超マニュアル警察署

羽弦トリス

第1話自首

私の名は、先崎純也37歳。

今朝、10年間一緒に暮らしてきた妻のひとみを包丁で刺殺した。

原因は、妻の不倫だ。

たまたま、朝ご飯を作る妻のスマホを見ると知らない男と肩を組み合っている写真を見つけた。

私は、妻を問いただすと、あっさり不倫を認めた。

そして、野菜をカットしていた包丁で刺殺したのだ。

私はとんでも無い事をしでかした。リビングでタバコを一本吸うと、歩いて15分の警察署へ自首しに向かった。

警察署には立哨する警察官がいて、その警察官に告げた。

「あ、あの。私は妻を殺害しました。自首します」


警察官は眉間にシワを寄せ、

「今、立哨中なので要件は受け付けに言って下さい!」

私は少し面食らったが受け付けの、警察事務の職員に告げた。

「すいません。私は今朝、自宅で妻を殺害しました」

「はい、分かりました。しばらく、お待ち下さいね」

警察事務の男性職員は、隣の女性職員に声を掛けて、2人して何やら分厚い電話帳ほどの本を読んでいる。

そして、女性職員が、

「ええっと、警察は初めてですか?」

「初めて?……あ、3年前にスピード違反で捕まりました」

「その事件は、ここの署の管轄内でしょうか?」

「あの、歩いて15分の場所です」

「……わっかりました。取りあえず、初回の事件なので、3番窓口の新規事件のカウンターに向かって下さい」

「はい」

私は、妻を殺害したのだ。何で、警察は冷静なのか?犯人だぞ!

私は、3番窓口に向かった。

「あ、あの今朝、自宅で妻を殺害しました。自首します」

メガネを掛けた男性職員は、

「取りあえず、番号札をお取り下さい。そして、この用紙に住所、電話番号、事件の内容を記入して下さい」

「私は、妻を殺したんですよ!」

「そこのあなた、困りますよ」

声を掛けて来たのは、50代らしき巡回の警察官だった。

「お巡りさん、自首します」

「参りましたなぁ〜、お客様。ちゃんと、マニュアル通りの手続きを取らないと警察も動けんのです。だから、落ち着いてそこの席で必要事項をご記入下さい」

な、何なんだ?警察官が殺人犯を「お客様」と、呼んでるぞ。

私は冷静になり、用紙に必要事項を記入したが、何だこれは?


記入書

1番。いつ頃の事件ですか?

2番。何の事件の処理ですか?

3番。110番はされましたか?されて無ければ、先ずは110番をお願いします。

4番。本件は警察の処理をお望みですか?

5番……

……

「104番の方」

私は3番窓口の職員に言った。

「あ、あの110番してないのですが」

「は?困りますよ、お客様。一度、自宅戻り110番して下さい」

「110番も何も、私が犯人なんですよ」

「規則は、規則ですから」

私は来た道を戻った。

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