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小太りの男がドアを開けると現れた少年はニッコリと笑って頭を下げる。
「こんにちは。僕、シルシエっていいます。依頼書を見て来たんですけど」
「え、ああ。依頼書ってあの……」
「はい、『大切な仲間 ボヌーに安らかな眠りを』と書かれた依頼です。とても素敵な文言に引かれてきました」
屈託のない笑顔を見せるシルシエに、小太りの男が戸惑っていると、後ろからラルジャが顔を覗かせる。
「フェール、何やってんだ……ってなんだ? このガキ」
「なんでも、俺らの依頼を受けに来たらしいんだよ」
フェールと呼ばれた小太りの男の説明を聞いたラルジャは、シルシエを睨みつける。
「帰んな、ガキができる仕事じゃねえ。ガキはゴミでも拾って小銭でも稼いでろ」
手をしっしっと払ってシルシエを追い払おうとするラルジャだが、シルシエはふと笑みを浮かべる。
「依頼を出して半年間、進展がないと聞いています。なんでもご友人が落ちた穴が深く途中から狭くなっていて入りにくいことで難航しているとか。その点、僕は小さいですからピッタリと思うんですけど」
ラルジャの眉がぴくっと動くと、シルシエの胸ぐらを掴む。
「てめえのような非力なガキが穴に入れたところでだ、どうやってボヌーの遺体を上に上げるってんだ? ああ?」
キレるラルジャの手を目の鋭い男、パスが握って離すように催促する。
「悪かったな。こいつも悪い奴じゃないんだが、大切な友人がずっと穴に落ちたままで助けてやれないことに苛立ってんだ。許してくれないか?」
「ええ、大丈夫です。それだけ大切な人だったってことですよね」
「すまないな。ところで、シルシエだったか。依頼を受けると言ったが君は探索者なのか?」
パスの問いにシルシエは返事をしながら頷く。
「そうか、ならちょっと話を聞いて欲しいんだがいいか?」
「ええ、もちろん。そのために来ましたから」
シルシエを家の中へ案内するパスにラルジャが、鼻を鳴らし不快感を露わにする。
パスに言われ、バタバタと足を音をたてながらフェールがシルシエにお茶を運んでくる。
「依頼書を見たなら依頼内容は把握しているってことだな。そして今日まで俺たちの友人を引き上げてやれなかったことも知っているな。正直諦めようかとも思っていたとことなんだが、シルシエ、君が来てくれたことで思いついた」
パスが話すのをじっとシルシエは見つめて聞く。
「ボヌーを引き上げることは叶わなくても、せめて彼の遺品だけでも地上へ戻して埋葬してやりたいんだ。あぁ、もちろん危険な仕事に変わりはないし、依頼内容は遺体の引き上げから、遺品の回収にこっちの都合で変更するんだ。達成金に変更はなしだ。どうだろうか?」
「遺品ですか? それは構いませんが、武器などの外しやすい物の回収は可能ですが、鎧や衣服など着ているものなんかは難しいです。遺品の内容によっては僕も断るかもしれません。ちなみにご友人の方のどのような遺品を回収すればいいんですか?」
シルシエの質問に、パスがふっと笑みを浮かべる。
「なに、彼はいつも首から大切そうにペンダントをぶら下げていたから、そのペンダントを取ってきてほしい。それと、他に簡単に取れるものならなんでもいい」
シルシエは唇を人さし指で押さえなにやら考えると、パスに目を向ける。
「分かりました。ですが、基本的にはボヌーさんのご遺体の回収を試みます。現場を見て無理そうだと判断したら遺品の回収へ変更。首から下げていたというペンダントを優先し、その他回収可能な遺品を持ち帰る。契約内容はこれでよろしいですか?」
「ああ、完璧だ。正直子供かと思ってなめていたが、その物言いは仕事できるな? 君と出会えてよかったよシルシエ」
そう言って立ち上がって手を伸ばしてきたパスに、シルシエも立ち上がって手を握る。
「契約設立だ。近々ダンジョンへと向かう。俺たちが案内兼護衛をするから、シルシエは依頼に集中してくれ」
「はい、では僕は呼ばれるまで町で待機しています。出発の日時が決まったらギルドを通して連絡してください」
「ああ、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
二人は手を強く握り合う。
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