3 まずは意思を確認しないと
「そ、そうだったわね」
「やだ、何言ってるのリシャ、貴女ずっと楽しみにしてなかった?」
「え」
スノウリーの呆れたような声に、私ははたと気付いた。
そう言えばそうだった。
この頃の私は、半年前にマーシュがお父様から婚約者がこういう人だと紹介された、という話を聞いて、ただはしゃいでいたのだ。
……正直、その半年の自分をぶん殴ってやりたい……
だってそうだ。
マーシュリアはその相手のことを「生理的に」ダメだったのだ。
それはもう、引き合わされた時点から!
ただ、彼女のお父様は下手に政略結婚となるよりは、子飼いの部下で見所のある者を後々の事業の後継者として婿入りさせたかったらしい。
無論マーシュが書店経営をするという気持ちは全くないらしい。
そういう発想すらないらしい。
まあそれはそうだ。
あったら彼女をこの第二に入れはしないだろう。
何としても第一に入れていたはず。
そもそも第二は結婚後のお付き合いとかに重点を置いたようなところなのだ。
だからこそ、彼女だけでなく、卒業したら故郷に帰って婚約者と結婚、という人もかなりいたのだけど……
まあそれで、私も浮かれていたのだ。
私自身、例えば実家の青果系卸売問屋の経営に携わるという発想など全くなかった。
ただもう、マーシュのもとにお父様から送られてくる数々の女性向け雑誌を見ては、仕事に燃える女性達の記事で「最近は凄い人がいるのねえ」と単純に感心していただけだ。
そして自分自身は割り切った結婚を帝立大学卒の義兄の知り合いでも紹介してもらって、さっさとしてしまおうと思っていたのだ。
きっと姉や義兄の見込んでくれる人なら、私の好みから全く外れた人は持ってこない、という信用もあり――
マーシュのお父様もそうだろうと思ってしまっていたのだ。
だがそれが間違いだった!
私の夢だか未来の記憶だかのマーシュの最初の結婚相手は、どう見ても彼女の、そして私達から見ても生理的にダメな男だったのだ。
「あ、あのね、マーシュ」
「なあに?」
小首を傾げて物憂げに私達の方を見る彼女は、同性から見てもとても可愛いし美しい。
ダメだ! あの男に最初に……なんてもったいなさすぎる!
「何か私ずっと浮かれていて…… ものすごーーーーく、今さらだとは思うんだけど」
「どうしたのリシャ。貴女にしては珍しい……」
「あの、あのね、結婚のことだけど……」
「ああ……」
軽く目を伏せる。
そうだ、大概そうだったはず。
全く私ときたら! どうして彼女のそういう仕草に気付かなかったのだろう!
「もしかしたら、気が進まない?」
「エーリシャ?」
スノウリーはびっくりしてその綺麗な瞳を大きく広げる。
「いや、あの、私ずっと結婚結婚って浮かれてて、今さら言うのも何だけど、……もしかして、結婚するの、嫌かなあ……?って。いや、そんなことないよね、あはは」
つとめて、いつもの調子で軽く軽く。
だけど言いたいことは言った!
「エーリシャ、それは…… って、マーシュ?」
マーシュはうつむき、両手で大きく自分の顔を覆ってしまったのだ。
その細い肩が震えている。
スノウリーは慌ててマーシュに近づき、肩を抱く。
「どうしたの一体?」
「ご、ごめんなさい、私……」
マーシュはそう言ってしばらく喉の奥でひっくひっくと泣き続ける。
化粧が落ちてはならない、と涙を止めて泣く時の方法だった。
だがこれではっきりした。
マーシュリアはもうずっとこの結婚を嫌がっていたのだ。
「え、ええと…… もしかして、私が浮かれていたから、本当のこと言えなかったの…… よね?」
「……リシャのせいじゃないわ。私が悪いの」
「だって」
「お父様が決めたなら、私に良いと思ってのことよ。だってずっとお母様を亡くしてから、後添いも貰わずに、私を一人で育ててくださったお父様がそう決めて……」
うわ、そうだこれがあったんだ。
この私の親友は二人とも、産みの母親を幼くして亡くしている。
それがまた、悪いように作用してたんだ!
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