第11話 挨拶・4 名刀の力


 秘蔵の作を見て、あまりの凄さに気を失ってしまったラディ。

 それを見て、心の中で高笑いするカゲミツ。


「お二方。ご安心下さい。ホルニコヴァさんはこの3本をよく知っているようだ。

 それで驚いてしまっただけでしょう。あれだけ喜んで頂けると、私も嬉しい」


「・・・」


「さ、お二方。ホルニコヴァさんが驚いてしまった理由、お見せ致します」


「驚いた理由ですか?」


「ええ。見れば分かります。刀剣を全く知らない方でも、ひと目で分かります。

 さ、庭に出ましょう。着いてきて下さい」


 マツとクレールを連れて、庭に向かうカゲミツ。

 その心中は・・・


(ぷっ! この2人の驚く顔が目に浮かぶぜ! マサヒデ! 一本もらうぜ!)


 庭に出ると、巻藁が立っている。

 『鑑定眼を持った娘が来る』と聞いて、カゲミツが用意させておいた物だ。


「さて、マツさん。こちらを持って頂けますか」


 すらりと三大胆を抜き、マツに握らせる。


「え、え、私、刀なんて・・・」


「大丈夫です。さあ、そこに立っている巻藁の前に」


「まきわら?」


「その立っている棒です。藁が巻いてあるやつです」


 マツが三大胆を持って、恐る恐る巻藁に近づく。


「その刀、きらきらしてるでしょう?

 ちらっとで良いので、その光を、その巻藁に当ててみて下さい」


「こ、こうでしょうか・・・?」


 くい、と手首を回してみる。


「はい。では、その刀、巻藁に刺してみて」


「え?」


 驚く顔のマツ。


「大丈夫ですから。そっとで構いません」


「私、刀なんて・・・」


「本当に大丈夫です」


 ぎゅっと三大胆を握って、マツは「えい!」と巻藁に刺してみるが・・・


「あ、あれ?」


「ふふふ。どうですか?」


「・・・これ・・・あれ?」


 刀が巻藁に突き刺さっている。向こう側まで・・・

 何の抵抗もなく、するっと抜けたのだ。


「わあ! マツさん! すごいです! マツさんて、剣もすごいんですね!」


 クレールが声を上げる。


「い、いえ、私では・・・あれ?」


「さあ、マツさん。刀を横に向けてみて」


 刀は巻藁に刺さったまま。

 言われるままに、握った刀を横に向けてみる。


「あ!」


 突き刺さった刀が、くるんと簡単に横を向く。


「さ、そのまま、ゆっくり横に」


「は、はい・・・」


 何の抵抗もなく、刀が横に抜けていく・・・


「・・・」


 驚いて、マツが刀を見つめる。

 これが、日輪剣・三大胆・・・


「どうです? ホルニコヴァさんが驚いたわけ、分かりましたか?」


「はい・・・私も驚きました・・・」


 マツは目を丸くしている。

 カゲミツはマツの手からそっと三大胆を受け取り、鞘に収めた。

 クレールの方にくるりと振り返る。


「さて、次はクレールさんにも驚いてもらいましょう」


「え! 私もですか!?」


「これを」


 さっき、色が変わった刀・・・


「そのまま抜かないで、その持ち手の所を握ってみて下さい」


 クレールが恐る恐る握ってみると、何か温かい感じがする。


「・・・何か、あったかい感じが・・・」


 カゲミツがにやりと笑う。


「じゃあ、そこを持ったまま、あの木の方まで走ってもらえますか?」


 カゲミツが庭の隅にある木を指差す。


「え? でも・・・」


「ドレスなので走りづらいと思いますが、まあ走ってみて下さい」


「わ、分かりました」


 とすとす、と走り出すクレール。


(あれ?)


 すぐに異常に気が付いた。

 息が切れない。

 足が軽い。

 思い切り走ってみる。


(あ! 疲れない! 全然・・・)


 そのまま、木に向かって走る。

 全く息が切れない!

 足も痛くない!


「わあ! すごーい!」


 ドレスを翻し、ぱたぱたと走り回るクレール。


(ふふふ・・・かわいいもんだ)


 走り回るクレールの姿を見て、にやにやするカゲミツ。

 しばらく庭を走り回って、クレールが戻ってきた。


「す、すごい! これ持ってると、疲れません!」


「ね? これはホルニコヴァさんも驚くでしょう?」


「私もびっくりしました!」


「その刀は、抜くともっとすごいんですけど、ちょっと危なすぎるので・・・

 さて、では最後にこちら。ちょっと私には長過ぎるんですけど」


 カゲミツがすらりと魔神剣を抜く。


「わあ、ほんとに真っ黒ですね・・・」


「ええ・・・」


「では、ちょっと見てて下さいね」


 カゲミツが庭石の方へ歩いていく。

 石の前に立ち、がんがんと刀の刃をぶつける。


「あ! お父上! そんなことをしたら!」


「大丈夫ですよー!」


 そのまま、がんがんと叩きつけ、2人の前に戻って来た。

 そして、刀を地面と水平に、刃を上に向けて、2人の前にすっと出す。


「さあ、よーく見て下さい。傷とか、欠けてる部分、ありますか?」


「・・・」


 2人がじっと刀を見つめる。


「・・・ない・・・全然、傷が、ありません・・・」


 黒い刃は、剃刀のように綺麗なまま。


「どうです? すごく丈夫でしょう?」


「はい・・・すごい硬さなんですね・・・」


「実は、この刀、硬いだけじゃないんですよ」


「まだあるんですか?」


「はい。見てて下さいね」


 ひゅん、と刀を振ると、立ててある巻藁に、根本まで突き刺さる。


「わあ! すごい!」


 クレールが声を上げる。

 だが、投げて突き刺すだけなら、それなりに修練を積んだ者なら誰でも出来る。


「あ、ちょっと危ないかもしれないので、お二人共、少し下がって下さいね」


 2人が下がった所で、カゲミツが手を刀に向かって差し出すと・・・


「ああ!」


 刀がカゲミツに向かって、すごい速さで飛んでくる!

 マツが目を閉じる。

 ぴたり。

 柄の部分が、カゲミツの手で止まる。


「も、戻った・・・ですか・・・?」


 クレールの言葉を聞いて、マツも恐る恐る目を開ける。

 カゲミツの手の所に、刀が戻ってきている。


「ええ。けっこうな速さで戻るので、念の為に下がってもらいましたけど、このように、持ち主の手に戻ってくるんですよ」


 宙で止まった刀を、す、と握るカゲミツ。


「へえ・・・」


「すごい・・・」


 2人は目を丸くして、刀を見つめている。


「では最後に。この刀が魔神剣、魔神の剣と呼ばれる訳を、お見せしましょう。

 では、お二人共、縁側で座って見てて下さい。絶対に近付いてはいけませんよ」


「は、はい」


 マツとクレールは縁側まで歩いて行って座る。

 見逃すまい、と真剣な目でカゲミツを見つめる2人の目。


「では、行きますよー! しっかり見てて下さーい!」


(くく! マツさんはえれえ魔術師ってことだけどよ! これは絶対ビビるぜ!)


 カゲミツが刀をまっすぐ空に掲げる。

 急に、空が曇ってきた。

 雲が渦巻いている。


「あれ、雲?」


「何か変ですよ、あの雲・・・」


 ぴかっと空が光った瞬間、カゲミツに雷が落ちた!


「お父上!」「お父様!」


 2人が驚いて立ち上がるが、カゲミツが声をかける。


「大丈夫ですよー! そこで見てて下さーい!」


 カゲミツには何の異常もないようだ。

 そして、カゲミツが巻藁に向かって刀の先を差し出すと・・・

 光が巻藁に向かって飛んだ瞬間、ばあん! と大きな音がした。


「あ!」


 まるで雷の魔術ではないか!

 だが、その威力は尋常の魔術の比ではない!

 巻藁は粉々になり、欠片もない。

 地面に刺さった根本の部分だけが、焼け焦げて煙を上げている・・・


「・・・」


 マツとクレールは驚いて、言葉も出ない。

 すたすたとカゲミツが歩いてきて、2人の前に立つ。


(わははは! 驚いて声も出ねえようだな!)


「これが、魔神の剣・・・魔神剣と言われる理由なんですね・・・

 お父様の魔術みたいです・・・」


「すごかったです・・・刀が、まるで、魔術のようなことまで・・・」


「さ、上がりましょうか。ちょっと驚かせてしまいましたかね」


 すらりと魔神剣を収め、カゲミツは歩き出した。

 マツとクレールも、驚いてふわふわしながら、カゲミツに着いていく。

 部屋に戻りながら、カゲミツは心の中でげらげら笑っていた。


(うははははは! この俺をビビらせようなんて、100年早いつーの!)


 ラディを喪失させ、マツとクレールを驚かせ、この勝負は俺の勝ちだ!

 にやにやするカゲミツ。

 だが、勝負はまだ終わっていない。

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