このシコらせ系VTuberって先輩ご自慢の彼女さんじゃないですかー?笑
アーブ・ナイガン(訳 能見杉太)
第一章 被害者C(本名 蝶野丈太)
第1話 この女に目ぇつけられた時点で終わり
「
隣から軽薄そうな声で尋ねられて、俺はつい作業の手を止めてしまう。
「何だよ、やぶから棒に……そんなんいいから、ほら。ちゃんと見て覚えてくれよ、レジ点検くらい。
「あはっ♪ さーせん、わたしって、ほら、地味な作業とか苦手じゃないですかー」
知らねーし、じゃあコンビニバイトなんてやんなよ。
今どき珍しく、見た目だけでなく中身までちゃんとギャルなのだろう――「場面で生きてる」系女子高生、
何度注意しても挨拶は棒読み「しゃーせー」と「あーしたー」だし。手当付けてほしい。
だが、今日のところは、もうそんな苦行からも解放される。あと1分で22時。たった今レジに入ってきた夜勤のお兄さんたちに引き継いで、今日のバイトは終了である。
明るい髪を弄りながらニヤニヤする保科さんと、ため息ついて脱力する俺。
そんな姿を見て、ネパール人の夜勤バイト、バビさんが陽気に口を開く。
「ウソ? ホシナサン、ジョータの彼女、見たことないデスカ? たまにこの店来マス。メッチャ可愛い」
「話聞いてたのかよ、バビさん……」
バビさんから得た情報に、保科さんは興味津々といった様子で目を輝かせる。うわ、めんどくせぇ……。
「え、マジですか!?」
「メッチャマジデス。可愛いっていうか美人サンデスネ。アニメに出てくるセンパイって感じデス。でも、そういえば最近見ないデスネ」
「なにそれウケる。全然わかんない」
今どき珍しく、ウケるって言うときはちゃんとウケてる保科さんの笑顔は、正直ちょっと可愛かった。
が、そんな後輩ギャルのちょっと可愛い笑顔程度では到底癒しきれないほど、俺の悩みは深刻であった。
「うぷぷっ、丈太さん、たった5時間のバイトでお疲れすぎじゃないですかー? 大学ってお遊びみたいなもんなんでしょ? わたしなんてハードな高校生活こなしてからバイト来てんですけどー」
アホみたいに狭いバックヤードが、俺たちの事務所・兼休憩室・兼更衣室だった。そんな場所に商品在庫の山やら店長のデスクやらが詰め込まれているせいで、人が歩けるスペースなんて畳四畳分もない。
もちろんこんなところに長居する理由など一つもない俺は、退勤登録だけして、さっさと帰るのが常だ。が、話しかけられてしまった以上、ガン無視するわけにもいかない。
「何だよ、その大学のイメージ。言うほど楽じゃねーし――って、おい。ちゃんと着てからにしてくれよ……」
振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、店長用のオフィスチェアに座り、ブラウスのボタンを留めている最中の高二ギャルの姿だった。
とっさに目を逸らす俺に向かって、保科さんはクスクスと笑いながら言う。
「えー? なにキョドってんですか? 普通にインナー着てんじゃないですか」
「キャミソールは下着だろ。たぶん」
キョドってねーし。マジで興味ねーわ。
ただ、彼氏が高校生の下着姿見てたなんてことになったら、彼女が嫌な思いするだろーが。
「あと一応ネックレスは外しとけよ、保科さん。ユニフォームで隠れてるとはいえ、決まりは決まりだからな」
「嫌でーす。これ先祖代々伝わってるやつなんでー、絶対体から離せない決まりなんでー」
「4℃のネックレスが先祖代々伝わっていてたまるか」
「あっ、4℃馬鹿にしましたね。ムカつく。もーいーや、丈太さんに着替え覗かれたって店長に言っちゃおっと」
「勝手にしろよ。どうせ保科さんより俺の証言を信用してくれるだろうし」
「パートのおばさんたちに言っちゃおっと」
「オッケー、シフト変わってほしいんだな。仕方ない、いつでも変わってやるからお願いします黙っててください」
「やだなぁ、そんなに怯えないでくださいよー」
ガクブル震える俺の肩に、真っ白い手がポンと置かれる。
「な、何が目的だ」
そして、保科華乃は小悪魔めいた笑みで、こそっと告げる。
「駅まで送ってください、せーんぱい♪」
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