第3話 魔力異常の洞窟・2 到着


 マツに言われた通り、大人しく目を瞑って空を飛ぶ。


 顔に強い風が当たる。

 確かに、これはとても目が開けられる状態ではない。

 必死に腰の大小を両手で押さえる。


「もうすぐですよー!」


 と、すごい風の音の中で、前からマツの声が微かに聞こえる。

 頷こうとしたが、首を少し動かすのも恐ろしい。


(口など開けたら、顎が外れてしまいそうだ!)


 魔術を使っている本人は大丈夫なのだろう。

 ちゃんと前が見えていて、喋ったりも出来るようだ。


 数分もしないうちに、少しずつ勢いが収まってきた。

 どんどん緩くなり、ゆっくりと降りていくのが分かる。

 風が止まり、どさどさ、と音を立てて皆が地に落ちた。

 次いで、クレール達が下りて来て、ラディがどさ、と地に落ちた。


「う」


 と、小さな声を上げ、目を開けると、周りは折れた木や岩が転がっている。


「これは・・・」「なにこれ・・・」「・・・」


 皆が驚いて周りを見回す。

 マサヒデが折れた木に近付くと、まだ新しい。

 驚いて分からなかったが、落ち着けば折れた生木の臭いがぷんぷんする。

 ラディが懐から眼鏡を出して、着けてきょろきょろと周りを見渡す。


「あちらを御覧下さい」


 マツが指差した方を皆が見ると、少し離れた山の斜面に大きな穴。


「あれが洞窟ですか」


「そうです。この木は、あそこから岩が飛んで来て倒れてしまったのですね」


「うへえ・・・」


 と、シズクが岩に近付いて、手を当てる。

 ぐぐっと力を込めると、ずず、と少し岩が動いた。


「おお、重いね。こんなのが飛んで来たんだ」


 はは、とアルマダが笑い、


「それを動かせるシズクさんも凄いですけどね」


「うふふ。では、私は騎士様達をお連れしてきますね」


 説明もそこそこに、マツが飛び去って行ってしまった。

 アルマダがマツが飛んで行った方を見ながら、ふう、と息をついて、


「やれやれ、マツ様には手間をかけてしまいますね。

 本当に申し訳ない事です」


 マサヒデが洞窟を見ながら、


「さてと。洞窟はあそこですけど、どこまで魔術は使えるんでしょう?

 飛んで来たんだから、ここは大丈夫でしょうけど」


 カオルもマサヒデの隣に立って、洞窟を眺め、


「ご主人様、200間(約360m)はありそうですが」


「ええ。出来れば、もう少し近くに休憩所を作って欲しいですね。

 ここから中の探索をして戻って来るには、少し不便です」


 クレールが歩いて来て、


「マサヒデ様、私が調べます」


 そう言って、ぽっと水球を浮かべて、手の上にふわっと浮かせる。


「このまま、歩いて行けば分かりますね」


 マサヒデは浮かんだ水球を見て、少し首を傾げ、


「飛ばしちゃえば良いじゃないですか」


「遠くまで飛んだら、見えないじゃないですか。

 それに、どうせ洞窟には行くんですから」


「はは、それもそうですね」


 と、自嘲気味に笑って、


「シズクさーん!」


「はーい!」


 岩と戯れていたシズクが駆け寄って来る。


「先頭を頼みます。私達は後ろを付いて行きますから」


「よっしゃ! 早く見たいね!」


「じゃあ、シズクさんの後ろにアルマダさん。

 次に、ラディさん、カオルさん、クレールさん。

 一番後ろに、私で行きましょう」


 シズクが歩き出し、皆が後ろを付いて行った。



----------



 40間程歩いた所で、


「あっ」


 とクレールが声を上げ、ぽ、と手の上の水球が消えた。

 皆が足を止め、クレールの方を見る。


「消えてしまいました。ここまでですね」


 んー、と小さく声を上げて、クレールが魔術を出そうとしているが、何も出ない。

 アルマダが腕を組んで、


「ふむ、ここまでですか」


 と、洞窟の方を見る。

 まだ、少し距離がある。


「少し遠いですが、仕方ありませんね」


「じゃあ、クレールさん。少し戻って、拠点を作りましょうか。

 皆さん、待ってて下さい」


「はい」


 と、マサヒデとクレールが5間程下がって、クレールがすぐに土の壁で豆腐のような形の壁と屋根を作ったが、ぺき、と小さく音がして、


「ん?」


 と、マサヒデが近付くと、ばらっ! と音がして、屋根が落ちた。


「うわ!」


 驚いて飛び下がると、ぱらぱらと壁も崩れていく。

 クレールも驚いた顔で、崩れていく壁を見つめている。


「やれやれ・・・」


「驚きました。作っちゃった後は、別に魔力を送っている訳ではないんですよ。

 なんで崩れちゃうんでしょう?」


「ううむ、不思議ですね・・・これが魔力異常、という奴ですか。

 もう少し離れれば、大丈夫でしょうか?」


 音に驚いて皆が慌てて駆け寄って来た。

 アルマダが崩れた壁を見て、


「マサヒデさん、クレール様、どうしたんです」


「いや、不思議なものです。

 今、クレールさんが、土の魔術で壁を作ったでしょう?

 作った後は、魔力を送り続けているわけでもないのに、崩れてしまって」


 アルマダは顎に手を当てて、


「ふむ、これが魔力異常というものですか。

 魔術で作った物も、許されない・・・と、いうことでしょうか?

 では、もっと離れても、魔術では拠点を作れないかもしれないですね」


 カオルが周りを見渡し、


「ご主人様、手で作ってしまえば如何です。

 木はそこら中に倒れていますし、この辺りであれば、魔術は使えます。

 仮小屋ですし、骨組みを作って、板を乗せるだけで十分でしょう」


「ふむ。クレールさん、かまいたちの術は使えるようになりました?」


 ふふん、とクレールが胸を張って、


「もう使えますよ!」


 と、得意気な顔をする。

 魔術を飛ばすのが苦手だったクレールも、もうほとんど克服出来たようだ。


「じゃあ、その辺の木を切っちゃって下さい。

 2間くらいの長さの棒を、ううむ、一応、20本くらいで。

 あと、板も同じくらいの長さのを適当に」


「はい!」


 ひゅん、ひゅん、と風が飛び、あっと言う間に倒木が切られ、縦に飛んで、ばらりと棒が出来た。風が飛び、板も完成出来てしまう。


「ううむ・・・簡単に出来てしまいますね・・・」


 棒を手に取ると、まるで鉋(かんな)を掛けたように、綺麗に切れている。

 アルマダもカオルも棒を取って、驚いている。


「ふふーん! どうですか!」


「シズクさんと2人で伐採でもやれば、簡単に稼いでいけそうですね。

 林業で、あっと言う間に大儲け出来そうですよ」


「それも良いかもしれませんね!」


「ははは! じゃあ、縛って持っていきますか」


 マサヒデ、アルマダ、カオルが次々と棒や板を縛って、シズクの足元に運ぶ。


「うんしょー!」


 と、声を出してシズクが両手で抱えるが、シズクには大した重さではなかろう。

 一緒に抱えている鉄棒だって、片手で振れる腕力なのだ。


「よし! 皆、早く行こうよ!」


 と、シズクがどすどすと歩き出した。

 皆も後ろに付いて行く。

 歩きながら、


「そうだ、クレールさん、ここって何の種類の魔力があるんです?」


「これは金の魔力ですね!

 金の魔力となると、これは大鉱脈が期待出来るかもしれませんよ!」


「ええと、土金木火水、の五行の金でしたか。

 金の魔術の掛かった得物だと、どんな物になりますかね?」


 クレールは興奮した顔で、


「あっ! あーっ!

 もしかして、魔術の掛かった刀をお作りになりたいのですか!?」


「まあ、鉄の鉱脈があれば・・・

 その鉄を使う事を、マツさんが許してくれれば、の話ですよ」


「金の魔術だと、やっぱり魔神剣みたいに、雷を放つとか!

 ああっ! そうだ! オトサメが作った月斗魔神のひとつみたいになるかも!

 振ったら大きな斧になるみたいに、形が変わるとか!?」


 マサヒデは驚いて、


「ええ!? 月斗魔神みたいにですか!?」


「魔術の中でも、金の魔術は扱いが難しいんです。

 雷のように、他にはない、変わった動きの物もありますし。

 でも、扱いが難しい分、強力な魔術が多いんです。

 もしかしたら、もの凄い物が出来るかもしれませんよ!」


「ふふふ。振ったら釘みたいに小さくなったりして」


「それは残念な品になっちゃいますね・・・

 でも、それはそれで面白いですけど! うふふ」


「ははは!」


 マサヒデ達の会話を、モトカネを抱えたラディが無言で聞いていた。

 もし、本当に鉄があって、それを父が打ったら、どんな得物になるだろう?

 私が打ったら・・・もし、私が打ったら・・・

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