語らない美しさがすてき

あらゆる場面で『すれ違い』を想起させるお話だったように思います。結論から言えば、恐らく先輩も泉も互いに想い合っているのに、相手を気遣うあまり的外れになっている憶測から、ふたりの気持ちが噛み合わずにお話が進んでいきます。

泉のあえて先輩を突き放すような言動は、第三者からすれば隠したい好意の裏返しのようにも感じます。でも実際に言われてみれば、そんなポジティブに捉えられるわけがなく。それは先輩にも言えることで、先輩のわりとストレートな好意の言葉を、泉はきっと(先輩が優しいだけ、気を遣われてるだけ)なんて風に感じ取ってしまっています。それが同性なら、なおさら。2人が普段どんなやりとりをしているかは描写されておらず、余白に想像をさせますね。しばらく会っていなかった久しぶりのやりとりであんなことを言われてしまったら、まぁ、困るよねえ。わかる。

そんな2人の想いのすれ違いが愛しくもあり、同時に危うくもある。結局のところ、恐らく前向きで好意的ではあるのがなんとなく察せるものの、泉の気持ちがはっきりと語られることはありません。2人の関係が完結せずに、曖昧なまま幕を閉じるのも芯が通っていて、全体を通して『語らない美しさ』を強く感じさせるいいお話だと思いました。すてきです。