第22話 カオルとお出掛け・3


「次は何を探すんです?」


「炭と硝石と硫黄です」


「炭と、しょうせき? いおう?」


「混ぜると火薬になるんです」


「ああ、なるほど。火薬の材料ですか。

 しかし、火薬なら鉄砲屋に行けば良いじゃないですか」


「混ぜる割合で燃え方が変わるんです。

 私の術に合わせて、色々と割合を変えて作るんです」


「へえ。火薬と一口に言っても、色々とあるんですね」


「そういうことです」


「炭は売ってるでしょうけど『しょうせき』とか『いおう』ってどこで?」


「硝石は鉄砲屋で、硫黄は薬剤屋で売ってます」


「詳しいですね」


「買い物に来た時に調べてありますから」


「で、どれから行きます?」


「あそこに鉄砲屋が見えますから、まず硝石を買いましょう」


 腕に絡みつくカオルを連れて、鉄砲屋まで歩いて行く。


「いらっしゃい」


 暖簾をくぐると、太った店主が無愛想に挨拶する。


「どうも。お邪魔します」


 そうだ。ついでにラディにどんな銃が合うか見ていくのも良い。

 大体の値段を調べておくのも良いか。

 しかし、マサヒデは銃はさっぱりだ。


「カオルさんは銃は分かりますか?」


「? 銃を見ていくんですか?」


「ええ。ついでですから、ラディさんにどんなのが良いか見ていこうかと」


「ああ、なるほど・・・しかし、簡単な取り扱いくらいしか。

 引き金を引けば弾が飛ぶ、という程度です」


「では、店主に聞いておきますので、カオルさんは買い物を」


「はい」


 カオルがすっと離れていき、奥の棚へ向かう。

 ずらりと並んだ、ガラスのケースに並ぶ銃。

 一口に『銃』と言っても、短い物から長い物。

 細い物に太い物。

 値段はどれも高額。安いもので金貨30枚超。3年働かずに暮らせる額だ。


「へえ・・・」


「あんた、銃は初めてかい」


「はい」


「そうかい」


 店主はそれからむっつりと黙ってしまい、新聞を読み出した。

 初めてまともに見る銃は珍しく、見ているだけで飽きない。


「はあ・・・色々とあるんですねえ」


「・・・」


 しばらくケースに並ぶ銃を見ていると、ぱさ、と店主が新聞を畳む。

 ごとり。

 カウンターに短銃が置かれる。


「触っていいぞ」


「良いんですか?」


「ああ」


 初めて手に取る銃。

 ずっしりと重い、鉄の塊。


「おお・・・」


 引き金を引いてみる。

 これを握り込むと弾が飛ぶというくらいは分かるが、何も変化がない。


「うん?」


「撃鉄を起こしてから、握ってみろ」


「げきてつ?」


「ケツの出っ張りだ。そこに親指を乗せて、ぐっと下に倒せ」


 これか。

 上に指を乗せるような形になっていて、滑り止めのように深く刻みが入っている。

 親指を乗せて、ぐっと落とす。

 銃身の真ん中の丸い部分が回り、撃鉄が下まで落ちた所で、かち、と止まる。

 引き金も引かれたような所で止まる。

 この丸い部分の穴に銃弾を入れると、順番に回るから空打ちしないというわけだ。


「おお、なるほど・・・」


 がちん。

 引き金を引くと、撃鉄が前に跳ね上がり、銃身を叩く。

 なるほど。これで銃弾を叩く、火薬が爆発、弾が飛ぶ、というわけだ。


「ううむ・・・こういう作りになっているのか・・・」


「・・・」


「ご店主、女性が扱うとなると、やはりこのような短銃の方が良いのでしょうか」


「女性?」


 店主が、火薬の棚をごそごそしているカオルに目を向ける。


「あ、いえ。あの人じゃありませんが」


「ふーん・・・ふふふ。女に銃を贈り物か。面白い」


 カウンターに腕を乗せ、ぐ、と店主が少し顔を近付ける。


「いや、贈り物という訳では・・・いや、贈り物といえば贈り物ですが」


「どういった使い方かにもよるな。護身用なら短銃だろうな」


「例えば・・・我々がこのような・・・」


 とんとん、と刀の柄を軽く叩く。


「このような物で斬り合いをしている所、離れた所から援護してもらう場合は」


「・・・ほーう。そういう使い方か・・・」


 店主の目が細くなる。


「なら、こういう長物の方が良いな」


 ごっとん、と大きな銃が置かれる。


「触ってもいいぞ」


「では、遠慮なく・・・」


 持ち上げてみると、やはり重い。


「随分と、重いですね」


「短銃は遠くまで狙えねえ。そういう長物なら、遠くもしっかり狙える」


「ふむ。弓と同じですね」


「使う弾にもよるがな。まあ、でかい弾ほど遠くまで届くってわけだ」


「なるほど・・・」


「そうだな。女が使う長物なら、これが良いだろう」


 ごとん、とまた長物が置かれる。

 これは木で出来た部分が随分と多い。

 持ち上げてみると、一貫(4kg弱)くらいか。

 大きさの割には軽く感じる。木の部分が多いからか。


「先程のと比べて、随分と軽いですね?」


「並べて見てみろ」


 先程の銃と比べて、拳ひとつ分くらい長い。なのに軽い。

 やはり、金属部分が少ないのだ。

 ん? 弾の通る穴の大きさが、ほんの少し小さい?


「ご店主、これは弾が小さい?」


「良く気付いたな。弾が小さい分、火薬も少ない。だから、撃った時の反動も少ない。長い分、ブレも少ない。当てやすいってわけだ。軽いから女でも扱いやすいだろう。小さい弾とはいえ、十分飛ぶ」


「ほう・・・」


 しかし、弾が小さいとなると、金属鎧は貫通出来るだろうか?

 短銃でも抜く事は出来るから、平気だろうか?


「弾が小さいとなりますと、これでは金属鎧などは抜けないでしょうか」


「よっぽど遠くか、丸い部分に当たらなきゃ抜けるぞ。短銃よりは遥かに強いからな。それに・・・」


 どん、と弾薬の箱が置かれる。


「こんな物もある」


「これは、弾?」


「特別なやつだ。どんな鎧もぶち抜ける。だが、鎧どころか身体まで突き抜けちまうから、身体の中に弾が止まらない。てことは威力は落ちるが・・・」


「が?」


「銃ってのは威力がありすぎるんだ。少しくらい威力が落ちた所で、十分な攻撃は出来る。この弾薬を見てみろ。小指くらいの大きさだが、穴が身体を突き抜けて空くって想像してみろ」


「なるほど。確かに、十分な威力がある。簡単に動けなく出来るでしょうね」


「そういう事だ。胴体のどっかに当てるだけで臓物やられて、痛みにのたうち回る。穴から空気が入れば、臓物も腐るわな。数日思い切り苦しんだら、あの世行きだ。ふふ、あんたの腰の物で首をはねた方が、苦しまずにすむな」


「ううむ・・・」


 高額なだけはある。

 値段分の働きは十分してくれそうだ。


「マサヒデ様」


 カオルが箱を持ってカウンターに来る。


「お、ありましたか」


「はい。良い物が」


「うん。こちらも良い物がありました。ご店主、色々とお教え頂き、感謝致します。今度、こちらを持たせたい者を連れてきます」


 にやり、と店主が笑う。


「ふふふ。女に銃を贈るってのは気に入ったよ」


 店主は「ぎし」と椅子に背を持たれかかせ、カオルの持ってきた硝石を天秤に乗せた。



----------



「さあ、マサヒデ様。次は薬剤屋ですよ」


「薬剤屋なんて初めてですよ。やっぱり、毒とか作るのに、良く行くんですか?」


「うふふ。自前で用意出来るものは、自前で用意するんです。先日のきのことか」


 数秒で死ぬという、あのきのこか・・・

 さらり、と薬剤屋の戸を開ける。

 ギルドの治療室のような香りが店いっぱいに漂っている。


「こんにちは」


「はーい、いらっしゃいませ」


「硫黄ありますか?」


「はいはい。いかほど?」


「2斤(約1.2kg)ほど」


「2斤も? 何に使うの?」


「ちょっと薬剤の研究に」


「研究?」


「私、魔術師でして。薬剤も合わせた魔術も研究したいのです」


「へえ・・・変わったことなさるのねえ」


「上手くいけば、良いお薬を作れるかと閃きまして」


「ふうん。もし出来たら、作り方教えてくれるかい? 教えてくれたら、その次からまけるよ」


「ええ。喜んで」


 にっこりとカオルが笑う。


「じゃあ、ちょっと待っててね」


 店主が奥に入って行った。

 よくもまあ、こんなにぽんぽんとでまかせが出るものだ・・・


「カオルさん・・・」


「はい?」


「よくも、あんなにでまかせが出ますね・・・」


「うふふ。口も忍の術のうち、でございます」


「そんなものですか」


 店に並んでいる物を見てみる。

 瓶に入れてある液体や粉末、乾いた人参のようなもの。

 何が何に使えるのだろう?


「そういえば、カオルさんは調薬も出来たんですよね」


「ええ。出来ます」


「傷薬とか、解毒薬のような物も」


「ええ。しかし、ラディさんがおられるではありませんか」


「魔力切れとかもありましょうし、もしラディさんが・・・と。あまり考えたくはありませんが」


「む・・・そうですね。準備は必要ですね」


「ええ」


「では、いくつか用意しておきます。材料は秘密ですから、今は買いません」


「構いません。お願いします」


「は」


 よく分からない材料を見ていると、店主が戻ってきた。


「お待たせしました。硫黄2斤です」


「ありがとうございます」


 金を払って、2人は店を出る。

 店を出ると、またカオルがべたべたと腕を絡めてきた。


「さ、荷物は持ちましょう」


「うふ。マサヒデ様はお優しいのですね」

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