第4話 地下探索開始!

 それから数日後、俺は行動を開始した。もちろん目的地はお城の地下である。

 あのあと試しにお城の廊下を走ったり、調理場でつまみ食いをしたりしてみたのだが、手応えはイマイチだった。


 お母様からは「反抗期かしら?」と首をひねられ、お姉様からは「ちゃんと手を洗ってから、ものを食べるように」と言われてしまった。

 違う、そうじゃない。そこは丸めたお父さんの靴下を見るような目で見るところだろう。

 フレドリックお兄様からは「エルから教えてもらったのかい?」とすぐに見抜かれてしまった。


 さすがはフレドリックお兄様。弟や妹たちのことをよく見ているな。そして弟や妹たちが起こした問題の責任を負わされるまでがワンセットである。

 ……貧乏くじを引きやすいタイプなんだよね。生まれ持った面倒見のよさがあだとなっているような気がする。頑張れ、フレドリックお兄様。


 お城の地下への入り口は事前に調査済みである。この数日の間に、しっかりと準備をしていたのだ。さすがは俺。何もかもが計画通りである。自分の才能が怖い。


「本当に行くんですか、レオニール様?」

「ニーナは別について来なくていいからね。むしろ逆に、一緒に来ない方がうれしいんだけど」

「な、な、な、どうしてレオニール様はそんな冷たいことを言うんですか~」


 俺に激甘なニーナが涙目を浮かべている。どうしてお父様とお母様はニーナを俺の専属メイドに任命しているのか。それが分からない。これじゃ俺がダメ男になるだけじゃないか。


「ふむ、どうやら今日もあの男はいるみたいだな。まるで地下へ行く機会をうかがっているみたいだね」

「え? ああ、あの人ですね。確か、大臣の補佐をしている、文官の一人だったはずですよ。ここで働き始めて、三年くらいでしょうか」

「よく知ってるね、ニーナ。もしかして好みの男性だったりする?」


 俺の冗談を聞いて、ギョッとするニーナ。

 ……冗談だって分かっているよね? まさか、セクハラでお父様に訴えられたりしちゃう感じなのか?


 そういえば、ニーナは二十代前半くらいだろうし、そろそろ結婚してもいいお年頃のはずだ。

 まずい。これは地雷を踏んでしまったかもしれない。


「ニ、ニーナ、冗談だからね?」

「私の好みの男性はレオニール様です」

「えええ!?」


 まさかのショタコンだったのかニーナ。それで俺についているのか。ヤダ、もしかして俺、ニーナに狙われてたりしちゃうの?


「レオニール様、先ほどの男性が扉を開けて、地下へと降りていくみたいですね」

「え? ああ、そうみたいだね。よし、俺たちもついて行こう。なんだか怪しい動きをしているみたいだからね。あいつのあとをつけて、驚かせてやろうじゃないか」


 何事もなかったかのように、お仕事モードに戻ったニーナ。どうやら気にしていないようである。フウ、ヤレヤレだぜ。

 あの人を追いかけるついでに、お化けの封印がないかどうかも調べておこうかな。あと、宝物庫がないかも。


 これまで聞き込み調査を行ったところによると、仮に魔物のゴーストやレイスがいたとしても、お城で働いている神官や騎士、魔法使いの手にかかれば、イチコロのようである。

 小指でチョイだって、第一騎士団の団長であるガルシアが言ってた。そしてそれはたぶん、ガルシアだけの話だと思う。ムキムキのナイスガイだからね。


 抜き足差し足で地下への入り口を通り抜ける。どうやらこの時間は巡回の兵士がいないようだ。先を行く文官の人も、それが分かっていたのでこの時間に来たのだろう。俺たちが見ているとも知らずに。


「さて、この先に本当に封印されたお化けがいたりするのかな?」

「お化けがいたらいいですね」


 何そのニーナの、ほほ笑ましい者を見るような目は。もしかして、子供だって思われてる!?

 確かに見た目は子供だけど、中身はゲフンゲフン。


 地下通路を進むと、そこにはいくつもの部屋が並んでいた。鉄格子があり、かつては罪人を入れていたのかもしれない。

 正直に言わせてもらえれば、結構怖いな。まるで本格的なお化け屋敷である。あ、そういえば、ここには本物のお化けがいるって話だったか。


 慎重に鉄格子の中を探っていく。俺の視界が明るいのは、ニーナが明かりの魔法を使っているからである。

 俺たちが追いかけて来ていることは、前を行く文官の人にはたぶんもうバレているんだろうな。隠れて追いかけた意味ないじゃん。


 まあ、足元が暗いと危ないからね。しょうがないね。暗視ゴーグルとかあればよかったのに。

 そうして小さな部屋を確認しているうちに、突き当たりまでやってきた。

 あれれ、おかしいぞ?


「ニーナ、さっきの人とすれ違った?」

「いえ、すれ違っていません」

「まさか、さっきの人がお化けだった!?」

「そんなわけありませんよ。ちゃんと足がついていましたし」


 あ、こっちの世界でも、お化けには足がないことになっているんだ。文化的に中世から近世ヨーロッパにとてもよく似ているところがあるなとは思っていたけど、色んな共通点があるんだね。

 おっと、話がそれるところだった。


「それじゃ、あの人はどこに?」

「おかしいですね。私が見逃すはずはないんですけど」


 ニーナも首をひねっている。どこから出てくるの、その自信。

 仮にニーナの自信が本物なら、あの人はまだこの地下のどこかにいることになる。ということは。

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