第17話 最高の相棒
どうやら前方で何かあったようである。馬車の周りでは護衛の騎士たちが慌ただしく動いているような音が聞こえている。
ちょっと外を見てみようかな?
そう思ったのだが、速攻でニーナがよろい戸を下ろした。仕方がないので、そのスキマから外の様子をうかがう。
「うーん、さすがによく見えないな」
「ダメですよ、レオニール様。私たちを狙う襲撃者だったらどうするおつもりですか」
「う、その可能性もあるのか。考えたくなかった」
なんだか急に怖くなってきたぞ。この馬車が頑丈に作られているとはいえ、怖いものは怖いのだ。
万が一に備えて、馬車に積んであった剣をフレドリックお兄様が手に取った。ちなみに俺はまだ剣術を学んでいないため、素手である。なんてこった。
「ニーナ、あるじにも武器が必要なのではないか?」
「ええと、それなら私のナイフを一本……」
「いや、いいからね? ニーナのナイフって、太ももに隠してあるやつだよね!?」
さすがにそれを借りるのはちょっと勇気がいるぞ。なんだか温かそうだ。でも素手ではちょっと不安だな。
「外から知らせがこないから大丈夫だと思うけど、一応、護身用にレオもこれを持っておくといい」
そう言って、フレドリックお兄様がショートソードを渡してくれた。どうやら馬車に積んである武器は、他にもいくつかあったようである。これなら大丈夫だね。剣術なら、以前に騎士団長のガルシアの戦いを見せてもらったことがあるので、インストール済みである。そのことをニーナが知っているかどうかは定かではないが。シロがそれを知らないのは間違いないな。
そうして馬車の中で息を殺していると、騎士からの報告が来た。どうやら前方でケンカのような騒ぎが起こっているらしい。乱闘しているようで、収拾がつかないようだ。
騎士たちも困っているようで、馬車を動かせないでいるらしい。
ケンカをしている人たちも、まさか王族が乗った馬車が渋滞に捕まっているとは思ってもいないことだろう。
「やれやれ、これは仲裁に行かないといけないかな?」
「危険ですよ、フレドリックお兄様」
「もちろん分かっているさ。でも、このまま足止めされていると、視察に影響が出るからね」
席を立つフレドリックお兄様。ニーナも不安そうな顔をしている。ニーナは俺の護衛だが、重要度で言うと、王太子殿下のフレドリックお兄様の方が上だからね。
「ニーナ、フレドリックお兄様について行って、守ってあげて」
「ですが……」
「俺なら大丈夫だよ。この馬車は頑丈に作られているみたいだからね」
そう言ってから、俺は満面に笑みをニーナに向ける。
ふっふっふ、いいこと考えちゃったぞ。俺たちを狙う襲撃者じゃなかったのなら、ひと安心だよね? つまり、外に出ても、大丈夫だということである。実際に、フレドリックお兄様も外に出るつもりみたいだし。
「……なんでしょうか。レオニール様の笑顔が私を不安にさせるのですが」
「ソンナコトナイヨー、ね、シロ?」
「え、わが輩に振るの? そ、そうだな?」
「ニーナはますます不安になりました」
目を細くしてこちらを見るニーナ。だが、フレドリックお兄様を一人で行かせるわけにはいかないことも確かなわけで。
「それじゃ、ニーナを借りていくよ。レオ、ここでシロと一緒に待っておくように」
「気をつけて行ってきて下さいね」
ここで待っておく件に関して返事をせずに、二人を馬車から見送る。返事をしなかったと言うことは、すなわち、守らないということである。
よろい戸のスキマから外の様子をうかがう。わずかなスキマから、ニーナが馬車を気にしながらも、騒ぎのする方向へ向かっているのが見えた。
それから三十ほど数えたところで、俺たちは行動を開始した。
「さて、コッソリと外に出るとしよう。今ならよろい戸が閉まっているおかげで、俺たちがいなくなっても、すぐには見つからないはずだぞ」
「は? 先ほどフレドリックにここで待つようにと言われたはずだぞ」
「おやおや、魔王らしくない発言ですなぁ。もしかして、本当に元魔王になっちゃったの?」
「ふっ、そのようなわけがないであろう? わが輩は落ちぶれても魔王だぞ。ゆくぞ、黙ってわが輩について来い」
どうやら落ちぶれた自覚はあったようである。でも、悲しむことはないぞ。シロが善行を積み重ねれば、いつの日か、ちゃんと力を返してあげようではないか。
そのときは魔王じゃなくて、聖者様って呼ばれていそうだけどね。でもそんなの俺には関係ない。
本当にシロは扱いやすくていいなぁ。いい相方をゲットしちゃったぜ。
周囲を警戒しながら、スルリと馬車から降りる。どうやら馬車を守っている騎士の数は少ないみたいで、その騎士たちも、前方や周囲を警戒するばかりで、俺たちのことには気がついていない様子。
まさか俺たちが馬車から降りるとは思ってもみなかったようである。
それにしても、前方では大乱闘が起こっているようだ。今も怒号が飛び交っている。そしてキンキンという、金属音が鳴り響いている。
フレドリックお兄様と一緒にニーナを行かせてよかった。ニーナが近くにいれば、まず大丈夫だろう。
ちょうどよく近くにいたやじうまに紛れて、移動を開始する。背が低いので、足元を抜ければ楽に移動できそうだ。そして、騒ぎが気になるのか、それなりの身なりをしている俺に気がつく人はいなかった。
「さてと、どこに行こうかな?」
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