人形転生の復讐劇
神代零
プロローグ
道路の所々に大きな水溜りが出来る程の大雨が降っている。
空はもう暗くなっており、電灯の光しか照らすものがない。そんな道を歩く男が1人いた。
その男は傘を差しておらず、スーツを濡らしてとぼとぼと歩いていた。
「…………なんでだ、なんでだよ……」
眼は闇を浮かべ、ブツブツと恨みがましいことを呟いていた。
「俺は無実だ、無実なんだぞ……! な、なんで、裁判に勝てないんだよぉぉぉぉぉ!!」
男は裁判で原告者の立場にいた。会社での不正をしてないことに訴えていた。本当に不正なんか、してなかった。なのにーーーー
「なんで、証拠があるんだよ!! そんなの、ある筈がないのに……、何もしてないのに……」
本来は不正をしていたのは、男の同僚であり、その罪を被さられた状態になっていた。会社の人は殆どが同僚ではなく、自分がやったと思われており、味方はいなかった。
この男、辻堂亮太(つじどうりょうた)は昔から不幸だった。
小さい頃、事故で両親を亡くして、祖父の所に預けられたが、懇意にしてくれず、居ない存在のように扱われていた。食事や学校のお金は両親の保険金で払って生きていけたが、愛情を注がれることはなかった。
学校に通っていた時も不幸だった。仲良くしてくれる友人がおらず、ガキ大将や不良なる者からの虐めで、遠巻きに見るだけで関わってくることはなかった。それでも、亮太は耐えた。いつか幸せを掴めると信じて。
大人になるまで耐え抜いて、就職した。仕事場になれば、学校のように虐めもなく、お互いに協力出来るぐらいの仲になった仕事仲間も出来た。この時から小さくとも幸せを感じることが出来た。
ーーーーその事件が起きるまでは。
会社の帳簿に不正が見つかり、その帳簿には横領された金額刻まれており、その隣には亮太の名が書かれていた。それ故、疑われるようになった。帳簿に名前が書かれたからって、犯人と決まったわけでもないが、容疑者の枠に入られてしまった。
亮太は納得出来ず、裁判を開いた。自分は横領をしてない証拠を探し、提示した。だが、仲が良かった同僚から亮太が犯人である証拠を提示してしまう。
亮太はショックを受けていた。まさか、仲が良かった同僚からこっちが犯人だと言う証拠を提示されてしまうとは思ってなかった。こっちだけに見えるように邪悪な笑みを浮かべていたことにより、思い立ってしまう。
同僚が自分に罪を被せようとしていたことに。
裁判で叫び散らすことをしなかったが、心の中では佛佛と黒い感情が湧いて出ていた。
頑張ったが、裁判の結果は無罪とはならなかった。あと2回、裁判で訴えることが出来るが、味方がもういない亮太は勝てる気はしなかった。
ショック、憎しみ、悲しみなどの感情が渦巻く中、気付いた時は雨の中を歩いていたのだ。
「はっ、はは……、なんで……? 俺はただ幸せに生きたかっただけなのに……、なんで、周りは邪魔をするんだぁ、ァァァーーーー!!」
この時、亮太は周りが見えてなかった。道の真ん中に立っていたことに気付かなかった。視界が悪い雨の中だったのもあり、走っていたダンプカーが角から曲がってきた後に亮太がいることに気付くのが遅れーーーー
「えぁ?」
亮太はライトに気付いたが、既に近くまで迫って来たので逃げる時間はなかった。そのまま、ダンプカーに轢かれて、一瞬で意識を無くした。痛みを感じることもなく、一瞬で死に絶えた。
走馬灯も浮かぶこともなく、寸前に何かを思うこともなくーーーー
神のイタズラなのか、亮太の魂は衝突時に現れた小さな小さな次元の歪みに吸い込まれた。そして、その魂はーーーー
(…………ん? 俺は……?)
まだ意識がハッキリしないまま、自分がどうなったのかと身体を動かそうとして…………動かなかった。
(身体が動かない……、あ、ダンプカーに轢かれたっけ。まさか、病院で植物状態に!?)
心の中で慌てる亮太だったが、ボヤけていた意識が完全に覚醒し、ここが病院ではないと理解した。しかしーーーー
視界には、大きなぬいぐるみや人形が写っていた。隣を見ようとしても、首が動かない。腕も脚も全く動かせない。
たまたま、正面にガラス板があり、自分の姿が映っているのも見えーーーー
(う、嘘だろ……、俺が人形になっているぅぅぅぅぅ!? )
叫んだつもりだったが、声も出せなかった。声を出せず、身体も全く動かないのは仕方がないのことだ。
ーーーー亮太はただの人形に転生したのだから。
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