに元の場所に帰してよ」


 顔は青ざめて、呼吸は浅く速い。この現実を受け止めたくないのだろう。

 そんな態度を取ったら女帝の機嫌を損ねないかと周囲は心配したが、カーラはこれに余裕な態度で応えた。


 「なるほど、我の言葉を信じられないと」


 カーラが正面に腕を上げる。

 もしや自分たちにまた何かするのではと俺たちは身構えた。


 すると俺たちのすぐ後ろから白い輝きが発せられる。

 振り返るとそこには幾何学模様の魔法陣らしきもの。この世界に来る直前に教室の床に現れたものとそっくりなものが現れた。


 「この光は!」

 「またどこかに飛ばされちゃうの!?」


 また何かが起きるのかと皆が騒ぎ出す。


 するとその魔法陣から大きな木が生えてきた。

 いや、出てきたという方が適切かもしれない。

 教室4,5階分はありそうなこの広間の天井すれすれまでその木は伸びた。


 そしてその木の一枚の葉からバシャンと大粒の雫が1滴俺たちの元へ降ってきた。

 

 「うわっ!」

 「なにこれ!」

 

 びしょ濡れになった俺たち。

 他の生徒たちはカーラに何をされたのか理解できていないようだ。毒かもしれないと慌てて水を拭っている奴もいる。

 だがこの場で俺だけが理解した。俺だから理解できた。


 「足が治ってる…!?」

 

 骨折してるはずの足から痛みが消えたのだ。


 葵を事故から守ったときに車に轢かれ、ひどい骨折をしていた俺の足。それが雫を1滴被っただけで完治してしまった。


 ギプスも独りでに外れて、俺は飛び跳ねて足の感覚を確かめた。


 「すげー、元通りだ…」


 クラスのみんなも驚いて目を見開いている。

 

 「あいつの怪我、かなりひどいって話だったんじゃ…」

 「そんな怪我が一瞬で治ったの…?」


 「魔法なんて信じない」と叫んでいた女子生徒も、この現実を見て黙り込んでしまった。


 「”神聖樹召喚”による回復魔法だ。その気になれば部位欠損まで治せるが、ちょうどいい対象がいなかったのでな」


 非科学的な俺の足の超回復を見て、もう誰も女帝の言葉を疑おうとしなかった。


 「これで納得してもらえたか。お前たちはこの世界に、魔物と戦うための兵として召喚された。これは紛れもない現実だ」


 もうこの世界で戦うしか道はない。自分たちに逃げ場はないと、俺たちは確信した。


 皆がある程度落ち着くのを待つと、女性は話の続きを始める。


 「そう悲観するな。お前たちは強い」


 そう言いながら女帝は再び前方に腕を突き出すと、何もない空間から水晶を取り出した。


 「お前たち全員には、我の召喚術の効果で"特別な才能"が発現している。今から一人ずつどんな才能を秘めているのかを調べていく。一人ずつここへ参れ」


 何やら凄いことが起こりそうな予感がする。

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